【第14話:あまいお話とあまくないお話】
今夜は晴れ上がり、丸々とした上弦の月が誇らしげにのぼった。
細い出窓から斜めに差し込んだ月光がカーニャの横顔を照らした。
伏せられた目はまだ寝ていない気配が残ると見て、声をかけるユア。
「ねぇ?」
隣に寝ているアミュアを起こさないよう、向かい側のロフトに聞こえぬよう、最小にしぼった声がカーニャに届く。
「もう寝ないとアミュアに怒られちゃうわ」
カーニャも最小にしぼりユアの顔の側までいってささやく。
クスリとした微笑みがついてくる。
言葉と言葉のあいだにたっぷりの余韻をはさむ、深夜のないしょ話は二人の大好物だ。
夜ふかしして翌日寝坊するとアミュアに怒られてしまう。
アミュアは寝付きが良く、こういったイベントに参加できずふくれるのだ。
「ずっとね‥‥考えてて。カーニャに言いたかったの」
ユアもカーニャのマネをして、カーニャの耳元に囁く。
アミュアとは違う、少し大人っぽい甘い匂いがした。
じっと至近距離で見つめ合ってにこにこする二人。
カーニャが近づいたので、もう同じ枕に横になり向かい合っていた。
いつまでもユアが話さないので、しかたなくまた近づいて耳元に訊く。
「なぁに?」
にっこりするユア。
カーニャが返事してくるのをまっていたのだ。
さらに近づいたユアがぴととくっついて耳元にささやいた。
「カーニャはきっと上手にできるよ‥‥」
意味がわからずかあっと真っ赤になるカーニャ。
もうお互いの顔もみえない距離で、互いの耳だけに話しかけているのだ。
話す方だけ横を向く会話。
「どうゆう意味よ?わかんないわ」
聴きたい方は少し上を向くのだが、面倒になったユアがカーニャに覆いかぶさり互いの口元に耳を持ってくる。
「前に言ってたじゃない、スライム退治のあと」
「ん?なんだっけ?」
「バディを組んでも上手にできないって」
あぁと、納得のカーニャ。
勘違いで、大分大人っぽい想像をしてしまっていた。
密着するとさらに心を開いてしまう。
互いの温度が口を軽くして、気持ちが素直に伝わってしまう。
ほろ酔いの心地よさのように。
ユアがささやき続ける。
やさしい小さな声でカーニャの耳に吹き込んだ。
「あたしもカーニャとは喧嘩したりしたくないけど、ああゆうにカーニャが困ってるんじゃないかなって思うと、ちょっと心配になっちゃう」
ユアにしては珍しい長文を、カーニャの耳にささやきいれる。
すこしくすぐったいが嫌な感触ではない。
ユアは本当は、一緒に来て欲しいと言いたいのだ。
カーニャには察しられたが、押し付けない優しさも受け取る。
ちょっとだけその優しさに甘えることにした。
「ありがと」
カーニャもそっとユアの耳に唇を添え囁くのだった。
「いつかまた、一緒に旅にいきたいな」
ぎゅっと抱きついて甘えるようにユアが言う。
ユアはお姉さん気質だが、甘えるのも上手である。
「うん‥‥きっと楽しいわね」
しばらく待っていると、ユアが若干重くなる。
すうすうと寝息にかわったユア。
(ねちゃったなユア)
ちょっと重かったので、となりにそっと下ろすカーニャがユアの寝顔を見下ろす。
安心したような、にこりとした微笑みで寝ている。
そっとカーニャの唇がユアの耳にちかづく。
「優しい子‥いい子ね」
耳の横にあるユアのほほが急に愛おしくなるカーニャは、そっと唇を添えるのだった。
母が我が子に落とすキスのように。
翌日ハンターオフィス2階の会議室に集まる一行。
マルタスを含めて、ユア達も全員参加だ。
最初の議題はカーニャを呼び寄せた案件。
ユア達のBクラスパーティの件だったが、王都からの返答はあくまでユア・アミュアのバディに対するものだと、クリアすれば同時に個人としてもBクラスにするとも返答が来たとマルタスから報告だった。
次にユア達からレヴァントゥスの手紙の一部「ルメリナに危機が」の部分も報告した。
賢者会の名を聞いたマルタスの反応は、昨夜のカーニャと同じだ。
青ざめたのだ。
マルタスが一度目を閉じ熟考してから話し出す。
「この件は俺が預かる。お前らは一切関わることを禁ずる」
ぶーぶーとユアやノアは不満そう。
「遊びじゃなくなる。七星賢者会はそうゆう相手だ」
カーニャはうなずく。
ラウマとアミュアは首をかしげ、ユアとノアは不満顔。
「・・・若い頃な、賢者会と揉めたことがあるんだ。結構ガチにな」
マルタスの表情は冗談を受け付けない表情。
そうして真面目に話すと、ちゃんと大人の凄みがあるのだった。
「何人か犠牲も出たし、手打ちになるまでかなり苦労した。俺の上司の首が飛んだな。あんときは」
じっとユアとノアを交互に見る。
「軽々しく関わるんじゃねえぞ。大人に任せておけ、この件は」
ちょっと威圧を含む迫力があった。
ユアはマルタスの心配する親心みたいなものを受取り、ちょっと感動する。
ノアはやっぱりわかんない、といった顔。
ノアの頭をぽんぽんとして、カーニャもフォロー。
「ノアも言う事聞いておこうね。もし叶うならお願いしたいこともあるんだけど?」
頭にカーニャの手を乗せたまま、くりっと見上げるノア。
「なになに?たのしいこと?」
ちょっと期待した雰囲気でにんまり。
「ノアとラウマは時間が出来たでしょ?試験いかないし」
うんうんと二人はうなずく。
「できたら王都でミーナを見守って欲しいの。ずいぶん王都を開けちゃったから心配なのよ」
にっこりするカーニャ。
「依賴扱いでオフィスに指名クエスト出すから、報酬ははずむわよ?」
「やったー!!いくいく」
「カーニャ、あまりノアを甘やかさないでくださいね、ミーナはわたくしがしっかり見ていますから、ユア達をお願いします」
喜ぶノアと安心させるように笑顔で受けるラウマ。
「おねがいね。ユア達の事はまかせて」
そうして一旦は方針が決まるのだった。




