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【回顧2:少年未満と少女程度】

くらしていくうちに、いろんな色がぬられていきます。


青や赤、きれいな色もあれば、ちょっとかなしい色もあります。



ーーーー

翌日目覚めるとマルコは誰かが近づいてくるのに気付く。

あわてたマルコは祠の中に隠れるのだった。

気配はどんどん近づき、女神の像に向かうようだ。

マルコは隠れる所がないので、女神像を背負いそのうしろに立っていた。

(じっとしていればわからないはず)

カサカサと何か気配があり、女神像の足元で動く手が見えた。

あわてたマルコはさらに身を縮めるのだが、気配を察しられてしまう。

「だれかいるのですか?」

高い声は少女のものだった。

「そういえばパンが残っていなかったな?森の獣もラウマ様から持っていったりしないのに」

ぎくっとするマルコはどうして良いのか考えつかず、目を閉じて震えていた。

まもなく声が掛けらる。

「あら?君どこの子?どうしたの随分汚れてしまって?」

あきらめて目を開けたマルコの前には、像を回り込んだ少女が見下ろしていた。

少女のほうが少し背が高いのだった。

10歳程度の幼さの残る少女。

さらりとした髪は薄茶色で肩まで流れている。

整った容姿はどこか女神像に似ているとマルコは思った。

「わたしはエイリス、このラウマの祠を守る一族の者です」

マルコが震えながらだまっているので、不審に思ったエイリスは首をかしげ尋ねる。

肩までの髪がさらりと揺れた。

「あなたのお名前は?」

差し伸べられた白い手は、マルコには眩しく感じられまっすぐ見ることが出来なかった。


エイリスは祠から半日ほど離れた集落に住んでいた。

幼い頃から巫女として修行し、母に作法と口伝を教わっていた。

10才になったエイリスは祠の通常神事、つまり掃除やお供えなどの日常業務を任されるまでになっていた。

巫女の家系は魔法技能に優れ、身を守るそれなりの技能も身につけていた。

初級の攻撃魔法は一通り、結界魔法も一部を習得している。

「マルコは8才なのね、わたしは今年10才になったのよ」

そういって手を引かれ獣道をすすむマルコ。

疲れと空腹で足元はおぼつかないが、エイリスがさりげなくペースをあわせてくれていた。

「もう少しで家につくから頑張ってね」

エイリスの微笑みはマルコにわずかながら力を与えてくれた。


小さな集落だった。

家が4件、畑も細々としか無く5人と育むことは出来ない大きさ。

森の恵みもあってはじめて4つの家を支えていたのであろう。

そのうちの一番大きな家に、エイリスはマルコをいざなう。

大きいといってもマルコの生まれた村にある、一番小さな家よりも小さく貧しかった。

壁は殆どが布の仕切りで、かまど回りだけ土壁だった。

二人の子どもがいるだけでそれなりにスペースが埋まってしまう。

残りの3軒は更に小さかった。

これが異教徒の暮らしなのかと、マルコはショックを受けた。

自分の村も貧しいと思っていたのだ。

「そこに座っていて」

エイリスはかまどで湯を沸かしていた。

熾火が有ったのか、それほど時間はかからず粥のようなものが出てきた。

「こんなものしか今は無いのだけど、朝にはパンを焼いてあげるね」

ニコとわらったエイリスに「ありがと」と消え入りそうに告げ受け取るマルコ。

欠けた木のサジですする粥は貧しいものだったが、とてもあたたかくマルコは腹から全身が満たされる感覚を覚えた。

弱っていたマルコの体には質素な粥がむしろ適していたのだった。


すぐに眠ってしまったマルコに、タオルや薄掛けなど有り合わせのように見える寝具を与えるエイリス。

実はこの集落には今エイリスしかいないのだ。

母を含めた大人は全員近くの町に駆り出されていた。

戦争が有ったのだ。

マルコの村を焼いた戦火は、この森にまで迫っていたのだ。

マルコを寝かせてから、火の始末をすませエイリスは出かける。

日課でもある木の実集めと、小動物向けの罠の確認。

畑の水やりなど、することはいくらでもあるのだ。

集落には二組の夫婦と、エイリスと母の二人。

森の動物を狩るハンターの7人が住んでいた。

エイリス以外は大人であった。

エイリスの父は幼い頃に、病で亡くなったと聞いた。

この集落は近くのラウマ像を守る一族の生き残りだった。

マイノリティであり、国家としてはミルディス公国に組み込みつつ、異教徒として遠ざけられていたのだ。

(異教徒と嫌っておいて、力を貸せっておかしいよ)

エイリスは年の割にしっかりとした考え方が出来る。

畑に井戸から水を撒きおわり、次は森に入っていく。

数日前に町の役員だと名乗る男が集落に来た。

声を出さないよう注意してエイリスを家に残す母。

話し合いはエイリスの母が対応し、ずいぶん言い合いになっていた。

家の中で勉強していたエイリスを、涙を流した母が入ってきて抱きしめる。

色々と説明を聞いたが半分くらいしか解らなかった。

いずれ、エイリス以外は町にいくらしいと、そこは理解できた。

いや、そこ以外理解したくなかったのだ。

(早くおかあさん帰ってこないかな‥‥)

さといエイリスは一週間経っても連絡がない時点で、その願いが叶わないことを察していた。

エイリスを支えていたのは母から教わったラウマ神の教えだった。

(手を差し伸べるのをやめてはいけない)

教えには困っている人を助けよとあるのだ。

その教えは尊く正しいとエイリスにもわかる。

(でも‥‥)

その先を考えてはいけない。

何度も母に叱られ学んだ教えであった。

木の実を集めながら獣道をすすむエイリス。

慣れた道だが草木の成長は早く、時々草が当たり頬や腕を切ってしまう。

血は流れないのだが、少しかゆくなる。

エイリスの衣服は、森を歩き回る装備ではないのだ。

やっと教わっていた罠の場所につくが、今日も獲物はかかっていなかった。

本当は落ち葉などで偽装し、罠のメンテナンスが要るのだが、そこまでエイリスは理解していない。

何度見に来ても獲物はかからないであろう。

かなりの時間をかけて集落の回りを一周してきたエイリス。

腕にかけた籐籠には成果が乏しい。

本来何度も回るルートではないのだ、途中で分岐し次回はこちらと回るのが本当だ。

そこまで大人たちはエイリスに教えていなかった。

一人でここに置いていくなどと、想定していなかったのだ。


家に戻るとマルコはまだ寝ていた。

エイリスは一人になってから、することがない時は勉強をしていた。

母にずっとそのように指導されていたのだ。

エイリスの母は集落の巫女で、かつての繁栄していたころには領主のような立場だったらしい。

集落の皆は巫女様と母を敬い、娘もおろそかには扱わなかった。

母が子供の頃はもっと西の平原に住んでいたのだと聞いた。

実際母の隠している巫女の衣装などはとても豪華できれいなものだった。

何度かその白い清らかな衣装を、母が着ているのを見たことが有った。

年に何度か有った神事に携わる時着るのだ。

それは美しく神々しく子どもながら心打たれる儀式であった。

(いつか大きくなったらエイリスがするのよ)

時々そういって母に励まされ、修行や勉強に取り組んできたのだ。

今もそうやって教わった祝詞を書き出す修行を兼ねた勉強をしていた。

そうして眠くなるとまだ起きないマルコの背中側に潜り込み、一組しか無いその寝具を分け合い寝たのだった。

(明日の朝になったらこの子を徹底的に洗おう)

据えた匂いに顔をしかめたエイリスは、そう心に誓うのであった。



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