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【第9話:再会は秋やすみとともに】

平原に大きな街道が南北に伸びる。

ヴァルデン王国の王都を縦貫し、北はスリックデンに南はポルト・フィラントまで伸びた大街道だ。

その王都の北にはアウシェラ湖という巨大な淡水湖がある。

街道の横にひろがるそこには、夏には海が遠いこの地域で湖水浴が楽しめるビーチがある。

また、湖の誕生伝説にまつわる口伝で、お祈りのスポットとしても有名だ。

その大街道近辺をアウシェラ湖に向かい駆け抜ける黒い獣がいる。

アビスパンサーの夜霧だ。

丘の頂上で一度停まった。

「夜霧ありがとう、もうすぐ着いちゃうね」

夜霧の上にはアミュアが騎乗していた。

やさしく首を撫でると、目を細めてアミュアの手に頭を擦り付けた。

手慣れた手綱さばきで軽快に駆け抜ける二人は、ルメリナから半日でアウシェラ湖が見える丘まで来ていた。

本来の街道はルメリナからスリックデンを経由し南下するのだが、今日はほぼ直線でアウシェラ湖を目指してきた。

丘から見る大街道の東側は、向こう側がすべてアウシェラ湖に見える。

先は霞んで見えないのだ。

「ええと、待ち合わせはあっちの展望台のところですね」

とんと鐙を打ち、飛ぶように夜霧が進む。

アミュアの右手には二つの指輪。

一つはミーナとお揃いで買ったあの木工指輪。

もう一つはユアから借りてきたテイムの指輪で、その効果で夜霧を召喚出来るのだ。

街道を越え、展望台の丘の麓に大きな駐車場がある。

夜霧を降りたアミュアは、回り込んで巨大な夜霧を抱きしめる。

なんか慣れてると自分でも思ったが、その姿はかつて異世界でグリフォンたちを抱いた姿勢だった。

(大きさもおなじくらいだしね)

にっこり笑うアミュアに全身をこすりつけ、するりと影に消える夜霧。

望むまで影に潜み近くにいてくれるのだ。

ちいさく手を振り見送ったアミュアが、振り返り展望台をめざした。

(もう来てるのかな?ミーナ)

手紙には今日の午後とあったが、まだ正午をいくらも回っていない。

(少し早すぎたかも。いなかったら夜霧でしたのホテルまで行ってみよう)

アウシェラ湖の南岸は、幾つもホテルが並ぶ観光地になっている。

街道に近いホテルには何度か泊まったことがあった。

ミーナとも一緒だったので思い出の宿でもある。

展望台まで登ったが、季節の変わり目であまり人気はないのか閑散としている。

さらさらと湖面を渡る風が見えた。

(ミーナは‥‥いないな。やっぱり早すぎたのかも?)

小さめの懐中時計で時間を見たアミュアは、一度麓まで下りて時間を置いて来てみようと思った。


それからアミュアはホテル街の小道でふらりと買い物や、買い食いを堪能する。

そこには在りし日の思い出達がキラキラと散りばめられていた。

(そう言えばどうやって来るんだろう?書いてなかったな手紙には)

そう想いながら駐車場に戻ると、疑問は解消された。

見覚えのある巨大な馬車が停まっていたのだ。

夏休みにみなでポルト・フィラントまで乗った、ヴァレンシュタイン家の巨大馬車だった。

夜霧を影に戻し、小走りに馬車を目指すアミュア。

見慣れた金髪のおかっぱを見つけ声をかけた。

「ミーナ!」

くると振り向いたミーナも駆けてくる、白いワンピースが揺れて初速が速い。

見切ったアミュアが腰を落としそなえると、ドーンと飛び込んでくる。

「アミュア!!」

ひしっと抱き合った二人には前ほどの身長差がなく、受け止めた体はずっしりと重かった。

しっかり供えてお腹に力を入れていたので、今回は無様な声が漏れるようなこともなかった。

「アミュア!あいたかったよ!」

よしよしと頭を撫でてあげると目を細めるミーナ。

「ミーナまた大きくなった気がします。ちゃんとお肉も食べていますか?」

「姉さまみたいなこといわないで!‥‥たべてるよ?‥‥少しは」

ミーナの偏食は肉全般で、アミュアも心配していたのだ。

ただ抱きしめたミーナに、昔の弱々しさはなく安心するアミュアだった。

最後にもう一度ぎゅっとすると、離れるアミュアをミーナもぎゅっと一度強く抱き返した。

それはあの小さかったミーナが離れるのを怖がるように、べたべたしていた時期とは違い、何かを確かめるようなそんな抱擁だった。

ミーナの後にはいつものメンバーが揃っていて、懐かしい顔ぶれがならぶ。

「レティ、みんなもひさしぶりです」

アミュアの挨拶に会釈で返すセレナとフィオナの侍女二人と、もじもじ手をふるレティシア。

アミュアが察して手を開くと、ぴとっと抱きついてくるレティシア。

「レティも大きくなったね、すこし背も伸びたかな?」

年齢はたしかミーナより上で16才になったはずとアミュアは思い出した。


ミーナもレティシアも、小柄なアミュアより少しだけ背が小さい。

レティシアは年齢にしては小柄で、お肉も少なめだ。

ミーナと同じようにぎゅっと抱いて離すと、頬をそめて嬉しそうにしている。

「そうなんです、ミーナと同じくらいですが伸びました」

はにかんだレテシィアがとても可愛いので、これ以上大きくならなくても良いなとアミュアは思った。


「秋休みっていつまでなんですか?ミーナ」

馬車に乗ってホテルに移動となったので、侍女達が運転して客室にはレティシアとミーナにアミュアだけだ。

ミーナはまだ14才だったはずだが、病気がなおってからはすくすく育ち今では年齢以上に大きく見える。

姉のカーニャも発育が良いので、これが本来なのであろう。

「明日までなの、もっと休みが欲しかったな4日しかないのよ」

「次は冬休みが長期休暇になりますね。秋休みっていうよりもテスト休暇ですね」

左右からくっつくミーナとレティシアが交互に説明してくれた。

「でもよかったのかな?エーラの分のチケットなんでしょ?」

今回のお誘いの趣旨は、学院の文化祭で手に入ったアウシェラ湖のイベントチケットが一枚余るのでどうかというものだったのだ。

「エーラはポルト・フィラントのほうがいいんだって。おかあさまに甘えたいのよきっと」

エーラの母親の回復を、ミーナも嬉しそうに言うのだった。

そんなほのぼの時間を満喫していた3人に、前の方の運転席から悲鳴のような警告。

「あぶない!!なにかに掴まって!!」

ガシャアァン!!

「キャァァーーー!!」

「セレナ!!」

声とほぼ同時に大きな音とガラスの割れる音が響く。

馬車は何かにぶつかったのか、前に向かいとてつもない力で3人も吹き飛ばされた。



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