【回顧1:プロローグ】
第三部スタートです。第一部「わたしのつなぎたい手」第二部「わたしがわたしになるまで」を先にどうぞ。続きのお話です。
むかしむかし、人はみんな、小さな光のたまで生まれてきました。
その光はまっしろで、すきとおっていて、やさしいひかりを放っていました。
けれど、くらしていくうちに、いろんな色がぬられていきます。
青や赤、きれいな色もあれば、ちょっとかなしい色もあります。
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少年は全てを失いここにたどり着いた。
育った村も、家族も。
何日も森をさまよい、食事も水も与えられず。
朝露をすすり木の実を集め、寒さに凍え至ったのだ。
少年の名はマルコ今年8才になったばかりだった。
涙は初日で枯れ果て、声も二日目には出なくなり、今日には視界も定かでは無くなっていた。
まもなく失われるはずだった命が泉にたどり着く。
午後の光は濃い緑をすかし柔らかく神秘的に泉を見せる。
深い森の奥に隠されていた、美しい青い水が乾いた少年を潤した。
しばらく休んでいると少年はすぐ近くに、葉をすかした緑で染められる白い石の祠を見つた。
そこまでよろめきながら近づくマルコ。
近づいてみると祠は思っていたよりも大きいことがわかる。
何段かある階を上ると、そこには白い大きな石像が有った。
薄暗い祠の中にあるのは、優しい微笑みを浮かべた女神の立像だ。
日陰に立つ像は反射を受けて照らされ、浮き上がって見える。
女神は微笑みとともに両手をマルコに差し出していた。
見たこともない美しい姿で、マルコはこわごわその手を取る。
石でできた冷たい手だが、マルコの壊れかけた心に確かに癒やしを与えるのだった。
そうしてぽーっと女神の顔を眺めて手を繋いでいたマルコのおなかが鳴る。
とても空腹だったのだ。
そうして手を離してお腹を両手で押さえしゃがむと、そこに丸いパンが供えられていた。
女神の足元に紙をしき置かれたそれはお供え物。
マルコの生まれたミルディス公国では、異教徒はけがれたものと言われ忌避されていた。
偶像も禁止され、まして偶像に捧げられた異教徒の供物など、汚物以下と教会に教わる。
捧げられ時間のたったパンには、カビが浮き香ばしさもなかったが、お腹がすいているマルコにはごちそうに見えた。
(これはけがれたもの。口にすればただれて死ぬ?)
マルコの故郷ではそう習うのであった。
マルコはとても迷いましたが、3日もろくなものを食べてなかったので、とても食べたいと思った。
(少しだけなら…?でも、食べたらけがれが…?)
少しだけ時間が経過し、泉の水だけ腹一杯に飲んでみたが、満たされない。
誰も訪れるものもいないようで、咎めるものとていない。
マルコは誘惑に負け、カビをこそげ落とし口にした。
味はともかくお腹は膨れたので幸せになり眠気がおそった。
ころんと寝転んだマルコは女神像を見上げる。
(すごくきれいだな‥‥どこもけがれていないと思うのだけど‥)
そうしてだんだん眠くなりそこで寝てしまうのだった。
翌日目覚めるとマルコは誰かが近づいてくるのに気付く。
あわてたマルコは祠の中に隠れるのだった。
気配はどんどん近づき、女神の像に向かうようだ。
マルコは隠れる所がないので、女神像を背負いそのうしろに立っていた。
(じっとしていればわからないはず)
カサカサと何か気配があり、女神像の足元で動く手が見えた。
あわてたマルコはさらに身を縮めるのだが、気配を察しられてしまう。
「だれかいるのですか?」
高い声は少女のものだった。
「そういえばパンが残っていなかったな?森の獣もラウマ様から持っていったりしないのに」
ぎくっとするマルコはどうして良いのか考えつかず、目を閉じて震えていた。
まもなく声が掛けらる。
「あら?君どこの子?どうしたの随分汚れてしまって?」
あきらめて目を開けたマルコの前には、像を回り込んだ少女が見下ろしていた。
少女のほうが少し背が高いのだった。
10歳程度の幼さの残る少女。
さらりとした髪は薄茶色で肩まで流れている。
整った容姿はどこか女神像に似ているとマルコは思った。
「わたしはエイリス、このラウマの祠を守る一族の者です」
マルコが震えながらだまっているので、不審に思ったエイリスは首をかしげ尋ねる。
肩までの髪がさらりと揺れた。
「あなたのお名前は?」
差し伸べられた白い手は、マルコには眩しく感じられまっすぐ見ることが出来なかった。