196話─逆襲の竜剣士
ポータルすらも飛び越え、雲の上へと飛び出したミサキとプラウダー。太陽が照り付けるなか、掴んでいた首根っこを離しミサキは強烈な蹴りを叩き込む。
「フッ! さあ、これくらいでいいかな。あまり高度を上げすぎると、今度は呼吸に難儀することになるからね」
「チッ、やってくれたな。ここまで打ち上げられちゃあ、雲の下にいるユウにアンチヴェルドコードの力を波及させるのは不可能。やれやれ、メンドクセェもんだ」
「安心するといいさ、憂うことはもう何もなくなるよ、君の死によってね! 簒奪者プラウダー、その命貰い受ける! 九頭龍剣技、壱ノ型! 菊一文字斬り!」
「ハッ、そんな大振りなテレフォンパンチ……いやスラッシュか、んなもん当たるかっつのよ。雲の上でもよ、光明神の力は使えるんだぜ! ヘビークラウドキャノン!」
突進しつつ袈裟斬りを放つミサキだが、プラウダーに軽く避けられてしまう。一旦距離を離したプラウダーは、指輪の力を使い周辺の雲を自身の周囲に引き寄せる。
「知ってるか? 雲ってのはよお、大気中の水分で出来てるんだぜ。暖めれば蒸気に、冷やせば水を経て……こうやって氷の塊になる! 土手っ腹に大穴開けてくたばりな!」
「へえ、なかやかやるね。でも、半異邦人の私に初歩の科学を解くなんて笑止千万。そんなことは幼児の頃から知ってるさ! マギドラエスケープ!」
雲を構成する水分を凝縮、さらに冷却して氷の砲弾へと変化させる。それを突風に乗せて撃ち出したのだから、直撃を食らえばただでは済まない。
胴体への直撃は言わずもがな、手脚にかすっただけでも致命傷になるのは明白。そんな攻撃を前に、ミサキは臆さず突進する。すり抜けるように砲弾をかわしてみせた。
「肉薄したよ、今度こそ食らうがいいさ! 九頭龍剣技、壱ノ型! 菊一文字斬り!」
「やべ……がふっ! チッ、避けねえで突っ込んできやがるか。少し油断が過ぎたか……ったく」
「フッ、言っただろう? 私はシャーロットたちと共に、あの敗北から三ヶ月……己を鍛え続けてきた。手も足も出ない敗北など、二度と……いや、三度味わわぬために」
今度は風に乗っての回避が間に合わず、プラウダーは攻撃を避け損ね右脇腹を斬られることとなった。まだ傷は浅いが、完全に無視していいレベルではない。
己の醜態に舌打ちするプラウダーへそう告げるミサキの脳裏によみがえるのは、苦い敗北の記憶二つ。一つは、ユウのかつての母魔夜との初戦。
もう一つは、三ヶ月前に起きた簒奪者たちとの戦闘。そのどちらでも、ミサキは敗北を喫し……忘れ難い屈辱を、その心に刻むこととなった。
「昔、父は言っていた。二度までの失態は許されるが、剣士たる者……三度の惨敗は許されない。もうそうなったら、潔く腹を切るべし、と」
「そうかい、ならテメェはここで腹を切ることになるなぁ! キッチリ介錯までしてやるからよ、ありがたく思え! サンライトスコール!」
「……いいや、負けることなどないよ。己の弱さを知り、恥を超え! 私は進化した! 見せてあげよう、リンカーナイツとの戦いの中で考案し……今、完成させたオリジナルの九頭龍剣技を! 九頭龍剣技、裏参ノ型……ゴーストライトステップ!」
もう二度と、負けたくない。大切な仲間たちが無残に倒されていく様を、無力感に苛まれながら見ているだけなのは嫌だ。その想いが、白銀の竜に新たな目覚めを促した。
ミサキは天より降り注ぐ太陽光のレーザーを高速移動で避けつつ、自身の身体を黒い影へと変えていく。色が変わるにつれ、速度がどんどん速くなる。
「なんだ、高速で避けるだけか? なら、どんなに速く動けようが関係ねぇくらいの光の雨を! たっぷり浴びせてやるよ!」
「いいさ、やってごらん? 今の私は影法師さ、実体を伴わない攻撃など……」
「!? ぜ、全部すり抜けやがるだと!?」
「当たることはない! 九頭龍剣技、裏弐ノ技! スターリィライトスラッシャー!」
降り注ぐ光線を増やし、回避など無意味な状況に追い込もうと画策するプラウダー。しかし、影そのものとなったミサキに当たってもすり抜けるだけ。
まるで効果がないまま、相手の反撃を許すことに。逆襲せんと放たれる光の斬撃を回避しつつ、さらに光明神の力を引き出そうと魔力を練り上げる。
「ああ、テメェの言ったこと……悔しいが認めてやるよ。三ヶ月前は俺たちに手も足も出なかったヘナチョコが、まあ……やるようになったもんだ。なら、こいつはどうだ? ヘイルシェイブミキサー!」
「ふぅん、なるほど。空気中の水分を凍らせて氷の粒を……ね。ならこうするまでさ。九頭龍剣技、裏肆ノ型! ヴォルケーノカーテン!」
「あっつ! こっちまで熱気が届きやがるな……って、もはやんなもん剣技でもなんでもねえだろうがテメェ!」
「ふふ、裏の九頭龍は私のオリジナル。型に嵌まらない、天を舞う竜の如く自由な発想のもと生まれた技なのさ!」
これではラチが明かないと、プラウダーは太陽光によるレーザー爆撃を中断する。実体を持つ攻撃に切り替えるべく、指輪の力を再度解き放つ。
刃のように尖った雹を竜巻で包み、天然のミキサーを作り上げるプラウダー。その中に閉じ込められたミサキは、翼を赤熱させて生み出した炎のマントで全身を覆う。
もはや剣技でもなんでもないだろうと非難する相手に飄々とした態度で答えた後、ミサキはその場で高速回転しはじめる。襲い来る 雹を溶かし、身を守るためだ。
「ほら、こうすれば厄介な雹は全部溶けてしまうのさ。そして……炎と風が混ざり合い、私に力を与えてくれる! ホワイトドラゴトルネード!」
「ハハハッ、バカな奴め。その竜巻は俺が創り出したものだぜ? テメェが利用しようってんなら、消失させるだけなんだよ!」
「だろうね、私だってそうするよ。そのくらいは読めるさ、私を侮るなよ……プラウダー! 弾けろ、我が身を守る炎よ!」
「んなっ……!? チッ、目眩ましか!」
回転するうちに炎と風が混ざり合い、ミサキは巨大な火炎旋風と化す。その状態で突撃するも、プラウダーはせせら笑いつつ竜巻を消滅させる。
しかし、その行動はミサキの予想の範疇。風の勢いが完全に消失してしまう前に、炎を炸裂させてプラウダーの視界を奪う。
「勝機! 九頭龍剣技・伍ノ型! 瞬閃・破穿突!」
「やべぇ……ぐがっ! ぐふっ、やってくれたな……だが! ギリギリのところで急所は外したぜ。刀が抜けねえようにしちまえばよぉ、こっちがやりたいほうだ」
「いいや、そうはいかないさ。お前がどう動いてきてもいいよう、私は炎を弾けさせた時点でいくつかプランを練っていた。今回はプランCで行かせてもらう!」
「アァ? 抜かせ、テメェが何かする前に指輪の力で……!? ぐ、ごふあっ!?」
炎の目眩ましでプラウダーが怯んでいる隙を突き、ミサキは神速の刺突攻撃を放つ。相手の反応が間に合い、動かれたことで急所から外れ脇腹に突き刺さる。
プラウダーはあえて筋肉を締め付け、刀が抜けないようにする。そうしてミサキにゼロ距離からなぶられるか、武器を手放すかの二択を突き付ける……はずだった。
だが、その直後異変に襲われる。刀を通してミサキが大量の魔力を注ぎ込みはじめ、肉体が拒絶反応を起こしはじめたのだ。激痛に襲われ、指輪の力を使うどころではなくなってしまう。
「て、メェ……何を、しやがる……!?」
「プランC……。九頭龍剣技、裏陸ノ型を使わせてもらったのさ。指輪の力はもう使わせない、このまま天の頂で散るがいい、プラウダー! 奥義、ペインフル・ジ・エンド!」
「ぐっ、がはあっ! ふざ、けるんじゃねえぞ……! 俺はフィービリア様のしもべ、たかが大地の民なんぞに……う、ぐあああああああ!!!」
短時間で大量の魔力を流し込まれ、本来あるべき魔力の流れを乱されたことで指輪の力を使えない状況にされるプラウダー。そんな彼に死の宣告をし、一気に葬らんと奥義を放つミサキ。
魔力の許容量が限界を超え、プラウダーは最期の断末魔をあげる。ミサキが刀を引き抜き、後ろを向きつつ鞘に収めた直後。身体の内側から大爆発が起き、簒奪者は空の藻屑となり……消滅した。
「……言ったはずさ。三度目の惨敗はない、と。あの日の借り、返させてもらったよ……プラウダー」
宿敵の消滅を肌で感じ取ったミサキの脳裏に流れるのは、三ヶ月前の苦い記憶。六人の簒奪者たちに手も足も出ず敗れ、撤退した悔しさと屈辱。
『ダメだ、こいつら強すぎる! とてもじゃないが指輪を……ぐあっ!』
『くっ……退くしかない、というのか。ここまで来て、何も出来ず……一矢報いることすら出来ずに……!』
『クハハハ、そういうこった。パラディオンだかなんだか知らねえが、俺たちに勝とうなんざ千年早ぇんだよ。ハッハハハハ!』
『……覚えているがいい、名も知らぬ不届き者たち。私は……私たちは必ずリベンジしてみせる! その時を待つがいい!』
傷付き倒れていく仲間たちを守りながら、何の成果もなく撤退したあの日。フードの奥で光る簒奪者たちの蔑みに満ちた目を、ミサキは片時も忘れることはなかった。
「……千年分の修行を三カ月でしたんだ。この戦争、決して負けないよ」
そう呟いた後、ミサキは雲の下で戦っているユウたちと合流するべく急降下していく。簒奪者たちに受けた屈辱を晴らし、堂々と。




