107話─新たなる兵器
『行きますよ! インビジブルウォール!』
「なんだぁ? 空撃ちなんかしやがぶべえぇぁっ!?」
「何が起きた!? なんかぶつかふぼっ!」
ユウが発射したのは、彼自身にしか視認することが出来ない特殊な弾丸。数十センチほど進んだところで、弾丸が変質・展開され目に見えない防壁が現れた。
その結果、リンカーナイツの構成員たちは突如目の前に現れた見えない壁に激突。何が起きたのかも分からぬまま、地上に落下していくことに。
『憲三さん、何人か落としました! トドメをお願いします!』
「合点! お任せでさあ!」
【レボリューションブラッド】
「そぅら、全員タマぁ獲らせてもらいやすぜ! ヤクザスラッシュ!」
ガルドクアッドもろとも落下してくる敵たちを、下方で暴れ回っていた憲三が片っ端から撃滅していく。ユウも負けじと、防壁の罠にかけなかった者たちを始末する。
【アブソリュートブラッド】
『さあ、どんどん倒していきましょう! 一人でも多く倒して、リンカーナイツの勢力を弱めてやります! とうっ!』
「クソッ、調子に乗るな! こっちにはレオン様から賜った新兵器があるんだ、こいつを食らえ!」
イメージを膨らませたユウは、両脚と背中に飛行用のブースターを顕現させる。父や母のように、自在に己の司る武具を顕現させることは銃の魔神形態では不可能。
だが、それ以外なら多少は融通が利く。そうして空に飛び立ったユウに、武器が向けられる。手持ちのバズーカ砲のような見た目をした、白色の銃火器。
見ているだけで背筋を冷たいものが流れ落ちていく感覚に襲われ、ユウはすぐに悟る。アレが放つ攻撃は、絶対に食らってはならないものだと。
『あれは……!』
「へへへ、この【ソウルバスター】を食らえっ!」
『おっと! そうはいきませんよ、マイティーウォール!』
敵の放った楕円状の魔導弾を、目の前に展開した防壁で防ぐユウ。どちらが押し勝つか分からずドギマギしたが、どうにか防壁の方が打ち勝った。
「クソッ、てめぇまたパワーアップしてるやがるな!? 今まではこんなヘンテコなことやってこな」
『うるさいですね、時間が惜しいのでさっさと消えてください! デッドエンドストラッシュ!』
「うげあっ! クソッ、せめて一撃……がふっ!」
喚き散らす敵に突撃し、直進しながら銃剣の刃を振るって一刀両断する。が、チリになりながらも執念を見せ、背後からユウへ新兵器を放つ。
『くっ、しぶと──!? ぐっ、これは……!』
「坊ちゃん! 大丈夫でやすか!?」
『くっ、ハアハア……。ええ、今のところは。ですが、何発も食らうのはまずいですよ、これは……』
大慌てで宙返りし、ギリギリで攻撃をかわした……と思いきや。足に魔導弾が擦ってしまう。が、肉体にはなんの損傷もない。その代わり、ユウは自身の魂の力が削り取られるのを感じていた。
敵を殲滅し終え、上がってきた憲三にそう答えつつユウは確信する。この兵器には、魔夜のチートが宿っていると。どうやら、リンカーナイツはヴィトラ奪還のために入念な準備をしているようだ。
(まさかこんな短期間で、これほどまでの武器を作るなんて。これは油断出来ませんね、下手をすれば魂を削り殺されてしまいますからね……。そうなれば、ヴィトラが復活してしまう……)
「坊ちゃん? 大丈夫でやすか? 体調が優れねえようでしたら、あっしに任せてくだすっても」
『……いえ、ちょっと考え事をしていただけですよ。ところで憲三さん、先ほど敵がボクに使った武器には気を付けてください。あれは被弾した者の魂を削る力があります』
「なんと……確かにそいつぁ警戒しないといけやせんね。分かりやした、あっしも食らわねえように気ィつけやす」
幸いにも、擦っただけのためダメージはたいしたことはない。だが、何発も直撃を食らえばタダでは済まないだろう。憲三にも危険性を伝え、気を引き締めながら地上に降りていく。
一方、基地の中では……。
「宗吾様、迎撃に出向いた者たちが全滅しました! 如何致しますか!?」
「落ち着け、相手が相手とはいえ数は二人。こっちには新兵器もある、そう慌てることもなかろう」
司令室にて、下っ端が司令官にお伺いを立てていた。豪華な椅子に座るのは、基地の管理を任された日本から来た異邦人の青年。その顔には、余裕の笑みが広がっていた。
目の前に映し出されているリアルタイムモニターを見ながら、総司令官……南野宗吾は思考を巡らせる。彼には、一つ勝算があった。
(映像を見る限り、ソウルバスターはあのガキに効果があると見ていい。幸い、俺のチート能力【増殖する願い星】で数は増やせる。下っ端どもが全滅する前に配備を終わらせ、不意打ちで仕留めれば……ククク)
魔夜のチート能力を解析・抽出して造り出した対ユウ抹殺用の兵器……ソウルバスター。試作ゆえの数の少なさを解消するのに選ばれたのが、宗吾であった。
十分の間素手で触れ続けていたものを複製することが出来るチート能力を持つ彼がいれば、あっという間に数を増やすことが可能。そのため、試作品を全て預かっているのだ。
「全構成員に通達せよ。複製された新兵器を装備し、基地内に設けたアンブッシュポイントにて待機せよ、とな」
「ハッ、かしこまりました!」
「俺はギリギリまで複製作業を続ける、完成したものを順に配備しろ。基地の妨害ギミックをフル稼働して、出来るだけ長く足止めするんだ。いいな?」
「はい、ただちに!」
宗吾の指令を受け、即座に部下が伝達に向かう。これでユウを始末する準備が出来たと喜ぶ宗吾だったが……。
『……ぜーんぶ丸聞こえなんでさぁね、あっしにゃあ。フッ、諜報活動は忍びの嗜み。坊ちゃんに情報を持ち帰るとしやすかね』
いつの間にか天井裏に潜り込んでいた憲三……の目玉に全て盗み聞きされていた。憲三は基地に突入する際、先行して内部の様子を探ってくるとユウに進言していたのだ。
心配する彼を余所に、憲三は左目を取り出してドローンのように基地へ潜り込ませた。キカイのボディを持つアストラルだからこそ可能な、とんでもない諜報活動だ。
「……って感じでやすね、坊ちゃん。敵さんらはそこかしこで待ち伏せしてるみたいなんで気ィつけて行きやしょ」
『分かりました、ありがとうございます憲三さん。……でも、痛くないんですか? 目を取り出すなんて』
「なぁに、前世じゃあ生身で目ん玉引っこ抜かれやしたからね。そん時と違って、機械の身体でやすから痛みなんてこれっぽっちもありやせんよ」
『な、なるほど……。でもあんまり無茶しないでくださ……む、早速怪しい気配。なら……チェンジ!』
【トラッキングモード】
そんな会話をしつつ、不意打ちに注意して慎重に基地を進む二人。その途中、ユウが怪しげな気配を察知した。マガジンを入れ替えて、魔力を追跡する力を込めた弾丸を数発発射する。
【アブソリュートブラッド】
『それっ、マジックサーチショット!』
「わ、なんか飛んで……ぎゃあっ!」
「げえっ、どこか……うがっ!」
「おお、器用なもんでやすね。坊ちゃんは多芸でやすなあ、本当に……転生して成長したんだとしみじみおもいやす」
どんな時でも先手必勝。魔力追尾弾が基地の中を飛び交い、隠れていたリンカーナイツの構成員たちを逆に不意打ちで仕留めていく。
自分のアシストもあるとはいえ、ことごとく敵の策を潰していくユウの機転を見てしみじみとする憲三。そんななか、基地内に警報が鳴り響いた。
通路を遮断する隔壁が降り、進路を閉ざしていく。敵の方も、本格的にユウたちの足止めと始末をするようだ。
『ここからが本番ですね。行きましょう、憲三さん。この基地の司令官の元にたどり着いて、情報を吐かせないと! チェンジ!』
【ブレイクモード】
「ええ、そういう仕事は大の得意でやすからね。汚え仕事はあっしに任して、坊ちゃんは敵の殲滅に集中してくだせえ」
再度マガジンを切り替え、隔壁をブチ抜きながら先へ進むユウと憲三。果たして、彼らは魔夜へたどり着くための情報を手に入れることは出来るのか……。




