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9、死者の王

 ものすごい勢いの炎に包まれながらアンデッドキングが悲鳴を上げる。しかし、徐々に炎の勢いが、悲鳴を上塗りし、バチバチと爆ぜる音があたりに響き渡っていった。それに伴って、周囲にいたアンデット達も力を失って、地面に倒れていく。頭に載っていた王冠が、地面を転がっていった。


「助かった」


 カイデンは剣を杖のように地面に突き刺し、それによりかかった。

 レヴィアスは疲労の色が濃いカイデンに対して感心と労いの気持ちを持たざるを得なかった。一度も、レヴィアスが手助けする必要がなかったのだ。十分に戦える素質が、この少年に、カイデンにある。故に、ねぎらいの気持ちを持った。


「よくやった。勇者殿」

「さすがにしんどかった。野犬の群れよりしんどい」


 かつての経験を思い返しながらカイデンは言った。

 野犬と比べられるアンデット達に対してレヴィアスは哀れとも思ったが、もとより、それほど関心を持っていないのもあり哀れと思うのも間違いな気がしてきた。しかし、魔族がようやっとここ現代において復活したというのは、レヴィアスとしては懐かしく嬉しい気持ちもあったのである。

 剣を戻し、ガスが待つ広場へと向かった。

 ガスはボコボコに凹んだ鎧の表面を撫でながら座っていた。アンデッドキングの攻撃がいかほどに苛烈であったのかをその鎧の傷が物語っている。カイデンが近付いてきたのに気付き、手を軽く上げるが、かなりの疲労感を見て取れた。

 そこから少しも離れていない所では轟々と炎が燃え上がるアンデッドキングがいた。


「ガス!」


 遅れてニープが現れる。木の枝を杖の代わりにして歩きながらニープが近付いてきた。

 心配そうな顔は、ガスの無事を認めると安堵の表情に変わる。

 二人して、固い握手をし、互いに腰を下ろした。


「マジで今回はやばかった。だろ、ガス」

「違いない。しばらくは休みが欲しいな。と、いうか、これでただ働きだろ。最悪だ」

「結局、商人の連中が儲かっただけですからね」


 カイデンもそう声をかけながら、腰を下ろした。

 和やかな雰囲気が場を支配し始めた。


「待て。勇者殿」


 レヴィアスがそう言って、油断するカイデンを諫める。


「我々の目的を忘れるな。まだ、魔力を感じる」


 その言葉が意味することをカイデンは思い出した。レヴィアスの魔力がここに封じられているのだ。それを開放するのがカイデンの大きな目的である。アンデッドをどうにか対応するのあくまでカイデンとレヴィアスにとってしてみれば、唐突に発生したトラブルでしかない。

 よいしょっと、腰を上げたカイデンであった。さすがにガスとニープにも事情を説明し、一緒に探してもらおうと考えた。簡単にかいつまんだ事情を聞いた二人は、「もしかして、それがあったら楽になったのでは?」という訝しんだ表情を見せたが、不確定な要素を頼りにはできなかったという見解で一致してくれたのは幸いだった。


「それじゃ、探しますか」


 と、ガスとニープも腰を上げたときだった。

 広場に赤ん坊の泣き声が響いた。ぱちぱちと響くだけだった広間に、似つかわしくない赤ん坊の泣き声だ。そちらの方向へと、目を向けると、なんてことはない、神殿の奥の部屋で見つけたあの老婆が歩いていただけだ。赤ん坊を腕に抱いたままに神殿の広場を歩く。

 あの戦いの中、どこかで隠れていたのだろう。


「婆さん!」


 ニープが老婆に歩み寄りながら声をかけた。

 老婆は、ニープの様子に気付かずに、広場を歩く。


「婆さんのおかげで助かったよ。婆さん、よく知ってたよな。アンデッドなんて」

「おぉ、常識だったからのう」

「さすが年の功ってところか? ともかく、本当に助かった」


 老婆の足元に、アンデッドキングの王冠が転がってくる。

 赤ん坊の泣き声は止まない。


「それはそうじゃよ。だって」


 足元に転がっていた黄金に輝く、王冠を手に取った。


「私も、魔族なんだから」


 頭に王冠を載せた老婆が、カイデン達を見た。

 その目は不気味に緑に光り、赤ん坊の泣き声が大きくなった。

 何が起きているか理解する暇はない。

 老婆は赤ん坊の首をへし折ると、赤ん坊の泣き声がぴたりと止む。それと同じタイミングで、今まで老婆だったモノが、姿を変える。バキバキと背骨が伸びて、ニープやガスよりも背丈が伸び、灰色の肌をした女となった。着ていたボロ布もまた伸びて、ドレスと化している。


「弱々しい人の子よ、アンデッドキング如きに手こずる人の子よ」


 赤ん坊の首が乗った杖を神殿の広間、石の床に突き立てながら、女は言った。


「平伏せよ。お前たちは今、死者の王、エレンシアの前に居るのだぞ」

「な」


 と、ニープが矢筒へと手を伸ばすが、そこにはもう矢はない。アンデッドキングとの戦いで、全てを使い果たしてしまった。その動きに気付いたエレンシアと名乗った女は、杖の柄を握り、ニープへと叩きつける。その勢いは素早く、ニープの足があらぬ方向へと折れ曲がった。


「平伏せよ」


 再びに、杖を地面へと突き立て、エレンシアは言った。

 身体に纏う飾りがジャラジャラと音を立てる。

 ガスは動けず、ニープもまた動けず痛みで苦しみの呻き声を漏らすのみだ。


「まずいまずいまずい」


 その様子を見て、レヴィアスはカイデンへと語りかけた。

 レヴィアスは全てが合点がいっていた。

 なぜ、自らと同じ魔力を感じていたのか。

 なぜ、人であるはずの魔王ビタンの拠点に魔族がいたのか。

 なぜ、古に滅んだと聞いていた魔族がこの場に現れたのか。

 

「何がまずいんだ。言ってみろ」

「エレンシア。エレンシアだ。間違いない」

「何が?」


 レヴィアスはカイデンに情報を開示するか迷った。しかし、迷っている時間はないと改める。

 落ち着き払って、冷静な口調を取り戻す。


「奴は、倒錯のエレンシア。私を封印した四天王の一人だ」


 カイデンの頬を、冷や汗が伝った。

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