4、仲間を探そう!
ニープと名乗った男、そして、その相棒の鎧甲冑のガスは、二人組の冒険者だった。
ガスがその鎧甲冑の耐久によって敵からの攻撃を耐え続け、そこを、ニープが中遠距離から仕留める。
言ってしまうと陽動作戦もしくは、囮作戦ともいえるそういう戦法を得意としていた。搦手の戦法であるが、搦手であるが故に、ハマると強い。そう自負するだけあり、得意とするだけあり、傭兵の界隈では恐れられるようになってきていた。
自分たちはこのまま、傭兵として戦える。そう信じていた。
「だが、な。このご時世、冒険者として働いた方が儲かるってわけでな」
「はぁ」
酒場の一角、人気のない席でカイデンはニープとガスと話をしていた。テーブルには、ニープが頼んだ酒と料理が並んでいる。ガスはあまり食べないという事で、手をつけていなかったが、ニープは、カイデンが年下という事で、どんどんと手を付ける事を許した。しかし、酒を好まないのもあるが、そう簡単に手を付けるカイデンではなく、料理はまだ残っているのだった。
「傭兵なんて身分がわからんものよりも、王家の認証が貰える冒険者の方が少しばかり身分的にいいだろ」
「それはそうです……ところで、どうやって、魔王を倒そうと考えているんですか?」
「実を言うとな、魔王について俺たちはすこーしだけ詳しいのよ」
「それはどうして。君たちはただの傭われ兵だっただろう」
「いい質問だな、お喋り剣」
お喋り剣、と呼ばれたレヴィアスは気分を害したが、否定もできず、黙った。
下手に反論して教えてもらえないよりはマシだ。
「実を言うとな」
と、ニープが話し始めたのは、興味深い事だった。彼らは傭兵として働く中において、魔王軍に参加することがあったというのだ。魔王軍とは言えども、下っ端も下っ端の新入りの傭兵だ。大した仕事はさせてもらえず、戦列に並ぶだけだったり、荷物を運んだりという仕事をしていた。
が、嫌気がさしてすぐに止めたそうだ。
やることなす事、自分たちの戦いには合わない。戦った後に満たされる何かがない。
そこで、魔王軍がとある神殿を落とし、そこを拠点とし始めたときに、こっそりと夜中に抜ける事に成功した。
「つまり君たちは脱走兵というわけか」
「そうともいう、お喋り剣。俺たちをクズだと笑うかい」
「僕は、笑わないよ」
カイデンは冷えた料理に手を付けた。
美味い美味い、とカイデンは言いながら口にしていく。
「君たちは冒険者だ。僕と同じだよ。過去の経歴は関係ないんだ」
呟くように言ったカイデンの言葉は、ニープとガスの心に響いたらしく、照れくさそうに鼻を擦った。
そんな様子を見てレヴィアスはなるほど、と感心していた。この冒険者制度の強みはここにある。過去の経歴は不問として、多様な経歴を持つ人間を受け入れる。実際、正規軍でニープやガスのような傭兵が、魔王軍で戦ったことのある傭兵が重用されるとは思えない。
そう考えると、多種多様な経歴を持つ人材を集め、それらが勝手に強みを活かす。強みを活かせないようならば、そこまでというもの。
ニープとガスが過去に何かあったように、カイデンにも色々とあった。
「へへ、ガキのくせに一丁前に言うじゃねぇか。それで、だな。俺たちは魔王軍の拠点を一つ潰そうと思うんだ」
「え。二人で?」
「そう思うだろ? で、心許ないから、他の仲間を探していたってわけよ」
なるほど。
提案としては悪くはない。しかし、無謀だ。
魔王の拠点としてされている建物について、確かに傭兵として働いていた知識があれば、内部事情についても詳しい。で、あれば、内部に侵入して瓦解させるというのは一つの大きな方策だ。が、数の問題がある。二人で拠点を落とせる自信がないから人を集めているのだ。であれば、より多くの仲間を必要とする。
まさか、十代の少年カイデンが、その多くの仲間分の力を持っているとは思わないだろう。
そういう心配箇所をカイデンはニープとガスに聞いた。
すると、ニープは笑う。
「心配しなさんな。俺たちは他の冒険者にも声をかけているんだ。こうやって、飯を奢っているのも勧誘の一環よ。子供に重荷なんか背負わせられんて」
強かな性格だ。
であれば、他にも複数の冒険者がいるならば、魔王軍の拠点を落とすのはできるのではないか。
最も、彼らが拠点を落とせなくても、カイデンさえ死ななければレヴィアスとしてはどうでもいい。
「この話は正規軍に伝えたのか?」
「いや、伝えてないが」
「伝えた方が良いと思う。はっきり言って、冒険者だけでどうにかできるとは思えない。きちんとした正規軍の協力があればより簡単に攻略できると思うんだけど、どうかな」
カイデンは疑問の一つを口にした。
それは予測された疑問であったのか、ニープは前歯をみせて笑う。
「正規軍に伝えるよりも、冒険者だけで手柄を上げたい。その方が利益も大きい。名も上がる」
なるほど、そのあたりまで考えられているのか。
「わかった」
カイデンは、ニープたちの申し出に承諾した。繰り返すが、断る理由がない。魔王を倒すのがカイデンの目的である。であれば、その拠点を叩くことはカイデンの目的に合致する。レヴィアスとしても、魔王ビタンがどのようなものか知ることが出来る。
断らずに協力すればいい。
カイデンとお喋り剣レヴィアスが協力すると聞いたニープは、嬉々として色々と教えてくれた。その襲撃作戦は近日中であり、少し間があるから調子を整えてくれとも教えてくれた。宿の手配までしてくれる親切心には、さすがのカイデンもひいたが、逃げ出されないようにだと素直に冗談めかしてニープに言われては断りにくい。
そうして宿で時間を潰し、王都ジューデングでニープとガスが冒険者を集める傍ら、カイデンは調子を整えた。
その時が来た。
が、意外な事態となっていた。
「手練れが誰一人、現れん」
ニープが勧誘した冒険者であるが、その尽くが逃げ出していたのだ。集合場所としていた王都ジューデングからほど遠くない教会跡地に現れたのは、ニープとガスのコンビ、そして、カイデンと、数人の冒険者だけだった。それら数人の冒険者も、熟練の手練れという訳ではなく、食い扶持を求めてしかたなくと言うような頼りになりそうにない元農民と、それらを相手にする商人集団という組み合わせだった。
「どどどどうすんだよ」
慌てたニープであったが、どうのしようもない。
集まった彼らを帰すというわけにもいかない。彼らは彼らで仕事をするためにやってきたのだから、それなのに帰すというと話が違うと怒り出すだろう。
では、少なく弱い手勢で魔王の拠点を落とすか。それもまた難しい。
「参ったな」
と、頭を抱えるニープを見て、どうにか力になれないかとカイデンは声をかけようとした。
「勇者殿ではないですか」
商人集団の中、一人の背の高い行商人がカイデンへと近寄ってきた。ミラだった。奇遇ですね、と大きな声で話しかけられて、注目を集める。ただでさえスラリと高いミラは人目をひいた。
が、冒険者たちの心を打ったのは、勇者、という文言だ。
「この小僧が?」
「まさか」
口々にそんか言葉が飛び出てくる。が、ミラは気にせずに、カイデンがどのような目的を持って旅をし、街道の立ち往生や暴漢からミラを救ったかを力説した。
すると、懐疑的だった冒険者たちも、そこまでいうならと信じ始めてきた。恐るべきミラの説得力、より正確にいうと、口車のうまさだ。
すると、ニープもこれに乗った。
ここまでくると、最早、行くしか無い。
「少数でも打ち勝てる!」
と、意気込み弱気な冒険者たちを鼓舞した。それが決め手となり、ニープが率いる一団は魔王軍の拠点へと向かう事になった。
しかし、この事態を冷静に見ていたカイデンとしては望ましく無い展開で、始終、口を固く結び、足を進める一団の中で神妙な面持ちをするのだった。
だが、レヴィアスはそんなカイデンと異なり喜びを感じ始めていた。
一団の進む方向から、自らと同じ魔力を感じるからだ。