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16、リウス派の天才達

 学問塔の中へと入っていったリタは、まさか、カイデンがホネツキ諸派と共に行動しているとは思っていなかった。だが、しかし、それと同じことが、リタにも起こっていたとは、カイデンの知る由はない。

 リタは、学問塔で最も豪奢な部屋に案内されていた。壁一面にひしめくように置かれた書籍、書籍、書籍の山。そして、色とりどりに輝く、天井の灯り。何よりも目を惹いたのは、部屋の中央に浮かぶ黄金の塊だ。それは光が差し込んで、きらりと光り、また黄金と異なる色を見せてくる。

 その部屋の中央、黄金の下にある机を挟み、一人の男と、リタは面会していた。

 リウス派の頭目、リウス・アルカディア。ハンサムな色男ではあるが、耳の先が少しとんがっている事から見るに、長い年月において、エルフの血が混ざっているのだろうとリタは見てとった。また、その血は寿命にも影響しているらしく、若々しい外見であるが、年齢は百歳ほどに近いらしい。


「しかし、リタさんは素晴らしい才能がある。まさか、口だけで私の所に来れるとは」

「いやいや、開かれた学問の地なのですね」


 リタは思ってもいない事を口にする。ただ、ひたすらに口だけで生きてきただけではない。

 相手を持ち上げたり何なりをするのも商人として重要な事だ。

 しかし、全て思っていない事ではない。

 学問において、リウス派と名乗ったこの学問塔の人々は非常に情熱を注ぎ、知識に対して貪欲に吸収しようという姿勢が見て取れた。極東から持ち運んできたリタの私物についてもひどく興味関心を持ち、その一つ一つを手に取り、それらから東の文化を学ぼうという姿勢が見て取れた。ある意味、この塔の主、リウス・アルカディアに会えたのもその品々のおかげである。


「勿論です。学問の扉は常に開かれていなければなりません。もちろん、その扉を潜り、学問の頂へと向かうには、少しばかりの試練が必要ですがね」

「なるほど興味深い。試験などもあるのですか」

「勿論です。試験は厳しく苦しいですが、自らの欠点を見つめ直す機会にもなります」


 リアス・アルカディアは落ち着き払った声色で話す。

 なるほど。学問で周囲の尊敬を集めるだけあり、知的な雰囲気と、そして、温厚な気配というのがあった。人徳というのが、まさしく、その身体と声色には纏わりついていたのである。その声を聞いているだけでも、リタは、リウスに対して、ある種の友好的な信頼というのが心のうちに湧き上がるのを感じられた。


「ところで、どうですか。この塔の中を色々と見て回りませんか?」

「私はあまり勉学に縁がないので、是非とも」


 その言葉を聞き終えたリウスは簡単に準備をすると、リタを案内するように先に立って塔の内部を案内した。リタは、塔のあちらこちらを興味深く観察していくが、元々、そこまで学問に興味のないリタとしてはそこまで目を惹かれるような物、つまり、商品というのは無かった。

 が、その道中に事は起こった。

 廊下の向こうから複数人がバタバタと足音を立てながら歩いてくるのだ。

 その者達の服装は衣服がちぎれており、身体中泥まみれで、頭の先からつま先まで、汚れていない箇所はまるでに見当たらなかった。

 よくよく見れば、尖塔のあちこちにいる学生と同じ服装しており、リタはその者たちが学生であると認識できた。が、他の学生たちと違って、彼らの服装にはフードがかけていた。


「先生! ここにいましたか! ホネツキのガキをなんとかしてください!」

「お客様の前ですよ、それに何ですかその格好は」


 リウスにそう言われた学生達は、赤く上気する顔のままに服を簡単に整えた。

 床に泥がバタバタと落ちる。


「ホネツキのガキです。ルビーとか名乗ってるあのガキ。また、やられました。我々の尖塔を小馬鹿にして」

「俺たち頭に来たから杖を出したんです。舐められっぱなしなんか最悪ですよ」

「で、コテンパンにしてやられた、と」


 学生たちの言葉を遮るように、リウスは結末を端的に口にした。それは図星だったらしく、学生たちはぐっと固く口を閉じて、顔を伏せた。その様子を見てはため息がリウスの口から漏れ出る。


「良いですか? あなた方はこの尖塔の中でも優秀な部類の人間です。才能のあるものたちなのです。それが、塔外の人と争い、負けるなどと」


 と、説教くさい口調で、リウスが話し始めた。が、すぐにふうっと肩から力を抜く。


「まぁ、いいでしょう。あなたたちは研鑽を詰みなさい。行きなさい」


 そう言われては、学生たちは下がるしかなかった様子であり、すごすごと退散していった。その様子を、リウスは見送っていたが、申し訳ないとリタに詫びた。リウスからしてみれば、自らの弟子の不出来である。それを公にしてしまうような行動を見られたようなもので、恥じる気持ちがあったのであろう。

 が、リタとしてはそんな事は気にする事はないというように手を振り、再び、歩き始める。


「彼らもまだ若いじゃないですか。私の住んでいた土地には、若者の失敗は成長の元という言葉がありまして」

「はは、そうですか。リタさんにそう言ってもらえると、楽になります。ところで、どちらの土地で暮らしていたのですか?」

「ここから、はるか東です」

「おや、それは奇遇ですね。実を言うと、今日これから来られるお客人が」


 そこまで言った時、ちょうど二人は、塔の一階に到着し、すぐそばには、正門の扉があった。

 と、そこで扉がぎぎぎっと大きな音を立てて開く。

 来客であるというのはすぐに分かった。

 同時に、うっとリタは眉間に皺をよせて、眉を顰める。明らかな異臭がしたからだ。それは人によればかぐわしいとも捉えられるような臭いでもあったが、明らかにキツい。強烈な臭いであった。

 そんな異臭を纏って塔の中へと足を踏み入れたのは、一人の大女。女らしい要素は外見のどこにもなく、角ばった鼻と顎は周囲を威圧する気配が見える。口をモグモグと動かしているのは、手にしている何かの肉を食べているからだ。


「リウス殿から出迎えいただけるとは光栄だ」

「いやいや、アキエレ殿が来られるなら、お出迎えするのが礼儀」


 リタは目を丸くしたままに、アキエレと呼ばれた大女を見た。

 大女はリタをじっと見て、互いに黙ったままにいたが、その様子を気にすることないリウスがぱんと手を叩く。


「こちらは、魔王ビタン様の配下の一人、アキエレ様です。ささ、客間にお通ししますよ」

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