其の一
扉絵
https://36707.mitemin.net/i585259/
写真:玉置朱音様
「アルバイト(修業)する? しない? どっち?」
「・・・・そこまで言うなら仕方ねえな。断ったら冷気浴びさせられそうだし、しょうがねー。やってやるよ」
チャラ神様、どうやら人間界で修業を始める模様です。
ジョキっ
ジョキっ
はい。どうも。天海神奈です。
翌朝の事でした。やはり昨日の事は夢なんかではなく現実で御座いましたので、天人を外へ引っ張り出し、長髪の毛を伐採・・・・もとい、散髪をしている所で――
だってこのままじゃ、不審者扱いは否めないからっ!!
鬱陶しい位に長い髪が、現代風じゃない。時代錯誤もいいところ。だから切る事にした。
相当反対されたが、お構いなし。発言権はヤツに無い。この世に、そして天海神社に居座る以上は、私に従って貰う。
肝心のお父さんやお母さんは、天人の勾玉の不思議な力のせいで、やや操られているから頼れない。私の目の黒いうちは、天人の好きにはさせないぞ、と気合を入れた所だ。
「おいっ。ちゃんと切れてるんだろーなぁっ。なんか、スースーするぞっ。切りすぎじゃねーのか!?」
「文句言わないの。うちはそんなに裕福じゃないから、散髪から経理まで、何でも出来て当たり前なのよ。美容院なんか生まれてこの方、行った事無いわよ。最初はお母さんが、後は全部自分で切っているんだから」
お布施やお賽銭が沢山貰える儲かり神社ならまだしも、うちは細々やっている零細企業ならぬ零細神社なのよ!
地元の人に支えられ、今日までやって来られたの。それだけでも感謝しなくちゃと思い、自分でできる事は自分でやって、無駄な経費は省く努力をしている。
「ったくよー。髪にだって神力が宿ってんだぞぉー。パワー増幅の為に伸ばしてんのによー。切ったら意味なくなるしー」
「文句言わないの。不審者扱いされてもいいの?」
「俺は神様だからな。この天人様を不審者扱いする人間は、片っ端から叩き斬って――・・・・あー、うそです、うそです。うーそ、うそうそ・うっそー」
「丸坊主にするわよ」
もう、怒りも湧かなくなった。淡々と流す術が既に身に付きつつある。
この男とまともに関わっていたら、ストレスで胃腸炎になりそうだ。
「それだけはヤメてっ。モテなくなるーぅ」
「天人みたいな害獣、モテなくていいわよ」
カットシザーを片手に、腰まであった彼の長い髪をばっさり切り落し、毛先を整えた。
うん。我ながら、結構上手く切れたんじゃないかな。
「害獣じゃなくて、神様だって!」
「なら、うちの神社を未来永劫繁栄させてよね、神様。はい、できたわよ」
大きめの手鏡を渡して、彼に仕上がりを見せた。今は、お父さんの着物を着ているので、天人は普通に着物を着た旅館の大将みたいになった。大層な神様用の衣装は封印して貰う事にしたのだ。じゃなきゃ、また他の警察官に捕まってしまうだろうから。完全に不審者だもん。あの白い神様衣装。
コスプレって誤魔化せるのは、一度きりしか無理だろう。
「おおおーっ。神奈、お前スゲーなぁ。アリガトよ」
切る前までは超渋っていたくせに、鏡を見ると途端に喜ぶ天人。
「うん。めちゃくちゃカッコイイねぇー! 元がいいからなぁ。流石俺! 短髪も似合ってるじゃん! よーし。じゃあ、これで早速ナンパにでも行くかぁ――! 綺麗な女に声かけ・・・・っ、つめたいっ、いやあぁあっ、氷漬けは頼む勘弁!! あ“あ”あ“あ”――っ!!」
私は昨日の今日で、大分自分に芽生えた力がコントロールできるようになってきた。
怒り任せにオーラを放出すると、天人が言うようにこの辺りが消し飛んでしまうのだろう。自分でも解ったが、相当大きな力が働くのだ。恐らくこれも、天人・そして彼がこの神社へ持ち込んだ神器と関係があるのだろう。しかもお父さんとお姉さんからパクったというワケあり神器が。
天人の剣はともかくとして、後の勾玉や鏡が気になる。何らかの作用があるに違いない。
とにかくそういう訳で、天人に軽くお仕置きを、と念じるだけでヤツは冷たがるようになった。
もっと色々な技を磨いて、あの男を大人しくさせなきゃ!
この由緒正しき天海神社から、大悪党ならぬスーパーチャラ神様が排出されたとなれば、末代までの恥!
天海の名を懸けて、何としても私がこの男の悪行を食い止めてみせるわ!!
「もうナンパ行くって言わないから赦してぇー」
「解れば宜しい」
念を解くと、彼を包んでいた冷気は消えた。ジロリと天人に睨まれたが、構うものですか。
「それより天人、昨日の駒井さんの話、覚えてる?」
「ああ。耳タコ話だろ」
チャラい言い方。神様なのに、威厳もクソも無いわね。
「俺は神様なんだから、一度聞いた話は忘れねえんだよ。で、町はずれの祠で何やら不穏な動きがあるって言ってただろ」
「そうそう。調査依頼されたから、アンタ見に行って来て」
「はああ? なんで俺が!」
「天上界に還る為に、アルバイト始めなさい。ねえ天人、よく聞いて。この神社は今、超・赤字で大ピンチなの! 昨日も説明したけど、恐ろしいウィルスのせいで参拝客が激減していて、本当に困っているのよ。だから、依頼を解決して報酬金を貰うの。うちの神社でアルバイトしてね。あ、アルバイトって言うのは、そこで働く事よ。働いてお金を貰うの。神様にお金を渡すっていうのも変だから、食事と寝床をこちらで提供するわ。アルバイトと修業も兼ねて。どう? いいアイディアでしょ」
「はあぁ? ふざけんなよ! なんで神様がアルバイトなんかせにゃならんのだ! 普通神様ってだけで敬え――」
「その神様を崇め奉っているというのに、一向に恐ろしいウィルスは減らないし、世の中乱れて来るし、アンタの神様としての働きが悪いからこんな事になっているんでしょ! だから天上界を追い出されちゃうのよ!! 神様だって名乗るんだったら、この世界を平和にしてみせてよ! この奥座敷だって観光を生業にしているけれど、恐ろしいウィルスのせいでお客様が誰も来ないのよ。もう、みんな限界なの! この町やこの世界が滅びる前に、何とか阻止してよ。それが出来たら、神様だって認めてあげるわ」
正論を振りかざすと、言い返せない天人が黙ってしまった。
「アルバイト(修業)する? しない? どっち?」
「・・・・そこまで言うなら仕方ねえな。断ったら冷気浴びさせられそうだし、しょうがねー。やってやるよ」
「そう。良かった」にっこり笑って、竹箒と塵取りを天人に渡した。「散髪して散らかったから、掃除しておいてね。宜しく」
「おっ、お前この俺に掃除――」
数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。
評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m
定期更新は、毎日21時です。
執筆連載中作品のため、固定更新&ゲリラ更新となります。
固定は毎日21時更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。




