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其の四

「それよりさー、腹減ったんだよ。ずっと雪山に閉じ込められていたから、暫く何も食ってなくて、腹の虫がぐうぐう鳴りやがる。その上、訳の分からねえ時代に転生させられてさ、俺は今、世界一不幸な神だよ。スゲー辛いんだ。饅頭食わせてくれるんだろ? 早く出せ」


 涙ながらに訴えられたが、俺様口調でエラソーだから、一切同情できなかった。

 もう少し謙虚にできないものか。


「おさがりのお供えものを持ってくるから、食べたら出て行ってよね」


「出ていけ!? お前、鬼か!」


「なんで鬼なのよ! 巫女だって言ってるでしょ!」


「俺さぁ、こんな訳の分からねえ世界でひとりぼっちの上、宿なしだぞ? 普通、神様だって解ったなら、誠心誠意もてなすだろーが!」


 

「なんでそんなエラソーな男を、私がもてなさなきゃならないワケ? 神様だっていうのもウソ臭いし、お供え物を分けてあげるだけでも感謝して欲しい位よ!」


「あっ、そう。そんな冷たい事言っちゃうんだ。へー・・・・いいんだな、神奈。俺を追い出したら、そのうち腹ペコになって、この世界で暴れて、炎、吹いちゃうぞ? 強えぞ、俺は。神奈の力じゃねえと、誰も俺を止められないと思うなー?」


「ひ、卑怯者!」


 天人なら、本当に暴れかねない。悪びれない言動とか、さっき本気でカンキチおじさんを斬ろうとした様子からして、嘘は言っていないと思った。


「つーわけだ。袖振り合うも他生の縁。俺が無事天上界に帰れる日が来るまで、面倒見てくれーぃ!」


「はあああ!? 冗談じゃないわよ! 今、うちの神社大ピンチなのよ! アンタみたいな男、養える余力なんか無いし!」


「あんまりごちゃごちゃ言ってると、たたっ斬るぞ」


「上等じゃないの! やれるものなら、やってみなさいよっ!」


 私の怒りのオーラがマックスになった。ゴゴゴゴゴ、と青色のオーラが私を包む。


 


「人にものを頼む態度もなっていないし、無茶苦茶だし、そんなにここへ置いて欲しかったらねえ、自分の食い扶持ぶちくらい、自分で稼ぎなさいよ――!」



 どーん、と怒りの波動が天人に襲い掛かった!





「うわっ、ヤベー気! 周りが消し飛ぶぞっ」



 慌てて天人が気を増幅させると、あっという間に炎が剣を包んだ。

 炎の剣を右手に持って前に出し、バチバチと火花を出しながら私の波動を受け止めた。オーラに押されて少し後ずさりながら、更に素早い動きで左手で着物の内部をまさぐり、懐から取り出した鏡を左手で前に掲げ、その場で争いを続けている波動に向かって何やら念じた。


 すると、ぎゅううーん、と音と共に、青色と赤色の波動が鏡に吸い込まれ、跡形もなく消えてなくなった。


 跡形もなくなった波動。私の中から生み出されたものだと思うと、呆然としてしまう。


 今のは・・・・?


 どうして、一体・・・・何故、私はこんな事ができるようになってしまったの?


 

「神奈、お前っ! この神社を吹き飛ばす気かっ! お袋の鏡を持っていたからよかったけど、無かったらお前の家どころか、辺り一帯が消し飛んでいたぞ! 何か知らねえけど、無茶苦茶なパワーだっ」


「そ・・・・そんな・・・・」


「はー。ったく、力加減もできねーのに、キャンキャン俺に向かってすぐ怒るからこういう事になるんだよ! お前、よく今まで生きて来れたな?」


「だ、だって・・・・今までこんな事出来なかったのよ・・・・!」


 青ざめて震えている私に、天人はにっこり優しく語り掛けた。


「ま、これで俺が神だって事が証明されただろ? こんな事ができるのは、神様である俺だけだ。今、神奈の命だけじゃなく、この神社をも救ったんだ。有難く思って、俺に奉仕しろ。宿が無くて困っているから、当分面倒見てくれ。後、食事も。それで今の貸しはチャラにしてやるから」


「も、元はと言えば、アンタが私を怒らせるから! それに、天人が来たから急にこんな不思議な事ができるようになっただけで、私は――」


 

「おーっと、止めろよ? この神社に相当なパワーがあるみたいだから、どういう訳かお前の力が増幅しているんだ。怒らないように気を付けろ。じゃなきゃ、マジでこの辺吹き飛んで焼け野原になるぞー」


「ぐっ・・・・」


「ま、そういう訳でヨロシク」


 ぽん、と肩を叩かれた。また、パチッと電流が走る。どうして天人が触れたら、電流が走るの? これは一体、なんだろう。


「とりあえず腹減ったから、何か食わせて」


「そんな、勝手な事出来ないわ。お父さんやお母さんに相談しないと・・・・」


「その点なら心配要らねえよ。神様だって言ったら、何時までもここへいてくれ、とあっちから頭下げてくれるから。お前とは違うよ」


「・・・・そんな訳ないでしょーが。まあ、いいわ。そこまで言うなら、やって見せてよ」


 無理だって。誰がアンタを神様なんて信じるものですか!

 不思議なパワーを持っているから、それだけは嘘じゃないって解るけれど、波動をぶっ放すなんて出来ないし、誰も信用しないって。


「神奈の親父とお袋はどこにいるんだよ?」


 口の利き方もなってないし。

 

「こっちよ。ついて来て」


 論より証拠ね。私の両親に信用して貰えなかったら、天人も諦めがつくでしょ。悪いけど、これ以上の出費は無理だから。何か遠慮なく沢山食べそうだし、家のお米とか全部食べ尽くされそうだもん。早く追い出さなきゃ。

 天人を引き連れ、宝物殿から社内に移動した。本殿の左横にある社務所を越え、更に奥へ行くとそこが自宅になっている。私の自宅は、神社の敷地内にあるのだ。


「ただいま」


 ガラガラと開く横開きのスライド扉を開き、中に入った。平屋の自宅は、オール和室の畳部屋オンリー。入ってすぐ広めの土間があり、そこで靴を脱ぐ。中に入るとすぐ、六畳くらいの応接間(と言ってもソファーみたいな洒落たものはない)に、簡易テーブルと座布団がある。ここでお客様をもてなす。

天人に会ったものだから遅くなってしまい、既にお父さんに相談があると言っていた町長の駒井こまいさんが来ていた。


「神奈。遅かったな。何をしていたんだ。駒井さん、もう来ているぞ」


「ごめんなさい。ちょっと・・・・変なのに絡まれて・・・・」


「おい、神奈。神様に向かって変なのとは何だ」


 横に連れていた天人が文句を言った。


「神奈。そちらの方は?」お父さんが天人をジロジロ見て、聞いてきた。


「あ・・・・この人ね、実は――」


 私はぼんやり突っ立っている天人を脇で突いて、こそっと耳打ちした。「ぼんやりしてないで、挨拶しなさいよ。手前が私のお父さんで、奥に座っているのが町長の・・・・」



「チ――――っス!」



 喋っている途中だったのに、おもむろに片手を上げ、驚くほど常識はずれな挨拶をやってのけた天人を見て、ずっこけそうになった。

 仮にも神様が『チ――――っス!』って挨拶するぅ!?

 チャラすぎでしょー!


 唖然としていると、天人は平然と続ける。「よっ。アンタが神奈のオヤジ? どーも。天人だ。職業神様。ヨロシクー」


「か、神様ぁ!?」


 駒井さんとお父さんが揃って驚いた。「か、神様って・・・・アンタ・・・・」


 そうよ、そうよ!

 そんな怪しげでしかもチャラい挨拶するヤツが、神様なワケないでしょーって、言ってやって!

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m


定期更新は、毎日21時です。

執筆連載中作品のため、固定更新&ゲリラ更新となります。

固定は毎日21時更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。

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