其の三
「結構広い神社だな」キョロキョロと辺りを見回した天人が言った。「それに、俺と同じ匂いがする」
「あ! そうだ! アンタの剣、見せて!」
「剣? なんで?」
「いいから!」
奪うようにして彼が持っていた剣を取った。よく見てみると、鋭く尖った刃がギラギラ輝いている。さっき見えた炎のオーラは無かった。彼と共鳴するのだろうか。軽く突いてみると、痛い。切れ味抜群の様子に見える。アブナイ。本物の剣だ。
「おい、返せよ。アブねーぞ」
「まだダメ」
私は宝物殿に奉納され、この実家の天海神社が代々守って来た神器を見た。
目の前の剣はとても古く、おおよそ人を斬ったりできるような剣では無いが、今、自分が天人から預かり、手に持っているものと全く同じ柄のものだ。由緒正しき天海の紋が入っていて、鞘は何かで傷つけられたような跡があり、割れて欠けてしまっている。
ぱっと見比べるだけでもそっくりだ。もっとよく見ようと天人の剣を置き、奉納されている方の古めかしい剣を手に取った。手入れは常にしているが、錆びているので鞘から剣を出すのに苦労する。中の刃は所々欠けているから、やはり天人の剣ではない。昔からこの神社に奉られているものらしいので、研いだりして状態をよくすることはしていない。
「あれ」剣を覗き込んだ天人が、端正な顔の眉間にしわを寄せ、ううん、と唸った。「これ、俺の剣だ」
「は? 俺の? なんでっ。貴方の剣は、こっちでしょ? 全然違うじゃない。間違えないで」
鞘に納めている、天人から預かった方の剣を彼に見せた。
「だってさ、ホラ」持ち手の部分の一番底の両方を見せながら、驚く事を平気で言ってのけた。「天上界に穴開けた時、親父が雷ぶっ放しまくって、柄の部分に当たってさぁ、大変だったんだよなぁー。そん時の焦げ跡が、全く一緒」
天上界に穴?
親父が雷ぶっ放しまくり?
焦げ・・・・?
雷が当たって、柄が焦げたりするものなの?
それって、普通死なない?
それとも、よほどの火事ってコト?
天人の言葉の意味が解らず、理解に苦しんだ。
「両方、焦げた所の位置も形も一緒だな」
「えーっ、じゃ、じゃあ・・・・この剣・・・・もとは貴方のものって事!?」
「ま、そーなるんじゃねーの? わかんねー」
「解らない・・・・って・・・・無責任ね」
「同じ剣が二本あって、もう一本が超オンボロってコトは、俺は相当先の未来の国へ来たってワケだな。言葉が通じるから、俺が元々いた場所は同じだけれど、時代を飛び越えたって思えばいいのか」
「未来? アンタ、過去から来たの?」
「よく解んないけど、多分。これは、勘だ。俺の天才頭脳の閃きから導き出した答えだから、間違いねえよ」
勘による閃きほど、当てにならないものはない。
従って真顔でカッコつけて言われても、信用する事はできなかった。
「俺さ、実は天上界追い出されちゃったんだよねー。人間界で修業して来いってさ。気が付いたら見知らぬ場所だし、何処へ行っていいのかさっぱり解んなくて困っていたら、変なオッサンに言いがかりつけられて捕まるし、女が来たと思ったら、俺に冷気喰らわすジャジャ馬だし、踏んだり蹴ったりだ。それより、この世界って美女はいねーの? できれば美女とイチャイチャしたいんだけど」
「・・・・アンタ、ここへ一体何しに来たの?」
彼と喋っていると、頭痛がするのはどうしてだろう。
「だーかーらぁー。修業だって。しゅ・ぎょ・う! 人間に感謝されたら天上界に帰れるらしいから、早く俺に感謝してくれよ」
「アンタの何処に感謝する要素があるワケ?」
「神様なんだから、人間から感謝されまくりだろーよ。早く感謝しろよな」
エラソーにドヤ顔で言うが、さっきその人間を斬ろうとしていたのは誰?
そんな事すれば、恨みしか買わないと思う。
けれども、この男にツッコむのが面倒なので、全部聞き流した。
「じゃあ、今、この世に巣くう恐ろしいウィルスをやっつけてよ。そうしたらみんなから感謝されて、さっさと天上界へ帰れると思うわ」
こんな意味不明な男に関わっていると、ロクな事にならない。
早く天上界とやらに追い返そう。解決策を提案した。
「神奈の言う通りだな。いいぜ。なら、そのウィルスってヤツを俺の前に連れてこいよ。たたっ斬ってやるから」
「ウィルスって目には見えないの。細菌だから。幾ら天人でも斬れないよ」
「ふーん。じゃ、悪い奴をジャンジャン連れてこいよ。俺が片っ端から斬ってやるから」
「斬る以外の発想は無いの? 神様だったら、悪い病気をぱぱーっと蹴散らして、平和な世の中にしてよ」
「俺、斬る専門」
「は? 他に無いの? 神様なんだから、何でもできるんでしょ!」
「んにゃ、できねー」
「・・・・」
「神と言っても、色々種類があるからな。俺は闘いの神だ。悪い奴を斬る専門だから」
目の前のアンタが一番の悪だと思うのは、私だけ?
数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。
評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m
定期更新は、毎日21時すぎです。
執筆連載中作品のため、固定更新&ゲリラ更新となります。
固定は毎日21時更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。