其の五
駒井さんが手配してくれたタクシーに乗り、私達四人は天海神社へ戻った。すっかり日は暮れ、もう夜に近づいている。駒井さんがお礼に、特上寿司を神社に人数分届けるから、と約束してくれたので、天人はほこほこ顔で喜んでいた。
タクシーから降りる際、私は不可抗力ながら天人に背負われた。まだ立てないのだ。
眠っていたじぞーちゃんやミケもようやく眠りから覚め、天海神社へ降り立った。
「神奈、ごめんなさい。アタクシとしたことが、知らない間に眠ってしまって、神奈に苦労をかけちゃったわね」
「ボクもごめんね。大丈夫やった?」
「ええ。私は大丈夫よ。天人が助けてくれたから」
「へえ、坊主の癖にやるわね」
「ケッ。眠り地蔵に眠り猫なんて、クソの役にも立たねーな」
「だからそれについては謝っているでしょ!」
「フン。もし俺がそんな失態犯してみろ? お前ら全員で総攻撃するだろ。何でお前らは役に立たなくても赦されて、俺はダメなんだよ!」
「アンタは神様なんでしょ! アタクシや地蔵より役に立って当然でしょう? 何をエラソーに言っているの」
「ケッ。このクソ猫が。やんのか、コラ――」
「喧嘩、まだするの?」
何時もニコニコしているじぞーちゃんが、怖い顔でミケと天人を睨んでいる。「神奈を背負ってなかったら、ボク、間違いなく天人にのしかかったで。もう、その辺で喧嘩止めといてやー」
普段笑顔のじぞーちゃんが怒った顔すると、超怖いわね・・・・!
「地蔵、ごめんなさい。アタクシなりの愛情表現だから、喧嘩している訳じゃないのよ?」
苦しい言い訳だ。
「そーなの?」
しかし、素直なじぞーちゃんは信じてしまう。ふふ。カワイイなぁ。
「モチロンよ。喧嘩をしている訳ではなくってよ」
「そっか。それなら良かった」
じぞーちゃんは再びニコニコ笑顔。良かったわ!
――天人。天人!
あれ。何か声が聞こえる・・・・!
もしや謎の声? まだ消えていなかったの!?
――違う、違う! 儂だ。蒼玄だ。神奈や仲間も一緒だろう。彼らは構わないが、人払いしてくれないか。そうだ、宝物殿がいい。そこに入ってくれ。
「親父!?」
謎の声では無かった。天人のお父様――天地創造の大地神、蒼玄様だ。見ると、初めて彼の声を聞いた時と同じように、大地心の勾玉が翡翠色に光っていた。
「宝物殿の鍵は社務所よ。じぞーちゃん、ごめん。取って来てくれる? 場所は解るわよね?」
私はまだ立てないので、じぞーちゃんにお使いを頼んだ。
「うん。待ってて!」
たたたーっとじぞーちゃんは走って行って、社務所から鍵を取って来てくれた。以前は解放していたけれど、参拝客が増えてきた事と、前回のスネ太郎の件もあるから、鍵を掛けるようにしたのだ。
鍵を開錠し、宝物殿に入った。もう秋だから日暮れから冷えるようになった。空調の無い夕刻の宝物殿は肌寒い。
「親父っ。何の用だよ! あと、やっかいな奴が人間界でのさばってるじゃねーか! アレ、何だ? 禁忌の呪詛使いって言うなら、天上界のモンだろ」
「当然だろ。何時までも人間界にいる訳にはいかねーし。さっさと還って、もう人間界なんか来なくていいように、平和にアッチで暮らすから」
「アンタ・・・・謎の声の事はどーすんのよ。無責任な男ね」
「俺が還ったら、謎の声のヤローはもう現れねーよ。勾玉狙いっぽかったし、俺が神器持って帰ったら、天上界に戻って来るさ。人間界に用はねーよ」
「このまま声の主が人間界にいついちゃって、天上界に戻らなかったら? 坊主、責任取れるの?」
「ミケは意外に心配性だな。んなの大丈夫だって! もし何かあっても、そん時はそん時だ! 何とかなるだろ。あっはっは」
高笑いする天人を、ミケが軽蔑の眼差しで見つめていた。天人の態度に落ち込む気持ちを隠せない私の事も、彼女にはしっかりと見られていた。
それにしても急ね。
明日、天人が天上界に還ってしまうなんて――
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