其の二
なかなか怖い事を言うわね、じぞーちゃん。
貴方が乗っかったら、多分天人以外は死んじゃうわ。石だから。重すぎて。
「地蔵。悪かったわ。一時休戦にするから。とにかく人間と会話してみましょう」
「今度喧嘩したら、ボク、めっちゃ怒るよ!」
可愛い顔をしてぷくーっとほっぺを膨らませているじぞーちゃんに、ミケがもうしないから、と言って宥めていた。なんだかんだで、この二人は仲良しだ。
という訳で、早速通りかかった女性に聞いてみた。町人Aは、小太りの中年女性。どこにでもいるおばさんだ。
「この建物は行かれた事はありますか?」
「いいえ」
全く内容の無い会話だった。収集無し。
次に通りかかった、これまた中年のおばさん町人Bに聞いてみた。
「この建物に――(以下略)」
「私は入れないのよー」
ああ、成程。聞く年齢層が悪いのね。確かこの宗教団体は、若い人しか入信できないって言ってたわ。しかも女性限定で。
という訳で早速若い女性を探してみた。でもこの周りは変だった。若い女性がいないのだ。
「おかしいわね」
「どっかに出かけてるんじゃねえの? 昼間だし」
それはそうかもしれないけど、思っている以上に数が少ないような・・・・?
中年のおばさん以上の年齢の女性か、後は若い人は男性しか周りにいない。こんな事ってある?
「神奈、このままじゃ埒があかないわ。人間の話しを聞くより、とりあえず中へ入りましょう! イベントが進むかもしれないわ」
ミケに押し切られ、町の人に話を聞く作戦は諦めて建物内に入る事になった。情報収集大事なのにー。
「たのもー!」
じぞーちゃんの可愛い挨拶が、建物内部に響き渡った。この宗教施設の外装はキンキラ、内装もキンキラしていて、金綺羅教と名乗る宗教施設に相応しい、他とは違う異様な雰囲気をしていた。
受付はあるが誰もいない。空っぽだった。大きなモニターが壁に掛けられていて、監視カメラも沢山ある。
『どちら様でしょうか』
ブウン、とモニターが点く音がして、キラキラの衣装を纏った二十代後半くらいの優男が現れた。眼鏡をかけていて、真面目そうな男性。お世辞にもイケメンとはいえないが、誠実そうな雰囲気はあった。
「あの・・・・人を探していまして。こちらの団体に入信すると言ったきり、帰ってこないのです。お父様もお母様もとても心配されていらして・・・・駒井麻沙子さんという方、こちらに入信して、教祖様の下にいらっしゃいませんか?」
私はそのモニターに向かって、駒井さんから借りた麻沙子さんの写真を見せた。
『生憎、信者のプライバシーは他の方にお伝えする事は出来ません』
居る、とも、居ない、とも言わない、か。食えない男ね。もしやこの男が教祖様?
「しかし娘さんがこちらに伺ってから、入信するからもう帰らないと言い、実際に帰って来ていないのです。お父様もお母様も、大変心配なさっています。確認の為に、中を見させて頂く事は可能でしょうか?」
とりあえず様子を探ってみよう。
『ええ、構いませんよ。お入りください』
てっきりダメって言われるかと思ったのに、拍子抜けだ。という事は、見せても大丈夫なものしか無いのかしら。それとも、麻沙子さんはもう別の所にいる・・・・?
『ただし、条件があります。ここは男子禁制でお願いしております。女性ばかりで、僕以外の男性に不慣れな者もおります故・・・・どうか、ご理解下さい。それから、アレルギーのある方もおりますので、ペットはご遠慮頂けますでしょうか。貴女お一人なら、調査に来ていただいて結構です』
私一人、か。心許ないけれど、仕方ない。背に腹は代えられないものね。
「・・・・解りました。では、私の連れはここで待たせていただいても宜しいでしょうか?」
『勿論ですよ。そちらの応接ブースでおくつろぎ頂き、お待ちください。飲み物は添え付けの冷蔵庫に入っている、お好きなものをお飲みください。オートロックを解除しますので、開いたら中にお一人でお入り下さい。中でお待ちしております』
色々と指示をされたので、その通りにする事にした。
「ぱーっと見て来るから、留守番できる?」
「任せて欲しいねん!」
「ニ” ニ” ニ” ニ”(モチロン)」
誰が何処でどう見ているか解らないこの空間で、ミケは喋らずにダミ鳴き(わざと声をダミらせて鳴くから『ダミ鳴き』と名付けた)で返事。防犯カメラもあるし、それを意識しての事だ。もしミケが喋る猫なんてバレたら、とんでもない事になる。
肝心の天人は早速冷蔵庫を開けて、美味そうなジュースが入ってるぞ、と喜んでいる。
「飲まない方がいいと思うよ? 変なものが入っていたらどうするの」
金綺羅教なんて怪しい宗教施設に置いてあるドリンクなんか、飲まない方が得策だ。飲んだら毒ダメージ喰らうかもしれないし。
「何でそんな事言うんだ! 神奈は酷い女だな。いい教祖様じゃねーか。ジュースタダでくれるって言ってるんだ。くれるって言うもの、貰わなくてどーする」
まあ、この男だったら毒を飲んでも死ななさそうだし、大丈夫か。
「・・・・とにかく気を付けてよ。私がいなくなるんだから」
「神奈なんかいなくても大丈夫だ。俺がいる」
だから心配なのよ!
って言うと喧嘩になるから、黙っておいた。
「神奈。ボクとミケがいるから、大丈夫やねん。行って来てよ」
流石じぞーちゃん。本当に頼りになるわ。
「ふふ。じぞーちゃん、ありがとう。頼りにしているわ。ミケもね」
「おい。俺を忘れているぞ」
「・・・・うん。天人も、頼りにしてる」
ここで天人だけ言わなかったら、絶対機嫌悪くして、私がいない間にミケと喧嘩して、じぞーちゃんが困る事になりそうだ。
だから敢えて素直に天人を頼りにしてる、なんて口から出まかせを言ってしまった。まあ、緊急事態だから。仕方ないよね。
「そ、そこまで神奈が強く言うなら、仕方ねえから待っててやる。そだ。もし何かあったら、俺を呼ぶんだぞ。すぐ駆けつけてやるからな。あと、これ持っていけよ」
勾玉を首から掛けてくれた。「鏡もあった方がいいかもな。駒井の娘、正気に戻すならうってつけだろ」
とりあえず大切な神器をふたつ預かった。「行ってくるわ」
「気を付けろよ」
「ええ。大丈夫。何かあったら天人が守ってくれるんでしょ?」
「当然だろ。お前がいなくなったら、誰が俺の飯作るんだよ」
なっ・・・・それってなんか、結婚しているみたいな言い方じゃない!?
相当誤解のある言い方だと思うけれど、まあいいわ。何故か嫌な気はしなかったから、訂正するのは止めた。
キンキラの内装の受付の右奥に扉がある。さっきオートロックを解除する音が聞こえてきたので、中に入った。
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