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其の二


「アンタ一体、どこから来たの?」


「アンタなんて呼ばないで欲しいな。神様に向かって失礼な女だぜ」


「名前も名乗らず、神様とか訳の分からないことを言う男を、何て呼べばいいわけ?」


天人あまとだ。俺は天人。お前は?」


「神奈よ。天海神奈あまみかんな。すぐそこの丘の上にある、実家の神社で巫女をやっているの。アルバイトだけど」


「巫女ぉ? お前が?」ジロジロと視線を投げられ、容姿を値踏みされた。「クソ色気ねーじゃん。巫女ってのはもっとこう、胸の大きな美女がやるモンだぜ」


 女性特有の湾曲したボディーラインをなぞるように、天人がいやらしく手を動かした。


「――アンタねえっ!」


 馬鹿にされ、メラッと怒りのオーラが私を包んだ。なんか・・・・青色の光が、私の全身から発せられている。それに共鳴するかのように、天人の首からぶら下がっていた、大地を象徴するかのような美しい亜麻色あまいろの勾玉が、突然光り出した!



「わっ、つめてえっっ! 冷たいって――――っ!! おい、お前! かんなっ! その怒り、止めろ! つめたい、冷たいつ・め・た・い――っ!」



 途端に、天人が悲鳴を上げた。


「えっ、なにっ? どうしちゃったの?」


「冷たいって! 凍え死ぬっ! 神奈っ! お前のオーラがこの勾玉に共鳴してんだよ! 止めろ! 今すぐ!!」


「止めろったって・・・・そんな、どうすればいいの!?」


「とにかく怒りを鎮めてくれ!」


 そんな事急に言われても――と思っていたら、私を取り巻いていた水色のオーラは徐々に薄れてしまった。あれ、と思っていると跡形もなく消えてしまったのだ。



「あ“――っ、クッソ酷い目に遭った! 凍傷になるだろーっ!!」



 大声で文句を言われた挙句、ジロリと睨まれた。

 それって私が悪いのだろうか。そもそも初対面で人の容姿にケチつける方が悪いと思う。


 

「それより神奈・・・・お前、神通力が使えるのか? 俺をこんな目に遭わせやがって」


「霊感はあるけど、神通力なんて使え無いよ」


「でも今、俺に冷気を浴びせた! こんな事出来るのは、オヤジかオフクロか、ねーちゃんしかいねーもん」


 オヤジにオフクロにねーちゃん・・・・。この言葉遣い、チャラい上にガサツねぇ・・・・。

 呆れたため息が出た。


「何かの間違いでしょ。私はとにかく、何の力も無いもの」


「ふーん・・・・。ま、いいや。それより――」ふんふんと鼻を鳴らして、彼は言った。「美味そーな匂いするけど、何だ? 甘い・・・・香り・・・・」


 彼の泳いでいた視線が、ピタリと私がぶら下げていたお饅頭の入ったビニール袋に注がれた。「それだ! なんか、いー匂いがする」


「あ、これ。お饅頭よ。今からお客様が来るから、三つ豆堂にお茶菓子を買いに来た帰りなの」


「食わせてっ。腹減った」


「ええーっ。アンタの分なんか無いわよぉ」


「そこを何とか!」


 神様と名乗る男に拝まれた。神様なのに、人間を拝むの? 普通、逆なんじゃ・・・・?

 

「買って来ればいいじゃない。さっきおじさんが向かった方に――」そこまで言って、はっと気が付いた。この男をみつ子おばあちゃんの所に一人でやって、店で暴れたりしたら大変だ!

 お金も持っていなさそうだし!!


 実家の天海神社に連れて帰れば神聖な結界もある事だし、悪霊なら悪戯はできないでしょう。この男は、とりあえず普通の人間じゃなさそうだ。見た目は人間っぽいけれど、どうも胡散臭いオーラぷんぷんしているし、容赦なく人を斬り捨てそうだし、危険!


 私が見張っておかなきゃ!!


「わかった。家に戻ったらお下がりのお供えものがあるから、それを分けてあげる。ついて来て」


「話が分かる女で助かるよ」


「エラソーね」


「だって俺、神様だもーん」


「・・・・」


 思わず冷ややかな目線を送ってしまった。この男、何なんだろう、一体。


「神奈。とにかく俺は腹が減った。腹が減ってどうしようもなくなったら、俺は容赦なく暴れるぞ。暴れたらこの辺り一面、火の海になるぞーっ」


 それを聞いた途端、ごごっ、と私を再び水色の怒りオーラが包んだ。すると、凍えるっ、冷てえっ、痛い、と天人が悲鳴を上げた。


 


「うそっ! うそだから!! ごめんなさいっ! 暴れないから!! もうしませぇーん!!」



 彼のオーラが赤く見えるから、火に関わる霊かなにかだと思った。冷たいものが苦手なのかな? 火は水に弱いって言うし。


「チェ――っ。とんだジャジャ馬に捕まったぜ! 俺の未来、お先まーっくら! 最悪最低」


 ゴゴ・・・・私のオーラが水色に・・・・――


「うそ! うそうそうそうそ! 今のぜぇーんぶ、うそ! ごめんごめんごめん。もう言わない! たすけてぇ」


「黙ってついてきなさい」


 うるさく喚き散らす彼をひと睨みして黙らせ、丘の上に鎮座する神社へ向かった。ここに私の実家、天海神社がある。

 百段ほどの階段を上り、あか色に塗られた立派な鳥居をくぐる。この場所なら、もう安全だ。

 こんもりとした小さな丘の上に鎮座するこの天海神社は、京都の奥座敷に位置する場所にある。目下には小さな町が見え、見晴らしがいい。彼らの生活と祈りと共に、この神社も長らく栄えてきた。


 しかし、しかーし!!



 今、かつてない程の打撃を受けているこの町。そして我が実家の神社・・・・!



 現在の世の中は、新型の恐ろしいウィルスが大流行!

 そのせいで、参拝してくれるお客様や旅行に来てくれるお客様が、激減したの!!


 お供え物も少なくなってしまい、大事な行事の時には自分たちで買いに行かなきゃいけない始末。行事ができるならまだいい。昨年は軒並み大事な行事の中止を余儀なくされた。

 観光地として古くから栄えてきたこの温泉宿も寂れていく一方で、歯止めがきかない。数年前は海外で人気を博した事で、国内・海外問わずお客様が来て下さった。しかしウィルスが蔓延している今は、それも望めない。


 毎日毎日お祓いしたり、ご祈祷しているのに、一向に世間の景気も回復しないし、ウィルスによる世界侵略もおさまらない。

 ご近所さんも懐事情が侘しく、なかなか参拝も見込めず、お賽銭を落としてもらえないし、ご祈祷も密になるからという理由から、全っっ然予約が入らない!



 うちの神社も、この町も、ううん、世界中で経済的な大ピンチに見舞われているのだ。


 

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m


定期更新は、毎日21時です。

執筆連載中作品のため、固定更新&ゲリラ更新となります。

固定は毎日21時更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。

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