其の六
「よっしゃ、ミケ、行くぞ!」
「ええ。死ぬ気で神奈を守りなさいよ? 神奈を怪我させたりしたら、アタクシが承知しないからね!」
「言われなくてもそうするっての!」
天人が腰から下げていた剣を抜いた。ぶわっと炎が剣を包み、あっという間に炎の剣となる。
真剣に敵を見据え、凛とした横顔・・・・真面目な顔をしているとすごくカッコイイ――って、戦闘中に天人に見惚れてどーすんの、私!
ち、ちがうっ。そーいうんじゃないから、今のナシ。今のナシ!
「行くぜ!」
「挟み撃ちよ!」
天人が狐A、ミケが狐Bの横に回り込んで、それぞれアタック――と思いきや!
『幻惑の術(マヌー〇)!』
あっ。これ、知っているわ!
幻影が沢山出てきて、敵の姿が複数に見えてしまう、恐ろしい術、マ〇―サね。
「うわっ、なんだこりゃ!」
「き、狐が四体に増えた!?」
――気を付けて! それは幻惑の術で、敵の姿が増えて見える術やねん。間違った敵に攻撃しても、ミスになっちゃうよ!
「あ”!? なんだそりゃ! とりあえず片っ端から斬るぞ!」
天人が炎の剣を振り下ろし、敵を一刀両断――ミス! 斬ったのは幻だった!
ミケの攻撃! ミス! 斬ったのは幻だった!
しかもタチの悪い事に、その幻は復活してしまう。叩いても、斬っても、何体も現れる幻ばかりを切りつけてしまい、中々本体に当たらない。こちらの攻撃は全然当たらなくなってしまったのに、相手はそうじゃないから徐々に体力を奪われる。
――神奈っ。出番やで! 回復を!
「任せて!」
もう二回目だからすっとできるようになった回復魔法(〇イミ)を掛けるべく、勾玉を掲げて祈った。彼らの傷は見る間に回復し、元気になってくれた。
「こんな面倒くさい戦闘、やってられっか! もう頭来た!!」
天人が私の方にずかずかやって来て、ぐい、と抱き上げた。
「へっ。や、何!? こんな所で何すんのよ!」
「バカ、ちげーよ! 勘違いして暴れんなっ! 神奈ごと勾玉の力で俺の術の力を増幅させてやる。いくぞ、狐A・B!覚悟しやがれ!」
天人は思いきり息を深く吸い込み、私を抱きしめる腕に力を入れた。
――超破壊炎(ベギラゴ〇)!
口から炎を噴き出した。
ごおおおーっ、と辺りの幻覚狐までもを飲み込み、炎の海が目の前に広がった。
『罰当たりめが――! 神の分際で、己を奉る社(神社)を燃やす気か――っ!』
焦った狐の声が頭に響いた。
スネ太郎の檻も燃えているらしく、焼け死ぬ―、と悲惨な泣き声が上がった。
「うっせーよ、俺がしるか」
天人は無責任に言い放った。
えー・・・・私の財力じゃ神社の弁償なんかできないし、そもそも田長さんに迷惑がかかるでしょーがああああ!!
『何という無茶苦茶な男! それでも神かぁっ!!』
炎に包まれた狐たちが怒っている。そうだそうだ! もっと叱って下さい!
「早く消さなきゃ、お前らが困るんだろ。俺はしらねーぞ」
天人の最悪の一言に、遂に私の怒りが爆発した。
「もうっ、天人、何をやっているのよ! この神社が燃えて無くなったりしたら、アンタの事一生赦さないからね――――っ!!」
ドン、と私の中から大きな気が放出された。
辺りをキラキラと金色の美しくまばゆい光が包み、燃え盛る炎を消化してくれた。歪んで恐ろしい形相になっていた狐AとBは元の綺麗なお稲荷様の姿に戻り、異次元空間の歪みを消し去った。
ほっ。神社は無事だ。万が一この神社が天人のせいでなくなったりしたら、田長さんに何とお詫びすればよいか・・・・。本当に良かった。そして例の如く、私はパワーを使い果たしたようで、立てなくなってしまった。
「かんなー」
地蔵の姿から子供の姿に戻ったじぞーちゃんが、私に駆け寄ってくれた。「大丈夫?」
「うん。何とかね。神社が燃えなくて良かったわ」
「ホンマ、天人は無茶するなぁ」
本当にそうね。そりゃお父様も手に終えず、天上界を追放しちゃうわ。こっちはとんだとばっちりだから、早々にもとの世界へ帰って貰わなきゃ。
「神様の癖に坊主は賢さがゼロだから、何も考えていないだけでしょ。神社が丸焦げになったりしたら、人間界も追放されて地獄行きにでもなってしまうとか、そーいうのが全っ然、考えられないのよきっと」
辛辣なご意見、ありがとうございます。ミケ様。
「ケッ。助けてやったのに、全員で何だよその言い草!」
「もう少しましなやり方ってあるでしょ。だから何時までたっても坊主なのよ」
「フン。ババア猫に言われたくないね」
「なんですって!」
また始まった。何時もの幼児喧嘩だ。
「あ”? ヤル気かコラ?」天人がジロリとミケを睨んだ。
「フン」ツン、とミケが天人にお尻を向けた。
「このクッソ猫・・・・今に見てろよ・・・・」
余程腹が立ったのか、天人がぶつぶつ言っている。神様の癖に、器が狭いなぁ。
犬猿の仲とはよく言ったものだけれど、神猫――しんみょう、とでも呼べばいいのかしら――の仲とは聞いた事が無いが、この二人は事あるごとに喧嘩をしている。余程相性が悪いのだろう。水と油みたいな。
「それよりこの悪い人間、どーする? 気絶しているみたいやけど」
じぞーちゃんが言っているのは、スネ太郎の事だ。焼け死んじゃうよー、と泣きながら気絶してしまった模様。とりあえず無傷で、大事には至っていない。
「後で起こしましょう。彼を起こす前に、稲荷様とお話する必要があるわ。じぞーちゃん、どうすればいいかな?」
「ボクに任せて! 稲荷君とお話してみるねん」
そう言って、たたたーっとお稲荷様の下へ。
それからミケがねずみと喋った時の様に、暫く話が続いた。
「ふんふん。成程。それで怒っていたんやぁー」
何に怒っていたのだろう? ていうか、お稲荷様と喋れるんだ?
あ。そっか。お互い石だから? 石友? ・・・・違うか。
「解った。約束する! ボクが必ず、田長さんに伝えるよ!」
どうやら話がまとまったらしい。じぞーちゃんがにこっと笑うと、ありがとう、と柔らかい声がした。お稲荷様を見ると、笑っていらっしゃるように見えた。
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