其の五
田長稲荷神社を再度、くまなく全員で調査した。しかし、何も見つからなかった。誰かが隠れられそうな物置のような場所も探したが、勿論誰もいなかった。しかも昨日、カンキチおじさんと一緒にここも調べた、と田長さんはおっしゃっていた。
「おかしいわね・・・・」
「ここからは何の匂いもしねーから、誰もいないって」
犬みたいに鼻が効くのね。まあ、天人が言うのだから間違いないでしょう。
結局調査は空振りに終わってしまった。遠い所(実際そんなに遠くないけどね。同じ町内だし)わざわざ来て下さったお礼にと、ご馳走を頂いた。炊き込みご飯に、山菜の天ぷら。最高の組み合わせだ。手作りのゴマ豆腐もご馳走になった。ホント、全部美味しかった!
じぞーちゃんは、お下がりのお団子とお饅頭を貰って満足していた。ミケはねこまっしぐら缶という謎の名前の缶詰をご馳走になっていた。カツオ風味で美味しいらしい。気に入っている模様。今度買ってあげよう。
天人には酒は控えるように言ってある。調査に来て手ぶらで帰ったら経験値とG(お金)が貰えないから、何かしらの成果は上げなきゃ、という訳で夜中に再調査をする事に。
スネ太郎と同じ時間帯になってから出発。一応懐中電灯を持って備えた。提灯は夜でも点いているようで、稲荷社は明るかった。
「何か感じる?」
「んにゃ」
聞いた私がバカだった。
「ミケやじぞーちゃんはどう?」
「特に何も感じないわね。アタクシこれでも、霊的なものを感じ取ることができるのよ。神奈ほどじゃないけどね」
「ボクもー! 何も感じないなぁー。何もいないんかなぁ」
稲荷社の中央賽銭箱から、先を覗いてみた。社殿は赤く塗られているから、提灯の光を受けて鈍いオレンジのような色になっている。提灯、赤い柱が奥まで続いている。奥の方までは見えない。
「とりあえず一周、行ってみようぜ」
天人が声を掛けてくれたので、進んでみる事にした。
スネ太郎と同じく右側より提灯の下を歩こうと、賽銭箱から踏み出したその時だった。急に冷たい空気が流れ込んだかのように、ヒヤッとした。――空気が、変わった。
「みんな、気を付けて。空気が変わったわ」
「そうなの? 何も感じなかったけど」
「ボクもー」
「気のせいじゃねえの?」
天人は論外だろう。普段から感じないのに。
「・・・・とにかく気を付けてね」
先導を切る天人に気を付けるように促し、私は最後尾を歩いた。提灯回廊を進み、奥の突き当りを曲がった。本来ならすぐに二体の白いお稲荷様の所に出られるのに、また回廊が続いている。
「あら」
「動画と同じやん!」
「どうなってんだ!?」
彼らは口々に騒いだ。だから言ったのに・・・・。
「どうやら、スネ太郎と同じ空間が出現したようね。とりあえず歩いてみましょう」
今日同じ様に歩いたが、長方形の回廊は同じ様に続いていて、元の賽銭箱のスタート位置には戻らなかった。かれこれ三周くらいはしたと思う。
「なんだココは。歩いても歩いても、また同じとこじゃねーか!」
遂に天人が怒り出した。「こーなったら・・・・奥の手だ!」
彼が息を深く吸い込んだ。
「何か打開策がある筈・・・・って、天人! 火を吹いて柱を燃やそうとしないでっ!」
回廊の柱の一部に向かって火を吐こうとする天人を、慌てて止めた。「火事になっちゃうじゃない!」
「こんな幻覚空間で火事になんかになるかよっ。いいから見てろ!」
イッツファイヤーショータイム!!!!
ごおおおーっとすごい勢いで天人が口から火を吹き出した!
まるで曲芸ね。サーカスの火吹き名人を見ているみたい。魔法で言うなら爆裂炎(メラゾー〇)だわ!
炎系の最大呪文のような炎で、罰当たりにも回廊の一部を燃やし始めた。すると――・・・・
――この罰当たりめがぁっ!
例の低く暗黒の帝王のような声が頭の中で響いた。すると、回廊の一部がぐにゃりと曲がり、景色が変わった。時空の歪みのような悪酔いしそうな景色で、全てが曲がって歪んでいた。
『我らを冒とくするのは、お前たちか』
甲高い声が聞こえたと思ったら、目の前に大きな白い狐が二匹も現れた!
きゃああ、これって戦闘!?
私の脳内で戦闘曲が流れ出した。チャララララララー。
~是非、お好きな戦闘BGMを頭に流しながらお読み下さい~
たすけてーえ、と間抜けな声が聞こえてきたのでそちらを見ると、何と檻に入れられた行方不明のスネ太郎の姿が、狐二体のすぐ側に見えたのだ!
「スネ太郎だわ!」
彼は泣きながら、助けてえー、を連呼している。
「異次元空間にいたのかよ。そりゃ、境内探しても見つかんねー筈だ」
「じぞーちゃん、取りあえず敵の情報をお願い!」
急に戦闘に入ったから、先ずはしっかり体制を整えなきゃ!
「任せて!」じぞーちゃんは早速地蔵スカウターとやらで、数値を確認してくれた。「狐A 戦闘能力六百、狐B、戦闘能力六百! 属性は土! 弱点は風!」
六百・・・・!
強いわね。前のねずみより強い上に、二体もいるなんて!
勝てるのかしら!?
「だったらアタクシの出番じゃない! いくわよー!」
先行はミケね! 鋭い爪攻撃! ヒットして狐Aにダメージを与えた!
「きゃー、ミケかっこいいっ!」
思わず黄色い声援が飛び出た。
「ふふ。このくらい朝飯前よ。神奈、下がっていなさい」
何処かのチャラ神様と違って、頼りになるー!
「とにかく地蔵の後ろに隠れましょう。この子は石になったら全く攻撃を寄せ付けないわ。盾代わりに使いましょう!」
可愛いじぞーちゃんの後ろに隠れるのは気が引けるけれど、石だから大丈夫か。前からの攻撃については、守り万全ね!
「大爆炎(ギ〇)ッ!」
天人が狐たちの前に躍り出て、火を吹いた。
あっ。これは噂の同族の敵グループにダメージを与える『〇ラ』ね!
知っているわよぉー。
小手調べのようで、威力はそこそこのものだろう。でも、確実にダメージを負わせていると思う。
『小癪な』
狐Aの攻撃! ミス! じぞーちゃんは攻撃を跳ね返した!
狐Bの攻撃! ミス! じぞーちゃんは攻撃を跳ね返した!
やった! じぞーちゃんの後ろにさえ隠れていれば、私もミケも無傷だわ、と思ったのも束の間、――神奈。次、神奈を狙ってくるよ、あの狐たち。気を付けて、と、じぞーちゃんの声が聞こえる。あああ・・・・そうよね。そんなラクな戦闘無いよね。
「神奈っ。これ持って下がってろ!」
鏡を受け取った後、天人が勾玉を首に掛けてくれた。
じっと天人が私を見つめる。「親父のパワーがきっと神奈を守ってくれるから。心配すんな。俺が瀕死になる前に、回復の援護頼むぞ」
「任せておいて!」
「頼りにしてるぜ」
ぽん、と頭を撫でられた。あれ・・・・天人に触れられた所が、ふわっと温かい。
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