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其の四

 突き当りの回廊を右に曲がると、本来なら中央に造られた小さな稲荷社に出る。この神社は小さな社の集合体で、まずは最初に立派な本殿があり、裏にもう一つの稲荷社がある。この稲荷社に行くために提灯の並んだ回廊を歩き、その道中に賽銭箱やら、鈴やらが所々に設置されていて、好きなようにお参りができるようになっている。その先を抜けたら、小さな社に奉られた白いお稲荷様が二体、参拝客をお出迎えして下さるのだ。

 しかしその動画配信者は、何時まで経っても回廊を抜けることができないでいた。


「あれあれ? 迷子かなあー?」


 焦って走り出し、スネ太郎が次の角を曲がった。長方形の回廊になっているので、曲がれば元の場所へ戻って来るが、しかしまた同じ回廊が続いている。奥の方まで果てなく続く提灯の数、そして目の前で繰り広げられている不思議な現象は、恐ろしさを感じるほどだ。

 

「いやちょっと待ってっ。一本道で僕ちゃん迷子っておかしくなーい?」


 焦っているのにカメラを投げ出さずに撮影し続けるのは、ある意味プロ根性があると思う。

 スネ太郎は走って次の角を曲がった。しかし、また同じ回廊が――



「やだやだやだやだっ。ウソだよっ、そんなぁっ。こんなのあり得ないから――っ!」



 彼は元来た道を逆走し始めた。前に進むのが無理なら後ろ向きにと思ったのだろう。しかし、逆走して元の道を戻っても、回廊は同じ場所。出口は無かった。



「うわああああ――っ! 出してええええ――っ!!」



 その後は、スネ太郎がとにかく走って叫び声を上げる姿がひたすら記録されていた。しかし叫んでいる途中で、その映像は途切れてしまったのだ。恐らく、撮影用のビデオかスマートフォンの電池が切れたのだろう。生配信だったらしいが途中で映像が切れたので、動画のコメント欄は彼の話題で持ちきりだ。どうせドッキリだろう、とか、その割には迫真の演技だな、とか、その動画には彼を心配する声や中傷する人、それぞれ沢山のコメントで溢れていた。中にはご丁寧に、警察に通報しました、続報待ちます、と書いている人もいた。


「動画はここまでです。昨日、カンキチさんが来て下さって一緒に神社内を徹底的に調べたのですが、誰も見つかりませんでした」


「そうですが・・・・失礼ですが、田長さんはこの方に問題があった時は、どうされておられましたか?」


「もう就寝中でした。私どもは朝が早いので、当然就寝も早いのです。封鎖もしておりましたし、悲鳴なんかは全く聞こえなかったものですから、奥の様子がおかしいという事は全然気が付きませんでした。彼は無許可で勝手に遅い時間にやって来て、裏の柵を乗り越えて入られたようなのです」


 解る。私もそうだもん。神職は朝が早いからねー。

 それにしても勝手に入ってくるなんて、昨今の若者はどうなっているのかしら!

 何をしても赦されると思ったら大間違い。罰が当たったんじゃないの?

 


「罰が当たったんじゃねーの。神を冒とくするから」



 私が思った事を、天人がズバッと一言。「こんな勝手なヤツ、ほっといてもいいんじゃねーか? 実際姿もない訳だし、帰ったんじゃねーの」


「バイクを置いて? それならバイクに乗って帰らない?」


「そりゃ・・・・あれだ。何か、急に歩きたくなったんだ。バイクは後で取りに来るだろ。だから、放っておいて構わないに一票!」


「そういう訳にはいかへんよ、天人。悪い人間のせいで、この神社が悪く言われたら可哀想やもん。何とか調査してあげよーよ」


 放っておけ発言の天人に、じぞーちゃんが言ってくれた。流石、ただの子供ではない発言。元はお地蔵様だもんね! 頼りになるわぁー。


「そうね。他にも行方不明になった人がいるとか、神隠しがあったとか噂がありますが、何かご存じでしょうか?」


「いえ、そのような噂があると聞いてはおりましたが、ただの肝試しに使うでっちあげの噂だと思っておりましたので・・・・お恥ずかしながら、対策などは特に取っておりませんでした。荒らされることが増えましたので、夜間は簡単に封鎖する程度で・・・・。朝晩共に神社内は見回っておりますが、特に問題は無かったと思います。あと、裏の稲荷社は動画に写っている様な回廊ではありませんし、走れば一分もかからずに一周できます。あの、よろしければ案内致しますので、是非ご確認頂けないでしょうか」


 という訳で早速稲荷社へ向かった。入口には普通の神社に備わっている拝殿の中央――だいたい賽銭箱の真上あたりに、銅や真鍮製の大きな鈴が吊るされている。この鈴に麻縄、紅白の布、五色布等が垂れていて、これらを揺すって鈴を鳴らし、お参りをするのが一般的。稲荷社も入ってすぐに小さな鳥居があるので、それをくぐると中央に拝殿があり、鈴と麻縄が垂れている。そこから長方形の拝殿を囲うようにして、左右に回廊のような形で提灯が連なっているのだ。その数が大変多いので、千帳提灯と呼ばれ親しまれている。


「とにかく回ってみましょう」


 田長さんに案内して貰いながら回ってみたが、普通の社だ。まあ、回廊風といえば言えなくもないけど。


「何もねーじゃん」


 つまらなさそうに天人が言った。「ホラ。だから言っただろ。何かの間違いだって。スネ太郎とかいう男、もう帰ってるよ」


「でもね、天人。現にこうやって動画が途切れた訳だし、バイクも置きっぱなしなのよ? 歩いて帰るのは相当大変だと思うから、どこかにいるのよ。探しましょう!」


数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m


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執筆連載中作品のため、固定更新&ゲリラ更新となります。

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