其の七
「ねずみ達の事よ。危険を冒して人家に入った所を利用され、魔物の姿で操られていたのは、お母さんねずみなの。子供達に食べさせるものを探していたのよ。もう人家には立ち寄らない代わりに、地蔵の所のお供えを分けて食べられるようにするって話をつけたの。だから、お供えはこれからも続けて欲しいの。もしアタクシが成仏した後でも、ずっとお供えを続けるって約束してくれる?」
「ええ、約束するわ。必ず守るから」
「流石、神奈ね。安心だわ」
ほっとした安堵の表情をミケが見せた。
「じゃあ、駒井のオジサマの所へ戻りましょう。うっかり喋らないように、気を付けなくっちゃ」
相変わらず立てないので、天人が背負ってくれた。
力強い背中に、安心して身体を預けた。
近いのですぐに駒井さんの家に到着だ。玄関まで出迎えてくれて、私達を見て駒井さんがねぎらってくれた。そしてさっき、気を付けなくっちゃと言っていたのに、うっかりミケが一言。
「話はつけて来たわよ。安心して」
ちょっと――!!
ミケって結構おドジさん――っ!!
「ややっ、また猫が喋った!?」駒井さんが目を剥いた。
「あ”――っ、ホラ、なんつーか、この猫は俺のお付き人ならぬ、お付き猫なんだ。神に仕える猫だから、鳴き声が喋ってるみたいに聞こえるだけだからっ。それより、お前の家、それはもう大変な悪霊に憑りつかれていたんだ! なーに、大丈夫、心配要らないぞ。俺がキッチリお祓いして、もう摩訶不思議な事にはならないようにしておいたからな!」
ミケは調子のいい事を言う天人を睨みつけていたが、失態を犯してしまった手前、文句を言えずに黙っていた。
「天人様、ありがとうございます! これで駒井家も安泰ですな」
「そりゃ、とーぜんだよ! 俺がちゃーんと祓ってやったんだ。安心して商売に励め。そして俺に寿司を食わせろ」
「そうでしたね――」その時、プルプルプルと駒井さんの胸ポケットに入れていたスマートフォンが鳴り出した。「天人様、大切な電話が掛かって来ました、申し訳ございませんが、少しお待ちください」
こそっと手を口で押え、電話応対した駒井さんが、えええーっと声を荒げた。
何か問題があったのかしら?
「はい、はいはい、はい、それはもう! かしこまりました! 用意いたします。では、失礼致します」
満面の笑みで電話を切った駒井さんは、天人の手をがっしり掴んだ。
「流石、天人様! 難航していた商談が、たった今、成立したので御座います! いやあ、天人様のお祓いのお陰ですな。あっはっは!」
えええー・・・・それってただの偶然なんじゃ・・・・。悪運の強い男ね、本当に。
「天人様、ささ、約束の特上寿司、ちゃんと用意しております。こちらへどうぞ」
全員応接間に招待され、見るとテーブルいっぱい、ずらーっと特上寿司が並んでいた。
「えーっ、コレぜーんぶ食ってもいいのぉ!?」
天人が目を輝かせて喜んでいる。
「皆様の分もご用意しております。本当にありがとうございました。あと、神奈ちゃん、これは今回の御礼だよ。何でも相談に悩みを話して良かったよ。お祓いして貰った途端に、いい話がまとまったんだ。これはスゴイぞ。他にも宣伝しておくね」
G(お金)だわ――!
思わず自分の目に円マークが浮かんだ気がした。しかしそんな顔は見せられないので必死に堪え、ありがとうございます、とすまして微笑んでおいた。
よおお――し!
この調子でガンガン魔物やっつけちゃって、浄化して、Gゲットよ――!!
そしたらみんなの食費、確保できるわ!!
喜び勇んだのも束の間、それにしても今日は疲れたとため息が出た。辛うじて歩けるレベルまでは回復したけれど、浄化をしてパワーを使ったから、とてもくたびれた。色々あったし。
折角だから、特上寿司頂こうかな。美味しそうだ。最近貧乏続きだったから、こんな豪勢な食事は食べていない。お父さんやお母さんにも食べさせたいなぁ。
応接室のソファーに着席しようと思って、荷物を確かめた。
そういえば天人から預かりっぱなしの勾玉と鏡、そして――彼の剣の鞘が気になったので、もう一度見つめた。
この鞘――さっきの戦いで、私を庇った時に出来た傷。天海神社に奉ってあるものと同じく中央に傷が付いて、少し欠けてしまった。
やっぱりこれは、天人の剣だったんだ。
そしてこれは、私を庇ったから付いた傷。
そう思うと、パチッと電撃が走ったように身体が異変を感じて心臓がぎゅっと何かに掴まれたように痛くなり、ドキドキと鼓動が早くなった。
あれ。どうして。
天人の事を考えると、胸がすごく苦しくなる。
私、一体どうしちゃったの――?
数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。
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五章は現在執筆中の為、申し訳ございませんが次回の更新は10/23頃を予定しております。
書きあがり次第、順次更新致します。
それまで暫くお待ち頂く為、既存の新しい連載を開始しました。
『鬼執事とニセカノ契約を結びましたが、どうやらニセカレの執愛は本物のようです』
https://ncode.syosetu.com/n5880hg/
新連載です。
チャラ神を再開するまでの間、こちらを読んで待って頂けると幸いです。
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