其の一
扉写真
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写真:玉置朱音様
「そんな怪しい恰好して、一体君は何だ? 身分証明書を出しなさい」
「だから、ンなの持ってねえって! 身分証もクソも無いからさぁ! だって俺は神様なんだよー!」
チャラ神様に、早速ピンチ到来です。
近くのお饅頭屋さん――三つ豆堂からお茶菓子のお饅頭を買って帰る途中で、白い大層な衣装を着た黒髪の長髪長身男が、お巡りさんに文句言っているのが見えた。
あのお巡りさんは、お父さんの友達の吉田寛吉さんだ。みんなから、カンキチおじさんと呼ばれ、親しまれている。そのカンキチおじさんと、何を揉めているのだろう。私はそっと近づいて様子を伺った。
「そんな怪しい恰好して、一体君は何だ? 身分証明書を出しなさい」
「だから、ンなの持ってねえって! 身分証もクソも無いからさぁ! だって俺は神様なんだよー!」
神様?
何、あの男・・・・神様ってコト?
そんな事、自分で言っちゃう?
頭イカれてる・・・・。相当ヤバそうな人だね。
でも、綺麗な顔してるなぁ。美形というか、イケメンってヤツ?
整った顔立ちで、目鼻立ちは凛として切れ長の目元は情熱的。何か炎でも出てきそうな雰囲気ね。髪も長くて・・・・ていうか、今時あんな長い髪の男の人、いないと思う。時代錯誤もいい所だ。着ている衣装も然り。
とりあえず綺麗な人だ。それなのに、頭プッツンって・・・・お気の毒様。可哀想に。
ふと、視線を彼の右手に落とすと、柄の部分も含めて一メートルもないくらいの剣が目に入った。
えっ。ちょっと待って!
私、今、電柱の影からカンキチおじさんと神様と名乗る怪しい男のやり取りを見ているんだけれど、あの人が手に持っている剣・・・・! うちの神社に奉っている剣と一緒じゃない!?
形と言い、柄の所が同じ天海の紋で、加工がしてある! 全く同じだわ!
もしやドロボー?
でも、神様って言っているし・・・・実のところ、どうなんだろう。
とりあえず成り行きを見守ることにした。
「神様?」
おじさんが怪訝そうな顔を彼に向けた。「神様なんてそんなもの、この世にいらっしゃる訳がないだろう。それより、早く君の身分証を見せなさい」
「だ・か・ら! わかんねーオッサンだな。無いんだって、そんな身分証なんか! たった今、人間界に降り立ったトコだし! 転生したばかりなんだよ」
「だったら交番に来て貰おう。恐ろしい剣など持って、銃剣法違反だぞ。それは本物なのか?」
「当たり前だ。俺の炎の力、今ここでお前が受けてみるか? 跡形もなく消し飛ぶぞ」
ニヤリと笑い、彼の目つきが変わった。さっきまでチャラチャラした雰囲気だったのに、一気に戦闘モードの鋭い瞳になる。
ゆらっ、と彼から物凄いオーラが発せられるのが、目に見えて解った。
私は幼い頃から、霊感が強い。
この世ならざる者=霊的なものが見えるだけのあまり大した力じゃないけれど、それでも・・・・彼のオーラは凄い。ケタ違いだ。この世のものじゃない!
剣を両手で持ち直し、男が構えた。あぁ、イメージが流れ込んできて、見える――彼の手の内にある剣、それから発せられ、揺らめく炎。間違いなく、本物の業火がカンキチおじさんに襲い掛かる――
「カンキチおじさーんっ! こんにちは! いつも見回りご苦労様っ!」
このままじゃマズイと思って、私はわざと大きな声を上げ、彼らの前に立った。「この人、知り合いなの。今、天海神社に来ていて、なんというか・・・・神様のコスプレなの、これ。すごい服でしょ!」
「なーんだ、コスプレかぁ」
素直なおじさんは、私の言う事をすぐに信じてくれた。良かったぁ!!
基本、この町の人はみんないい人。優しいし、すぐ人を信じてしまう。まあ、それがいい所でもあるんだけど。悪い奴らに騙されないか、私は心配。
「神様とか言い出すから、ブッ飛んだ頭のオカシイ人かと思ったけれど、神奈ちゃんの知り合いなら大丈夫だね」
「あぁ? 何を・・・・――」文句を言いかけた彼の袖を引っ張り、私に話を合わせて、と耳打ちした。その時、バチっと不思議な電流みたいなものを感じた。今のは一体、なんだろう。
「この剣は、神社で作ったレプリカよ。勿論偽物だからっ。本物はアブナイでしょ? 何か、神様役になりきっちゃって、失礼な事を言ってごめんなさい」
恐らく剣は本物だろうが、とりあえずその場しのぎで誤魔化す事にした。
急いで神社に戻って、剣がちゃんと奉られているかを確認しなきゃ!
「それならそうと、早く言ってよー。ああ、怪しい男がこの辺りをウロウロしているのかと思って、心配して損したぁー。この町の平和と秩序を守るのが、私の仕事だからね!」
カンキチおじさんが胸を張って言った。
「ごめんなさい。そうだ! 三つ豆堂のみつ子おばあちゃんが、おじさんが来るのを待っていたわ」
話をすり替えた。
「おお、そうだった。今日は、みつ子ばあちゃんの相手をする約束だったんだ。ありがとう、神奈ちゃん。ちょっと行ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい」
何か文句のひとつでも言いたそうな怪しげな彼の前に立って視界を遮り、おじさんに手を振った。安心したらしく、彼は足早に去ってしまった。後にはアブナイ神様男と私が取り残された。
「おい、お前、いきなり何だ。無礼な女だな」
「無礼とは何よ。助けてあげたのにっ」
「助けた?」
神様と言ったこの妙ちくりんな男は、くくっ、と悪戯な笑みを零した。「まあ、あのオッサンの命は助かったに違いないね」
「何がおかしくて笑うのよ! 怪しい炎かなにか、その剣から出そうとしていたでしょ!」
「お前――」強い力で顎を掴まれ、ぐいっと顔を持ち上げられた。綺麗な顔で覗き込まれた途端、ばちっ、と再び電流が走る。「人間・・・・だよな?」
「止めて!」ばっと彼を振り払った。「人間に決まっているでしょ! それよりアンタこそ何? 人間じゃないでしょ。一体、何者なの!?」
「だーかーらーぁ。さっきから神様だって言ってるじゃんよー」
・・・・ノリ軽いなぁ。
都会から来た人みたい。なんか、チャラいし。
神様ってチャラいの? そんな神様、聞いた事無いんだけど。
「神様って言うけど、さっきおじさんを斬ろうとしたじゃない」
「斬ろうとしたんじゃないよ。俺を神だって信用しないから、業火を見舞ってやろうと」
「余計悪いわ――!」
とにかくこのチャラ男、超危険だ!
取り扱い注意人物ね! 悪霊か何かかしら?
数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。
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