其の二
「とにかく、みんなでアルバイトよ。出来る事をコツコツと。不思議な力は使わない。そして外貨を稼ぐ! 私の前以外で天人は不思議な神術を使う事、じぞーちゃんはお地蔵様に変身する事、ミケは喋れる事、これらをそれぞれ禁止にする。他の人間にも言っちゃダメ。守ってね?」
「ういー」
「はーい」
「わかったわ」
それぞれの返事を聞いて、私は深く頷いた。
一応、案はあるから暫くこれでやってみようと思う事を伝えた。実はここへ戻って来る間に考えついたアイディアが、流行りの『出張サービス』を利用するという事だ。
『お祓い・ご祈祷・お困りごと・その他何でも解決します』と銘打って、ビラ配り。その中に『ミケのご主人様を探しています』と書く、と。こうすれば、何かしらの問題ごとにも辿り着けるし、解決すればお金も貰えるし、ご主人様も探せるし、一石三鳥よ。
神社でイベントの度にポップを色々作っていたから、チラシ作りは得意だ。早速思いついたレイアウトに、デジカメでそれぞれの写真を撮影し、パソコンに取り込んで簡単なチラシをぱぱっと作り上げた。我ながら、良い出来!
「よーし、完成!」
現役イケメン神職が出張ご祈祷・美人巫女が出張お祓い・可愛い子供が話し相手・猫の手も借りたい事案、アルバイトの為格安で解決いたします。価格は応相談――更に、ご主人様探しています、というミケからのメッセージを書いたチラシを百枚ほどコピーして、昼食の後、手分けして町中に貼る事に。
電話番号と住所は天海神社。受付は『何でも相談係』天海神奈まで、と記載も忘れず行った。
天人については、本当は神職じゃないけれど、職業神様とか言っていたから、もうこじつけもいいとこだけど、そういう風に書いた。他に書きようが無かったとも言うが。
「イケメンの俺は本当の事だけど、自分の事美人とかよく書けるな、お前」
「うるさいわね。ご飯抜きにするわよ」
「あっ、神奈様。大変美しいので、絶世の美女と記載された方が良かったのでは? おお、勿体ない」
「・・・・」
掌を返したような調子のいい天人を無言で睨みつけ、昼食の準備をしてみんなで食べた。
ミケの分の食事は、近くに猫を買っているおばあちゃんがいるから、事情で急に猫を預かる事になったからと説明して、少し餌を分けて貰ったので何とかなった。今度また何かでお返ししよう。
お父さんとお母さんに『何でも相談係』を始めたから、電話があったら要件と連絡先を聞いておいて、と伝えてポスティングへ。休憩してご飯を食べたから、体調はすっかり戻ったので安心だ。
手分けして貼ってもいい場所を探し、チラシを貼りに行った。流石にこの日は成果が無かったが、早速次の日、町長の駒井さんから何でも相談係に連絡があった。
『家の食べ物が色々無くなってしまったり、所々かじられているんだ。悪いけど見に来てくれないかな? できれば神様にお祓いをして貰いたいな』
よっしゃ、と天人は張り切っていたが、一人で出向かせるなんてとんでもない話なので、みんなで付いて行くことに。
「一人でできるって!」
「アンタ、幽体のアタクシを見る事も出来なかったへっぽこ坊主の分際で、一人で何ができるって言うの? 神奈が居なくて、お祓いなんかできるわけないでしょーっ!!」
ミケの剣幕に返す言葉が無くなった天人は、しぶしぶこのパーティーメンバーを引き連れ、駒井さんの家へ行くことに。何だか四人パーティーを組んだRPGゲームみたいになっている。神様、修業の旅に出るの巻、みたいな。
馬鹿にされ、メラッと怒りのオーラが私を包んだ。なんか・・・・青色の光が、私の全身から発せられている。それに共鳴するかのように、天人の首からぶら下がっていた、大地を象徴するかのような美しい亜麻色の勾玉が、突然光り出した!
「わっ、つめてえっっ! 冷たいって――――っ!! おい、お前! かんなっ! その怒り、止めろ! つめたい、冷たいつ・め・た・い――っ!」
途端に、天人が悲鳴を上げた。
「えっ、なにっ? どうしちゃったの?」
「冷たいって! 凍え死ぬっ! 神奈っ! お前のオーラがこの勾玉に共鳴してんだよ! 止めろ! 今すぐ!!」
「止めろったって・・・・そんな、どうすればいいの!?」
「とにかく怒りを鎮めてくれ!」
そんな事急に言われても――と思っていたら、私を取り巻いていた水色のオーラは徐々に薄れてしまった。あれ、と思っていると跡形もなく消えてしまったのだ。
「あ“――っ、クッソ酷い目に遭った! 凍傷になるだろーっ!!」
大声で文句を言われた挙句、ジロリと睨まれた。
それって私が悪いのだろうか。そもそも初対面で人の容姿にケチつける方が悪いと思う。
「それより神奈・・・・お前、神通力が使えるのか? 俺をこんな目に遭わせやがって」
「霊感はあるけど、神通力なんて使え無いよ」
「でも今、俺に冷気を浴びせた! こんな事出来るのは、オヤジかオフクロか、ねーちゃんしかいねーもん」
オヤジにオフクロにねーちゃん・・・・。この言葉遣い、チャラい上にガサツねぇ・・・・。
呆れたため息が出た。
「何かの間違いでしょ。私はとにかく、何の力も無いもの」
「ふーん・・・・。ま、いいや。それより――」ふんふんと鼻を鳴らして、彼は言った。「美味そーな匂いするけど、何だ? 甘い・・・・香り・・・・」
彼の泳いでいた視線が、ピタリと私がぶら下げていたお饅頭の入ったビニール袋に注がれた。「それだ! なんか、いー匂いがする」
「あ、これ。お饅頭よ。今からお客様が来るから、三つ豆堂にお茶菓子を買いに来た帰りなの」
「食わせてっ。腹減った」
「ええーっ。アンタの分なんか無いわよぉ」
「そこを何とか!」
神様と名乗る男に拝まれた。神様なのに、人間を拝むの? 普通、逆なんじゃ・・・・?
「買って来ればいいじゃない。さっきおじさんが向かった方に――」そこまで言って、はっと気が付いた。この男をみつ子おばあちゃんの所に一人でやって、店で暴れたりしたら大変だ!
お金も持っていなさそうだし!!
実家の天海神社に連れて帰れば神聖な結界もある事だし、悪霊なら悪戯はできないでしょう。この男は、とりあえず普通の人間じゃなさそうだ。見た目は人間っぽいけれど、どうも胡散臭いオーラぷんぷんしているし、容赦なく人を斬り捨てそうだし、危険!
私が見張っておかなきゃ!!
「わかった。家に戻ったらお下がりのお供えものがあるから、それを分けてあげる。ついて来て」
「話が分かる女で助かるよ」
「エラソーね」
「だって俺、神様だもーん」
「・・・・」
思わず冷ややかな目線を送ってしまった。この男、何なんだろう、一体。
「神奈。とにかく俺は腹が減った。腹が減ってどうしようもなくなったら、俺は容赦なく暴れるぞ。暴れたらこの辺り一面、火の海になるぞーっ」
それを聞いた途端、ごごっ、と私を再び水色の怒りオーラが包んだ。すると、凍えるっ、冷てえっ、痛い、と天人が悲鳴を上げた。
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