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其の五

 

「アハハ。神様の分際で人間の女の子の尻に敷かれているのぉ? 本当に無能な男ね」


「クッソ猫・・・・絶対シメてやるからな・・・・俺の炎の餌食にしてやるぜ・・・・」


 天人が呪いの言葉をぶつぶつと呟いている。神様のする事じゃないよね。ホント。


「えーっと・・・・それで、あなたの事は、ミケって呼んでもいいのかな?」


「ええ。よろしくてよ」


 お嬢様だったのかな。えらく高飛車な喋り口調だけれど、どうにも憎めない。姿は本物の猫だから、可愛いし。目つき悪いけど。


「オイコラ、ミケ!」


「坊主に呼ばせる名前は無くってよ」


「坊主じゃね――!! 天人だ、あ・ま・と!!」


「アンタなんか、坊主で十分よ」


 ツン、と横を向いて、長い三毛猫特有の斑模様の尻尾を高く上げた。

 うん、これが巷で噂のツンデレってやつなのかしら。


「アタクシ、坊主に用事は無いの。神奈とお喋りしたいわ。彼女に相談したいことがあるから、もう、坊主はあっちへ行って」


「・・・・ケッ」


 天人がツン、とそっぽを向いてしまった。じぞーちゃんはオロオロして成り行きを見守っている。口を挟む隙も無い。こんな幼稚園児レベルの喧嘩、正直言って勘弁して貰いたいところだ。

 

「神奈。とりあえず私はこの世のものではないというのは自分でも理解しているから、きちんと成仏したいの。猫が人間の言葉を喋ったりするなんておかしいし、アタクシは一度死んでいるからね。でも、残してきたダーリンが心配で。さっきも成仏できるんだって思ったら安心した半面、やっぱりダーリンが心配っていう気持ちの方が勝ってしまったから、神奈の不思議な力に共鳴して、こんな事になったんだと思う」


 やっぱり私のせいなのかー!


「神奈。これも乗りかかった舟だと思って、アタクシを助けて頂戴。あ、地蔵から色々聞いているけど、この辺も変な疫病が流行っているせいで、随分寂れちゃったでしょう? 多分悪しき力が働いているのが影響していると思うの。そんな中で大変だと思うけど、ヨロシクね」


 意外に情報通・・・・。


「まあ、時間はかかると思うのよね。折角肉体が元に戻ったのだから、ダーリンを探し出すまでは、久々のこの世を満喫させてもらうわよ」


 逞しいわね・・・・。

 ミケは勝手にしゃべっているので、私は同調するだけだ。


「ミケ。とりあえず飼い主はどこに住んでいて、何歳くらいの人なの?」


 上機嫌の彼女に聞いてみた。このままでは話が進まない。とりあえず聞き取り調査から始めなきゃ。


 

「だからー。それが解れば苦労しないってば! そういう理由で困っているから、神奈に頼んでいるのよー」


 開き直ってそんな風に言われても・・・・。


「どの辺に住んでいたとか、ヒントも無いの?」


「ええ、そうよ」


 がくっ。


「でも、ご主人はイケメンって解っているのよね?」


「それが顔も思い出せないの。でも、匂いで解るわ。彼、独特の匂いがするから。それにきっと、ダーリンもアタクシを探している。ダーリンの匂いはこの世にあるの。でも、生きているか死んでいるかまでは、アタクシの力では解らない。匂いはそんなに遠くない筈よ。でも、その匂いが弱って来ているの。だから心配で・・・・でも、どういう訳かアタクシ、この場から動けなくて、探しに行くことができなかったのよ。今は、肉体が元に戻ったから自由に動き回れそうだわ」


 ミケが丸い目にいっぱい涙を溜めて言った。「アタクシ、ダーリンのお陰で幸せだった。仔猫だったアタクシを拾って、ずっと大事に育ててくれたわ。そういう記憶はあるのにでも、頭を打ったせいでどうしても住んでいた場所や、ダーリンの顔が思い出せないの。思い出そうとすると、頭がすごく痛くなって・・・・アタクシに微笑みかけてくれる顔に影ができてしまうの」


「そう。辛かったね。いいわ、ミケのご主人様を一緒に探しましょう。私も協力するわ! 早速町に戻ったら、町長さんにミケのご主人様を知らないか、聞いてみるわ。ミケを飼っていたご主人様を探しているっていうポスターも作って、交番に貼り出しましょう」


「神奈・・・・貴女、優しいのね。本当にありがとう」


 まだ体力が回復しない私は、しゃがみこんだまま目の前のミケと握手をした。ミケの毛並みは確かにツヤっとしていて綺麗だ。きっと大事に飼われていたのだろう。ミケもご主人様を大事に思っていたからこそ、彼の為に走り、傷つき倒れてしまったのだ。


 私の力で良かったら幾らでも貸すから、ご主人様に会わせてあげたい。

 細く美しい脚。良い毛並みに覆われながらも、握手したら肉球がぷにっとしていて柔らかく気持ちいい。猫独特の手触りだ。実体が・・・・あるのよねぇ・・・・。ペラペラ喋れるし、やっぱり普通の猫ではない。それより、ニャーって鳴けるのかなと、普段考えた事もないような疑問が頭を掠めた。


「ああ、神奈に頼んでほんまに良かった! ありがとう!! ミケはボクの大事な友達やもん。力を貸してくれて、スゴく嬉しい」


「ケッ。くだらねー茶番劇。そんなのもうどうでもいいから、とっとと帰ろうぜ」


「ムッ。天人! 神奈やミケをバカにしたら、ボクが赦さないよー!」


バッ、と勢いよくじぞーちゃんが天人に飛び掛かった。そして、変化――




「イデデデデデっ! おもっ、重いっ! じぞーに潰される! 死ぬぅ――――!! あ”あ”あ”あ”ぁ――たぁーすけて――――っっ!!」




 何と怒ったじぞーちゃんが、天人の上で石化してしまったのだ。にこやかに笑うお地蔵様の下敷きになって、天人はヒイヒイ泣きながら許しを乞うていた。




 一体これから、どうなっちゃうのぉ!?





 

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m


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執筆連載中作品のため、固定更新&ゲリラ更新となります。

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