其の四
「神奈、ミケの声は聞こえるよね?」
「ええ。聞こえるわ。でも、姿は見えないの。じぞーちゃんには見えているの?」
「うん。見えるよ! あのね、ミケは記憶喪失の猫で、困ってるんだ。だからさ、助けて欲しい」
「でも、じぞーちゃん、さっきは成仏させて欲しいって言っていなかった?」
「うん。ボクの力で成仏させてあげたいねんけど、まだこの世に未練があるからって、極楽へ連れて行くのは無理やもん。神奈の力、貸してくれないかなぁ?」
極楽・・・・。じぞーちゃんはどんな力を持っているのだろう。
人間や動物を、成仏させる力があるのだろうか。
「未練ってどんな未練があるの?」
「ご主人様が無事かどうか、確かめたいんやって。ミケはね、すごくイケメンのご主人様にずっと可愛がられていて、幸せに暮らしてたんだって。でもそのご主人様が病気になっちゃって、助けを呼びにこの山に来たところで、がけ崩れに巻き込まれて死んじゃったんだ」
可哀想な話・・・・。しんみりする私の横で、天人は欠伸をかみ殺している。本当にフザけた男だ。
「ミケは、幽体なの?」
――ええ、そうよ。話が分かる人がいて助かるわ。そっちの男はクソの役にも立ちそうにないわね。
はい、その通りです。返す言葉もございません。
――アタクシ、がけ崩れで頭を打ってしまったから、家の場所が解らなくなってしまったの。成仏できないから、地蔵と一緒にいるのよ。
「ミケはね、ずっと淋しかったボクと遊んでくれて、友達になってくれたんだあー。だからミケのお願いを、僕が叶えてあげたいんや。なあ、神奈。お願い、力貸して欲しい!」
「えっと・・・・私はどうしたらいいの?」
「神奈の浄化の力を使ったら、ミケもきっと成仏できると思う。だから、もう一回あの力使って欲しいねん。お願い!」
「いいけど・・・・ミケが成仏するように、お祈りすればいいの?」
「うん。それでいいと思う!」
「解った、やってみるね」このやりとりを、状況の解っていない天人に説明してあげた。「――えー、という訳なの。勾玉貸してくれる?」
「ああ」
天人から勾玉を受け取り、ミケが居ると思しき場所にそれを掲げ、成仏できるように祈った。
昨日と同じ様に、私の体内からドン、と大きな気が放出され、辺り一面が優しい光で包まれた。そしてまた私は立てなくなった。力なく座り込んだ私の傍に、じぞーちゃんが付いてくれた。天人の何百倍も、じぞーちゃんの方が優しいと思う。
「えっ・・・・ウソ・・・・」
「マジかよっ!?」
私の目の前に現れたのは、何とも目つきは悪いが毛並みが恐ろしく綺麗なミケ猫。
今の力のせいで具現化したらしく、ちょこんと座っていた。
「あら? アタクシ、生き返ったのかしら」
猫が喋ったああああ――――!!
天人以外の神様――っ!
私の平穏無事な生活を、どうかお返し下さぁ――――いっっ!!
「ちょっと・・・・ちょっと、そこのアナタ!!」
今、目の前を真っ暗にして神様に文句を言っていた私の思考を現実に引き戻したのは、すぐそばにちょこんと座ったミケ猫の声だった。これは・・・・天人のお父様が言っていた悪しき力・・・・ではなさそうだ。
「お喋りできるのでしょう? 名を名乗りなさい」
「わ・・・・私?」
「アナタの他に、誰がいるというの」
「わ、私は天海神奈と申します・・・・」
何故かミケ猫に対して、敬語になってしまった。
「神奈ね。オーケー。素敵な名前ね。私はミケ。最愛のイケメンマイダーリン(ご主人様)が私に付けてくれた名前なの。いい名前でしょう?」
「はい、それはとても」
ミケ猫だからミケと付けたのだろう、と容易に想像できた。イケメンご主人様のネーミングセンスは皆無なんて言おうものなら、とんでもなく叱責されそうだから黙っておく事に。本人が良いと言っているのだから、いいのだろう。
「まあ! 神奈はとても素直でいい子ね。気に入ったわ。で、そっちの役立たずの坊主は?」
ぼ・・・・坊主・・・・。その台詞にカチンと来たのか、天人が予想通り怒り出した。
「あ”? 誰が坊主だよ! 俺は天人だ。因みに職業神様」
神様って職業だったのか。初めて知った。もう、ツッコむ気も出ない。
「神様?」フン、とミケが鼻を鳴らしてバカにした。「アタクシの姿も声も聞こえてなかった分際で神様を名乗るなんて、出来損ないもいい所ね」
「んだよコラ。猫の分際でエラソーに! 俺に喧嘩売ってんのか? 叩き斬るぞコノヤロー」
「出来損ないの分際でアタクシを倒そうなんて、千年早いわよ」
「あ? 俺を何歳だと思ってるんだ! 二千年越えだぞ!」
「じゃあ一万年早いわ。これでどうかしら?」
「年齢で言うと俺の方が勝ちだろ。お前何歳だよ!?」
「記憶が無いのよ。年齢なんか覚えちゃいないわ。まあ、二万歳ってところかしら」
「二万。ハッ、笑わせやがる」天人が勝ち誇ったような顔を見せた。「そしたらお前、シワシワのババア猫じゃん。そんなの、イケメンダーリンか何だか知らねえけど、飼い主も嫌がるだろーに。ケケケ」
「何ですって! よくもアタクシをバカにしたわね、ブス男の分際で!」
「あ”あ”あ”あ”――ん? ブスだあ!? 俺みたいなイケメン捕まえて、何言ってやがる! 本気で斬るぞ、コラあ!」
「イケメン?」フン、とバカにしたようにミケが言った。「鏡見て出直して来なさい」
何この低レベルな戦いというか、口論。まるで小学生の喧嘩・・・・。
猫はまだしも、神様のする事じゃないよね。
「はぁ・・・・。アンタみたいなブスと喋っていたら、ブスが移っちゃう。あっち行ってちょうだい」
「あ”あ”!? マジでヤル気だなこのクソ猫っ・・・・冷てっ、ひいっ、痛いよ神奈!」
「不毛な争いは止めなさい」
軽く念じて天人に冷気を浴びせ、喧嘩を制止した。
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