其の一
扉絵
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写真:玉置朱音様
「なあー、お願いー! 何とかしてーや! オマエ、神様なんやろーっ!」
「だーかーらー。出来ねえモンは出来ねえンだよっ!!」
チャラ神様、何やら頼まれごとをされているようで・・・・?
「なあー、お願いー! 何とかしてーや! オマエ、神様なんやろーっ!」
「だーかーらー。出来ねえモンは出来ねえンだよっ!!」
「そんな・・・・浄化もできない神様なんて、いるわけないもん! このウソツキ男めー!!」
「何だとこのクソ小童が! 八つ裂きにしてやるぜーっ!!」
はい。どうも。天海神奈です。
今、清々しい早朝のお時間でございます。本来なら静寂に包まれている筈の奥座敷は、小さな子供と天人の怒鳴り声が響き渡っております。
というのも、天人に境内の掃き掃除を頼み、私は社務所の掃除と朝食の準備をしようと神社内をウロウロしていたの。すると境内の方から、やれ友達を助けてくれだの、そんなの出来ねえから無理だの、そう言ったやり取りが聞こえてきたのよ。
境内の方に行ってみると、だんだんヒートアップした二人の声が。
物影から覗いてみると、天人とやり合っているのは、何と三、四歳くらいのとても小さな子供だった。赤い頭巾のようなものを被っていて、市松模様の薄い灰色の着物を着ていた。しかし特徴的なのは赤い頭巾だけじゃなくて、首元に掛けられた赤い前掛け。とても妙ないで立ちだ。
「ちょっと待って! 天人、ストップ!!」
本気で剣を抜こうとしている天人の前に立ちはだかり、小さな男の子を守った。「こんな小さな子供に剣を振るうなんて、最低よ! 恥を知りなさい!!」
私が庇ったものだから、これ幸いと子供が後ろにさっと隠れてしまい、顔だけ出して言った。「そうだ、そうだー!」
「あのなあ、いきなり襲い掛かって来たのは、そっちの小童の方だし! 俺は悪くねえっ!」
しかし天人は引き下がらない。
「一体、何があったのよ」
「ソイツが急に境内に入って来たんだよ。たのもーって」
天人の話はこうだ。
「たのもー!」
境内を一応真面目に掃除している天人の下へ、一人の子供がやって来た。赤い頭巾に赤い前掛け、市松模様の薄い灰色――相当変わった風貌。顔は丸く、目も大きくて丸い。可愛らしい男の子の幼児だ。
「あ? 俺は忙しいんだよ。何を頼むんだ? 頼み事なら他所へ行け」
しっしっ、と天人が子供を追い払った。
「なんだよー! 偉そうな大人やなぁー」
子供は天人の意地悪にも負けず、彼を睨みつけて応戦した。
「こんな小さな子供が困っているのに、冷たいなあー。助けようって思うのが普通やと思うけど」
可愛い関西弁でまくしたてる子供に、天人はフン、と鼻を鳴らした。「俺、人間違うし」
「・・・・じゃあ、何?」
「神様」
「え――っ!? 神って・・・・この世界にいるんやぁ?」
「なんか色々不都合があって、天上界から来た。お前こそ――」天人はふんふんと鼻を鳴らして、小さな子供を睨みつけた。「人間じゃねえだろ。何者だ」
「怪しいモンじゃないよーだ」
やや焦りの色を浮かべ、子供が言った。
「めちゃくちゃ怪しいだろーが! ここはガキの来るトコじゃねえんだよ。ましてや人間以外の生物はお断り。早く帰れ」
しかし子供は引き下がらない。
「神に頼むなんて気は引けるけど・・・・うーん、でもしょうがない。オマエに頼むことにする!」
「何だよガキの分際で、さっきからエラソーに!」
「実はボク、困ってて。力を貸して欲しいねん。昨日、雑木林の一帯を浄化してくれたんやん? 神様って言い分も信じるから、お願い! 友達を助けて欲しいねん!」
「無理。俺にそんな浄化の力は無い」
「なあー、お願いー! 何とかしてーや! オマエ、神様なんやろーっ!」
「だーかーらー。出来ねえモンは出来ねえンだよっ!!」
「そんな・・・・浄化もできない神様なんて、いるわけないもん! このウソツキ男めー!!」
「何だとこのクソ小童が! 八つ裂きにしてやるぜーっ!!」
という訳らしい。
「浄化の力も使えないなんて、神様ちゃうもん!」
カワイイ顔に怒りを滲ませ、子供はまだ怒っている。
「小童の分際で、俺をウソツキ呼ばわりするな! 神奈、止めないでくれ。この小僧を叩っ斬る!!」
炎の剣を鞘から抜こうとする天人の手に、軽い手刀をお見舞いした。そしてひと睨み。「境内で暴れるのは止めて。追い出すわよ。解った?」
「・・・・はい。すんませーん」
反省の色は皆無の、形だけのチャラい謝罪を寄こし、フン、と鼻を鳴らして天人は言った。「でもなあ神奈、気を付けろよ。さっきも言ったけどその小僧、人間じゃねーぞ」
「うーん・・・・。天人が言うから間違いないわよねぇー・・・・でも、どこからどう見ても人間の子供なのに」
「上手く化けてやがるけど、そいつの正体――」
「あっ、お姉ちゃん! 昨日、町はずれの祠に来てた人だよねー?」
天人を無視して、子供が喋り出した。私に詰め寄って、驚くような事を言ってのけた。「お供え出せって言ってたのに無視するし、ありがとうって言ったのも聞こえてたやろー? ボク、一生懸命話しかけたんだよー」
あっ?
えっ?
昨日のお地蔵様の所で聞こえた不思議な声は・・・・何と目の前の子供から発せられたものらしい!
いや。昨日はそんな子供居なかった!
パニックになっていると、天人がぼそっと一言。「コイツの正体、妖怪じゃねーの」
「ちがーう!」
「じゃ、何だよ」
「聞いて驚くな。ボクは地蔵の『心』やで。あの地を護る、守り神の化身だよー!」
「お・・・・じぞうさま?」
ダメ。解んない。もう、ついていけない。
どうしてこう、次から次へと不思議生物が我が神社にやって来るの!?
新型ウィルスが蔓延しているから、新型生物まで蔓延しているとか?
それとも何らかの影響で、彼らのような摩訶不思議生物を引き寄せてしまっているのかしら・・・・。
「そうだよ。昨日、ボクを綺麗に拭いてくれて、祠も元に戻してくれたやん。ありがとう」
やっぱり昨日のお地蔵様で間違いなさそうだ。
「でも・・・・お地蔵様・・・・なのだったら、どうして子供の姿になってしまったの?」
恐る恐る聞いてみた。よくぞ聞いてくれました、とばかりに子供はにっこり笑って続きを語ってくれた。
「うん。その時ね、ぱーっと光に包まれたと思ったら、先ずは悪い力が浄化されてん。その後、急に人間の子供の姿になってたんだー。ほんまはボク、誰にも見えへんねん。でも、そのパワーを浴びたからと違うかなぁ?」
・・・・それってつまり、私のせいってこと?
「あーあ。明らか、神奈のせいだな」
ズバッと一言、天人。
「責任取れよ? 俺は知らねーぞ」
「ちょ・・・・ちょっと無責任な事言わないでよ! 元はといえば、アンタが天上界からお父様の勾玉を盗んでくるのが悪いんでしょ! しかも最高神器なんて、信じられないわ」
天人が持っている勾玉や鏡(もちろん天人の剣も含めて)は、天上界の最高宝らしい。昨日、帰り際に聞いたのだ。そりゃあ、そんなものが人間界に揃っちゃったら、おかしなことになるだろう。ていうか、もうなってるし。
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