其の四
「えっ、何!?」
「なんだ、なんだ? どこから声が聞こえるんだ?」
――儂だ。蒼玄だ。
「はっ? オヤジ!?」
見ると、天人の勾玉が深い翡翠色になって輝いている。美しい翠色だ。
輝く勾玉から発せられる心地よく深みのある声は、私達の脳内に直接響いてくるようだ。
――天人。お前、人間界に降りたつ前に儂の勾玉を盗んで行っただろう。
「あぁ? 説教かよ! 大体隙だらけで盗まれる方が悪いんだよ!」
この言い草・・・・。本当に神様なのだろうか。品格を疑う。
――お前が人間界に勾玉なんぞ持って降りるから、もともと歪みが生じていた処に相当な善悪のパワーがかかり、善は善、悪は悪の力が増幅しているぞ。
「あ”ぁ”!? オヤジの勾玉のせいかよっ!」
いや、アンタが盗んで持ってくるから、そのせいでしょーが・・・・。
ていうか、悪しきパワーが増幅しちゃったのって、天人のせいだったの!?
神様って言うけど、尊い存在じゃなくて疫病神の間違いなんじゃ・・・・。
――ばっかもーん! お前が勝手に持ち去るからこういう事態を引き起こすのだ! 行く先々で問題を起こしよって!! こうなったのは、どう考えてもお前のせいだろう!!
ビリビリビリビリ――と電撃のようなものが脳内に響いて揺れた。
怒りのパワーみたいなものかしら。私は痛くは無かったが、天人はめちゃくちゃ痛がっていた。でもその後、神奈の冷気の方が痛えな、とほざいていた。
「てかさー、解ってんなら、もっと早く言えよな。っつーか連絡できんなら、最初からそう言えよ! この勾玉が問題だっつーなら、さっさと俺ごと天上界に還らせろ!」
――それはできぬ。
「あ”あ”ぁ――――ん!? できないってどういう見解だコラぁ! 俺はどうやったら還れるんだよ! 責任もって連れて還りやがれ!!」
――お前と話していても、埒があかん。今、娘が傍にいるだろう。その娘と話したい。
「あ? 神奈の事か? ああ。今、コイツん家で世話になってるけど。肩身狭いんだよなー。この女、俺に掃除とかさせやがるし、冷気浴びさせるし、とんでもねージャジャ馬女でよー」
酷い言われようだ。
――あいわかった、もういい。天人は引っ込んでおれ。娘、神奈というのか。儂の声が聞こえていると思う。迷惑をかけて申し訳ないが、愚息を頼みたい。
えええ――!? 全力で断りたい――!!
――全力で断られては困る。そこをなんとか。
うっ・・・・。心読まれてる・・・・。流石神様。天人とは違うのね。
しかし、そこをなんとかと言われても・・・・。
――神奈。今、人間界では悪しき力が増幅し、混沌の渦が様々な所で広がっているのだ。この源を突き止め、どうか天人の持つ儂の勾玉でその悪しき力を封印をして欲しい。神奈ならば、使い方を間違える事はなさそうだと判断しての頼みだ。いやなに、タダでとは言わん。もしこの問題を見事解決してくれたあかつきには、神奈の願いをひとつ、儂が何でも叶えてやろう。どんな願いでも叶えてやるぞ。但し、心からの願いに限る。たとえそれが邪な願いであっても、神奈が一番心に浮かべた願いを、必ず叶えると約束しよう。
「えっ、本当ですか!?」
――神に二言は無い。
だったら、やるしかない!!
「解りました! 必ずやり遂げてみせます!」
――頼もしいな。愚息ともども頼んだぞ、神奈。その問題が解決すれば、おのずと天人も天上界へ還れるだろう。では、さらば。
すーっと何かが消えていく感覚に陥った。見ると、勾玉の不思議な翠色は消えていた。
「おいっ! ちょっと待てコラふざけんな! オヤジ!! 俺の話はまだ終わっちゃいねーよっっ!!」
しかし勾玉はもう光りを湛えなかった。美しい亜麻色の装飾品となり、彼のお父様が応える事も無かった。
「クッソオヤジがああ――! ふっっざけやがって!」
寝ころんだ状態で、天人がダンダンっと勾玉を握りしめた拳で二回、草むらを殴りつけている。一方的な通信で腹を立てているのだろう。しかも邪険にされ、天人のお父様は私に問題解決を頼んで来たのだ。気持ちは解らなくはないが、天人の信用度が低すぎるのがいけないのだと思う。
「チッ。やっぱ天上界へ還るにはオヤジの言う通り、なんか悪いパワーってヤツ、封印しなくちゃいけねーのか。メンドクセーな!」
「仕方ないじゃない。アンタが勾玉なんか盗んでくるから」
「これがあると、色々便利なんだよっ! 大体この勾玉が無かったら、俺がこの世で困ってただろーに。はー。ったく・・・・もしかしたらオヤジ、俺にわざとこの勾玉盗ませたのかもしんねー」
また、意味深な事を言う・・・・。
天人は勾玉の紐を摘まみ上げて言った。「オヤジは結構したたかだからな。こうなる事、予想できたハズだ。都合いい事言って、俺を人間界の掃除に来させたのかもな」
そうかもしれないわね。じゃなきゃ、こんな迷惑男、送り込まれて困るもの。現に私が超困っているから。
「まあ、考えててもしゃーねーな。さ。帰るか」
今のやり取りの間に天人は体力が復活したらしく、さっと立ち上がって持っていた勾玉を首からぶら下げ、身体をコキコキと鳴らしている。因みに私は、未だ立てない。
「どうした?」
「力が入らなくて、立てない」
「あ、そ。じゃな! 達者で!!」
「は? えっ? 置いてくの? この状況の私を?」
「そのうち復活するだろうし、天海神社も近いからここで休憩しておけよ。なーに、神奈だったらだいじょーぶだって! じゃっ」
チャッ、と二本指を揃えて額の辺りでチャラいポーズを作り、笑顔で天人は本当にスタスタと歩き出した!
数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。
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