ハロウィンパーティーの招待状が届きました。
ハロウィンの夜だし、何かハロウィンぽいものをと思い作ったものです。
お手柔らかにお願いします。
ハロウィンパーティーの招待状が届きました。
「え…………っ」
引きこもり高校生こと主人公の藤原は、××の手紙を読んでしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
+親愛なる藤原様へ+
今宵、あなた は **** に 選ばれました。
まこと に おめでとうございます。
これにより あなた は わたくし の ハロウィンパーティー に
参加 できる 権利 を 手に入れました。
さぁ、わたくし の やかた で ハロウィンパーティー をしましょう。
なお、参加 しなかったら 殺し ます っ ♪
絶 対に 参 加し てく だ さ い ねっ っ
+クロノメの仇より+
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
読み終えると同時に、便箋から漆黒の炎が起こる。
「うわっ!!」
不吉な黒い炎が瞬く間に藤原の手へと迫りくる。
一瞬、判断が遅れた。なにせこのまま手放せば、家の床に炎が燃え広がってしまうからだ。
この逡巡が仇となり、あっという間に便箋は焼き尽くされ、漆黒の炎が手に廻ってしまった。
「あっ……!!!」
不思議と熱さはなかった。痛みもない。
不気味な黒炎は、手の甲に悍ましい刻印を残して消えていった。
「今日って、……なんにちだっけ」
カレンダーを見れば、今宵は10月31日、ハロウィンだ。
「…………こんな日に呪いの手紙をもらうなんて最悪だ」
絶対、死者の私怨だ。
心当たりはないが、自信はある。
確信にも近い。職業柄、恨みは相当にかっている。
「ただの高校生のはずなんだがな」と、薄く笑う。
本職は嫌が応でも業から逃れることを許してはくれないようだ。
この家業を背負っているからには、他者の呪いは避けては通れない道なのだろう。
なにせこの家系は――――。
「クロノメの仇か」
藤原は、小さく呟いて溜息をついた。
燃えカスとなった便箋をしみじみと見て、想う。
――――クローバーの便箋なんて読まなければよかった。
「絶対ろくなことないってわかってたのに」
唇を噛みしめて、呪われた右手を見た。
一方的に架けられた約束だが、行かなければ不吉なことが起きるのは間違いないだろう。
「しょうがない」
お菓子を手に、藤原は舘へと向かう。
引きこもりにとって、数か月ぶりの外出である。
久しぶりの街中は、いつにもまして賑わっていた。
あちらこちらで仮装をした男女が楽し気に歩いている。
ハロウィンは、人をおかしくしてしまうようだ。
今宵は、ひときわ大きな満月が浮かんでいる。
「月は人の精神に影響を与える」
人だけではない。
獣も草木も昆虫も、全てが狂っていく。
そして、死者の魂も、神さえも――――。
まったく、よりにもよって、満月のハロウィンに外出することになるなんて、ついてない。
呪いに誘われるままに、舘へとたどり着いた。
古びれた洋館は、茨の門に守られ、薔薇の古城と化している。
窓には明かりがともされており、どうやら人はいるようだ。
藤原がベルを探すよりも早く、門の扉が金属音を立てて開かれた。
おそらく、罠だ。
それでもいかないわけにはいかなかった。
黒薔薇の庭を抜け、館の扉へと来た。
ここまでくるのに敵が潜んでいる様子はなかった。
だが警戒を怠る訳にはいかない。恐る恐る舘の扉を開けば――――。
「ハッピーハロウィーン!!!」
「え」
「よぉ~~~しっ!! 藤原くん捕まえたぁ~~~っ!!!」
海賊帽子の少女が虫取り網を藤原にかぶせた。
なにがなんだかわからず、呆気にとられていると、ムキムキマッチョな男がビールジョッキ片手に歓声を上げた。
「いえーい!! さすが船長だぁ!!!」
「ふっふっふ。そう褒めるでない褒めるでない。船長にかかればこの程度、お茶の子さいさいである」
「なにやってんです……、あんたら」
藤原は頭上の網を取り除いて、改めて少女とマッチョとを見る。
「なにって見て分かんねぇのか。ハロウィンパーティーだろうが」
「そうだそうだ、ハロウィンパーティーだろうが。みりゃわかるだろうがぁ!」
ブーイングしてくる二名の酔っ払いに深々と溜息をつく。
「…………はぁ~~~~~。気合いれて来て損したっ!!!」
「なんだなんだ、藤原くん。もしかして呪いをかけられたとか思っちゃったぁ?」
海賊帽子の少女が得意げに言えば、藤原は不満たっぷりで返事をする。
「あんな手紙寄越されたら誰だって勘違いするでしょ」
「普通の手紙よこしたって、おまいさんは来てくれないじゃないか」
ぐっ。
確かにそうだが。
同業者、いや同じ仕事仲間のメンバーに誘われたって宴会なんていくわけがない。
そんなくだらないことをするより、ゲームしてたほうが何倍もマシな時間が過ごせる。
なにより藤原は未成年だ。酔っ払いの巣窟なんかに誰が好き好んで行くもんか。
「だからマキシムと相談してお手紙を書いたんだ、とびきりカマセなやつをな」
海賊帽子がよく似合う顔で少女がニコっと笑う。
本当に、この船長はイイ性格をしている。
この少女もとい海賊コスプレ年齢詐称(実年齢は500歳)の女は、アヤメという。
家業の長い付き合いだ。藤原が所属するチームのリーダー(仮)をやっている。
そして、つまみとビールを片手に、一人よろしく元気にやってる男がマキシム。
ただの筋肉馬鹿だ。
「それで。アヤメとマキシムは二人で宴会してたの? 他のメンバーは?」
マキシムがごくごくとビールを飲み干してから答えた。
「ヤガセ兄さんは裏で飯つくってる。ヴィオラは仮装衣装に着替えてるとこ」
「クローバーは?」
藤原の問いかけに、マキシムは眉間に皺を寄せた。
「よせやい、あいつの話なんて聞きたくねぇよ」
「先に振ったのはそっちでしょ。わざわざクローバーの便箋を寄越すなんていい趣味してるよ」
「え」
アヤメが驚きながら否定する。
「あたいは、そんな便箋知らないよっ。ちょっと藤原くん。手みせて」
有無を言わさず、ぐいっと引っ張られ、まじまじと鑑定される。
アヤメの暖かな指が、呪われし刻印をなぞっていく。
「妙ね……」
「何が?」
「これは確かにあたいの術よ。他の痕跡は見られない」
「なら、あの手紙は――――」
「キット、ミマチガイでしょう」
扉が開かれると同時に、貴婦人があらわれた。
華美なドレスを纏い、不似合いなパンプキンヘッドをかぶっている、滑稽な女だ。
思わず、藤原は眉を顰める。
「何、その恰好」
「ぱんぷきん婦人デス。イカガデショウカ」
感想を聞いてくるこのパンプキン婦人はヴィオラ。
アヤメとマキシム同様、藤原の仕事仲間だ。
そして、ヴィオラの後ろから嫌に甲高くて、とてつもなく男らしい声が聞こえてくる。
「あら、とても似合ってるじゃない、ヴィオラちゃん♡♡」
出来たての料理を片手にあらわれたのは、つぶらな瞳に、くるっとしたまつげ、頭のイカれたピンクの口紅、ひどい顔をしていた背の高いオカマの、ヤガセさんだ。
本当はとてつもなく強者で頼りになる人なんだが……、見るに堪えない女装が趣味で、女モード?になっているときは、やたらとスキンシップしてくる困り者である。
「あらやだ。藤原ちゃま。来ていたのね♡♡ お会いするのは何カ月ぶりかしら? まあ、嬉しぃわぁ~~~♡♡♡」
「やめろ、近づくなっ!!! 顎髭をジョリジョリするな!! 助けてくれ、アヤメ!!」
「シャラップ! 集会に顔も出さずに家に引きこもって。学校にも行っていないらしいじゃないか、みんな心配していたのだぞ、藤原くん。ヤガセ兄さんが寂しがるのも、久々の再会でテンションがあがってしまうのも、しょうがないこと。大人しく兄さんの愛を受け入れるがいい」
「ちょ、ふざっ!! ばぁっか!! やめてぇぇ~~~!!」
館内に、藤原の悲痛な叫びが轟くのであった。
そうして、ひと悶着あった末に、ヴィオラに誘われ、仮装衣装へと身を包む。
「オ似合イですヨ、藤原様」
「そりゃあ………ど、うも……」
ヤガセの愛情を全身に受けた藤原は満身創痍で返事をした。
「さぁ、仕上げはコレです」
吸血鬼の仮装が整ったと思いきや、ヴィオラが南瓜を手にする。
「私とオナジ、かぼちゃノ住人ニナリマショウ」
「ヴィオラ。その南瓜、くり抜かれてないのだけど……っっ?!?!!
ちょ、ちょっとまって。その穴の開いていない南瓜で俺を叩こうとするのは、ちょっと待って!!」
「アンシンして下さい、藤原様。頭と南瓜がガチンコ勝負すれば、自然と穴はアキマショウ」
「なにいってんの!!?!?この子?!!?」
ヴィオラ夫人はパンプキンヘッドからギラギラと輝く目を覗かせている。
「あ、これダメなパターンのやつだ」と、藤原は察して臨戦態勢へと入った。
そうして死闘の末、藤原は南瓜に勝ったのだった。
「な、なにがあった藤原ぁ~~~!!!」
マキシムが、魂が今にも抜け出しそうな藤原へと駆け寄る。
「ま、マキシム……。ゆ、ゆらすな。し、しぬっ。今度こそ本当に死ぬっ!!!」
「ああぁ~~しっかりしろ!! 死ぬなぁ!!!」
グラグラと藤原を揺らし、殺しにかかってくるマキシムである。
ぐたっとして動かなくなった藤原の手を握り締め、マキシムは言う。
「着替えとは戦場なのだなっ」
うるっと涙を滲ませるマキシムは本気だった。本気のバカだった。
その様子に、やれやれとアヤメが溜息をつく。
「まったく。いい加減に茶番はやめてこっちに来い」
「はは。そうねぇ♡ お料理が冷めちゃうわよ、みんな♡」
ヤガセに急かされ、全員が席に着く。
アヤメがグラスを捧げる。
「さぁ、久々の全員集合だ。ぱーっと行こう。かんぱーいっ!!☆」
「カンパーイ!」
カコンっと良い音が鳴った。
一つ席の空いた、5人だけの宴会が今宵、始まる。
ひとしきり食い終わって、酔っ払いが暴れてる場を抜け出し、バルコニーで一人、月を眺めていた。
こうやって一人でいるとハロウィンの喧噪とは無縁であることを認識する。
久々の外の世界は、とんでもなく物騒だ。
ひきこもりの心身に沁みるものがある。
「藤原くん」
すると、ふいにアヤメが隣に座った。
「どうした」
「今日は楽しかったか……?」
アヤメは少し不安げに聞いてきて、瞳を揺らす。
気付かないように、空を見上げた。
満月がとてつもなくキレイだ。
「こんな日に呼び出されるなんて、まったく最悪だよ」
藤原が嬉しそうに言えば、アヤメは幸せそうに笑うのであった。
なんだかんだ言って、このメンバーで過ごす時間は嫌いじゃない。
満月のハロウィンなんて最悪だけど、それでも――――。
たまには、仲間と過ごす夜も悪くないかな。
――――――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
+親愛なるクローバー様へ+
今宵、あなた は イケニエ に 選ばれました。
まこと に おめでとうございます。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ……、皆は楽し気にパーティーしてるっていうのになぁ」
黒い便箋を見て投げやりに言う。
「僕だけこんな役回りだよ」
「おまち して おりました。 クローバー さま」
猫のカチューシャをした少女の怨念がギロリと鋭い視線をクローバーへと向けた。
「いえ、今 は 黒羽 様。でしたね」
「どうもこんにちは。怨念さん。ご招待して頂き嬉しいよ」
それで、なんの用かな?
と、聞くと同時に、猫のカチューシャから黒煙が上がる。
女の甲高い悲鳴が響いた。真黒な炎が怨念の全身を包み込み、劫火が唸った。
「ああ、そうだ。言い忘れてた」
女の苦しみなどまったく気にせず、クローバーがにっこりと笑う。
「お菓子をくれないと、悪戯しちゃうぞ」
君からのお菓子なんていらないけどねっと、小さく付け足すクローバーの目は悍ましいほど歪んでいた。
怨念だから、なんだというのだろうか。
恨まれたから、なんだというのか。
今さら後になんて引けない。辞める気なんてさらさらない。
泣いて壊れたって、先に壊したのはお前らなんだ。
――――先に、選んだのはオマエたちだ。
イケニエを選んだのは、俺じゃない。
俺をイケニエに選んだあんたらが悪いよ。
「ハッピーハロウィン」
憎しみを葬って、月を見上げる。
此の狂気の世界を戻せる救世主は、月だけだ。
黒羽ヤマトは世闇に消えた――――。
【あとがき】
即興で作った、反省はしている。
酔っぱらってる? うーん、どうだろう……?
創作中の小説に出てくる面々のお話です。初投稿です。お手柔らかにお願いします。まだ思考錯誤中なので未定な要素が多いですが、本編を公表した際には読んで頂ければ幸いです。ハロウィンなので短編でもってことで即興で作ったモノなので、何卒ご寛容にお願い致します。
【登場人物あれこれ】
藤原くん:引きこもり高校生
入学したての高校一年生、単位ギリギリになるまで学校休む気でいるダメ学生。いろいろあって学校が嫌い。
彼の家業は何かって……? ふふっ、それはお楽しみに!
アヤメ:海賊帽子がトレンドマークのあたいっ子
少女の容姿をしているけれど決して少女ではない。年齢は500歳ぐらいを想定
藤原くんの師匠だけど、なんかヒロインポジなってたどうしよ船長
マキシム:筋肉一筋マッチョマン
あ、うんはい
ヴィオラ:超ハイテクマシーン。実は人間ではなくて機械です。
カタコトなのと、一度決めたらキャンセルできない不屈の精神がトレンドマーク。
片言だけど歌を唄うのは上手だよ。
ヤガセ:兄さんとオカマを兼ね備えた御仁。作中屈指の強者枠の一人。
オカマモードしか書かなかったけど、本作ではかっこいいヤガセ兄さんの姿を出していきたいです頑張ります
クローバー:全ての物語の黒幕であり元凶であり救世主的な御人。
以上、ご精読ありがとうございました!