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未来売リマス研究所  作者: てっぺい
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女との出会い

年の瀬、夜の川辺にはキリッとした空気と堤防のコンクリートの冷たさが漂っている。


 虫達も鳴く事を止めたこの季節、川辺はただ静かなだけである。




 川にかかる高架橋の下で、「井上マモル」は右腕から流れる自分の血を抑えながら、目から流れる涙で身につけているシャツの袖を滲ませていた。




「どうして俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだ・・・・」




 そう言って青年は体育座りのまま、膝に顔を埋めた。




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 1週間前




 その日はマモルにとっていつも通りの1日だった




「マモル君、これ5番さん。お願いね!」


 恰幅の良い中年のおばさんの指示を受け、マモルはお好み焼きを運ぶ。




 ソースの香りが充満した店内には、仕事終わりのサラリーマンや若い学生客で賑わっている。


 今日は年末の金曜日であり、繁華街は普段より一層の賑わいを見せていた。




 マモルは都内の大学に通っており、両親からの仕送りもあるがそれだけでは十分な学生生活はおくれない。


 そのため昼は授業、夜はこのお好み焼き屋「おりん」で時給1,000円のアルバイトをする生活だ。




 お好み焼き屋といえば最近は客が自分達で焼くスタイルが多い。


 だが、この「おりん」では大将が焼いたお好み焼きを「ちりとり」という道具で客の前まで運ぶ、昔ながらのスタイルだ。




 大将の奥さんはマモルの東京での母の様な存在だ。


 大将も、気さくな人で一人暮らしのマモルには営業終わりにいつも賄いを食べさせてくれる。



「マモル君、次はあのご新規さんからご注文お伺いしてきて!」


 おばさんに指示を受け、マモルはカウンターに座る一人の女性のもとへと向かう。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


 黒いスーツに身を包み、長くしなやかな黒髪を後ろで括ったその女は、こちらに少し微笑みながら飲み物と食べ物を注文した。


 この店には似合わない美人の1人客であった。


 いわゆるボンキュッボンの体系に、抜群の顔立ち。


 マモルはその女の声に耳を傾けながら、ただそこにいるだけの女の色気を感じていた。




 だがその美人に見惚れる暇も無い程に店内はその後も賑わい続け、最後の客が帰ったのは「おりん」の営業時間を1時間過ぎた頃だった。


 いつの間にかいなくなった女はきっとおばさんがお会計をしてくれたのだろう。




 マモルは一息つき、のれんを店内へと片付けた。




「マモルちゃんお疲れ。賄いはちょっと待ってくれな。」


 大将が先程まで客が座っていた席に腰を掛け、煙草をふかしながらマモルに声をかける。


 マモルはそれに対して、遠慮しながらもお礼を言い、片付けと店内の清掃を始めた。




「アンタ!煙草なんか止めるんじゃなかったの!?」


「先月もショウタロウの所で診てもらった時に、煙草はやめろって言われたばっかじゃない!」


 おばさんが大将を咎める。




 マモルは苦笑いをしながら作業を進めた。


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「大将とおばさんの息子さんってお医者さんなんですか?」


 マモルは賄いを食べながら聞いた




 おりんでは大将とおばさん、そしてマモルの3人で夕食替わりの賄いを食べる。




「言ってなかったかぁ?俺の息子は医者やってるんだ。だから、いざって時は息子を頼るんだよなあ!」


 向かいの大将が誇らしげに笑う。




「本っ当にどうしてこの家から医者が生まれたんだろうねぇ・・・」


 斜め前のおばさんもクスっと笑う




「トンビが鷹を生んだって事だなぁ!」


 また大将が大きな声で笑った。




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 翌日




 土曜日も「おりん」は忙しかった。


 店内はオープンからほぼ満席。狭い店内は活気で溢れていた。


 マモルも大将たちも必死に営業した。


 一通り客も片付き、少し落ち着いた頃、時刻は22時を少し回っていた。




 マモルは水を一口飲み、疲れを息と共に吐きだす。


「マモルくん、忙しかったわねぇ」


 おばさんから声をかけられ、マモルは苦笑いする。




 その時、「おりん」の引き戸が開いた。




「いらっしゃいm・・・」


 マモルは息を飲んだ。


 あの黒髪の女がまた一人でやって来たからである。

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