表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第一部 世界大紀行編
92/813

第九十二章 故郷を離れ

 自室に戻ると、フランシスが俺の本棚から本をなにやら持ち出し、寝台に寝転んで読んでいた。

「妖精の森? 案外キミ、ロマンチストだったんだね」

「勝手に読むなよ」

 マントを羽織り、俺は言った。

「もう出発するの?」

 と、フランシスが聞くので、

「昼食は母さんが弁当を作ってくれるらしい。それまでに、次の目的地を決めなければならないだろう?」

 俺は答えた。

「そっか」

 と、言ってフランシスもマントを羽織る。

「あ、本はあった場所に戻しておけよ」

「はーい」

 本当に大丈夫だろうか。まぁ、今度帰省した時に直せば良い話だ。

 俺とフランシスは連れだって部屋を出、オリヴィエたちの泊まっている部屋を訪ねた。

「なんだ?」

 あらわれたオリヴィエが気怠げな声を出した。

「もう出発するのか?」

 と、オリヴィエの背後からマウロが顔を出す。

「いや、次の目的地を姫様と決めようとな」

 俺は言った。

「わかった、ちょっと待ってろ」

 オリヴィエは言って、扉を閉じた。

「着替えてるのかな」

 と、フランシスが囁く。

「そうかもしれないな」

 俺は苦笑した。

 やがて、マントを羽織ったオリヴィエとマウロが扉を開けた。

「良し、行くか」

 オリヴィエが言い、アイリスの泊まっている部屋を目指した。

 部屋は、父と母の使っている寝室の隣に位置していた。南向きの、上客用の部屋だ。

「姫様、いらっしゃいますか?」

 オリヴィエが扉を叩くか。

「開けて良いわよ」

 返って来た言葉に従い中に入ると、既に旅装束姿のアイリスがいた。

「姫様と、次の目的地を決めるためにお部屋を尋ね次第です」

 先頭のオリヴィエが言うと、

「そうね、決めましょう」

 入って? と、アイリスは答えた。

「お邪魔します」

 お邪魔しますもなにも俺の実家なので、なんだかこそばゆい。オリヴィエの言葉に、背中を込み上げるものがある。

俺たちは部屋に入り、寝台に座ったアイリスから、円を描くように床などに座った。

「姫様もご存知の通り、もうクォーツ国の支配下の土地です。このまま王都にお帰りになられるも良し、もう少しこの辺りの町や村を回られるのも自由です」

 いかがなさいますか? と、床に地図を広げ、オリヴィエは言った。

「うーん」アイリスは少し悩んでいるようだ。「まだ帰りたくはないのよね……」

「では、マーシ村に近いジストの町などいかがですか?」

「そこにはなにがあるの?」

「ちょうど、神の聖誕祭をやっているのです」

「面白そうね!」

 アイリスは声を弾ませた。

「では、ジストの町に寄る事にしましょう」

 オリヴィエが地図を畳む。まだ太陽は天上に昇りきっていない。もう少し実家にいる時間がありそうだ。

「神の聖誕祭って、どんな事をするんだ?」

 と、廊下に出た時、俺はオリヴィエに聞いた。

「収穫祭のようなものだよ。ジストの町の民が信仰している神が酒神でな。葡萄酒を皆で飲んだり掛け合ったりするのだ」

「掛け合ったり!?」

 俺は声を張り上げた。

「着替えは用意しておけよ」

 オリヴィエはそう言って、部屋に消えていった。

「掛け合ったりか……それだけで酔っ払いそうだね」

 俺の自室に入ると、フランシスは笑った。幸い、荷物にはヴェストとパンツのセットが二着残っている。それも、マントを羽織ってしまえば濡れずに済む話だが。

あ、頭にかかるから、普通に酔ってしまうか。

 と、俺は一人で納得した。その時、扉がノックされた。

「シャルル、お昼のお弁当できたわよ」

 母の声だ。扉を明けると、サンドイッチの入ったバスケットを抱えた母がいた。

「ありがとう、母さん」

 俺がバスケットを受けとると、

「絶対また帰って来てね」

 と、今生の別れのように涙ぐまれてしまった。

「わかってる。行ってくるよ」

 俺は答え、母の背中を叩いた。軽く丸まった背中が、絶対に追い付くことのできない親の老いを感じさせた。

 果たして俺は本当に再び故郷に帰ってこられるのだろうか? 俺が帰ってきた時、父や母は生きているのだろうか。

 そんな不安が過ったが、首を振ってそれをもみ消した。

 外に出ると、オリヴィエとマウロがアイリスと共に俺たちを待っていた。

「皆さん、こんな息子ですが、これからもよろしくお願いします」

 母が深々と頭を下げる。照れるから止めて欲しい。

「はい、わかりました」

 オリヴィエが母の手を取る。

「ありがとうございます」涙ながらに母は答えると、「シャルル、行ってらっしゃい」

 と、言った。

「行ってきます」

 俺は答えて、皆で階段を降りていった。

 一階では、父がコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいた。俺たちが降りてくるのを見ると、父は立ち上がり、

「シャルル、もう行くのか?」

 と、言った。

「あぁ、父さん。行ってくる」

「頑張れよ、お前はもう立派な銃士だ」

「ありがとう」

 そう言って、俺は実家の扉を閉めた。

「シャルルー? どうした?」

 俺を覗き込み、フランシスが声をかける。

「なんでもないよ」

 滲んだ景色の中で、俺は答えた。


お読みいただきありがとうございます。

レビュー、感想等よろしければ書いてくださると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ