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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第一部 世界大紀行編
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第九十章 母さん特製クリームシチュー

 皆で階段を下りると、良いクリームの匂いが漂ってきた。ビンゴ、母特製のクリームシチューだ。

狭いテーブルに、父と母を含めて七人分の食事が並ぶ。シチューの入った器が、少し窮屈そうだ。

「こんな大勢で食卓を囲うのは初めてだわ。沢山食べてね」

 ロールパンの入ったバスケットをテーブルの中心に置き、母は言った。実を言えば、ロールパンも母の手作りなのだ。

「いただきます」

 と、アイリスは言ってシチューを口に運んだ。途端、彼女は笑顔を見せる。

「美味しいですか?」

 と、母が聞くと、

「えぇ、とっても」

 アイリスは言った。そうして、パンを手に取ると、シチューに浸して食べ始めたのだ。父の顔が険しくなるのがわかる。不味い、言っておくべきだった。

「シャルル? 誰だろう、姫様にこんな庶民の食べ方を教えたのは……」

 父が俺を見遣る。

「違いますわ、お父様」と、アイリスは父を見た。「私が王侯貴族以外の者たちが食べる方法として本を読んで覚えましたの。決してシャルルや他の銃士の方から学んだものではありません」

 そうだったのか。と、俺たちは顔を見合わせた。イサファ国で俺たちを倣って食べたのだと思っていた。

「そうでしたか」と、父は言って、「しかしその食べ方はお父上やお母上の前ではやってはいけませんよ」

「わかっていますわ。今回の旅だけ、まだなんの位もないアイリスとしてこう食べる事にしていますの」

 いや、姫と言う位があるじゃないか。父はそんな顔をしたが、あえてなにも言わない事にした様子だった。ありがとう、父さん。

 その日に絞った牛の乳から作られたシチューは、鶏肉や人参、じゃが芋、バターで良く炒めた玉ねぎが入っていて、やはり一番美味い。隠し味のチーズも最高だ。

「美味しい!」

 次に叫んだのはフランシスだった。

「旨い旨い」

 マウロも言いながらシチューをかっこんでいる。

 オリヴィエはと言うと、ポーカーフェイスを装って、無言でシチューとパンを味わっているようだった。隊長、口元に浮かべた頬笑みでわかります。

「喜んでもらえて良かったわ。パンも作り過ぎてしまったからどうしようかと思っていたのよ」

「パンもご自分でお作りになられたのですか!?」

 アイリスがおどろいたような声を出す。

「この辺りの村は、都とは違ってパン屋さんがないのです。だから、手作りしているのよ」

「本当に美味しい……私が商人であれば王都に店を出すように助言します……」

「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいわ」

 でもこのままで良いのよ、と、母は言った。

 なぜ? と、アイリスは問わなかった。無駄な問いかけをしない。姫様も大人になったものだ。

 やがて夕食を食べ終え、談笑していると、母がレモンのシャーベットをそれぞれの器に盛ってあらわれた。これは食べた事がないぞ……?

「母さんは最近シャーベットに凝り初めてな」

 と、言う父に、

「そうなのよー。良かったら食べていって」

 母が笑った。

「ありがとうございます!」

アイリスが声を張り上げた。妻に胃袋を握られた夫のようだ。

「美味しそうだよ、母さん」

俺はそう言って、そのままスプーンでシャーベットを掬う。シャリっとした音と共に、ふわりとレモンが香った。口に含んでみると、レモンの香りを残し、すぐに溶けてしまう。

「美味しい……」

 と、俺は呟いた。

「本当? シャルル」

 母が乗り出して聞いてくる。

「あぁ、本当だよ」

 俺が笑うと、

「嬉しい……新作まで美味しいっていってくれるなんて……」

 と、再び泣き崩れてしまった。

「おい、母さん大丈夫か」

父があわてて母を抱き起こす。

「ごめんなさい、最近涙もろくなっちゃって」

 涙を拭い、母は言う。更年期ってやつかな?

「国に帰ったらなにか良い薬でも送るよ」

俺はそう言って、残りのシャーベットも平らげてしまった。

「ごちそうさまでした」

 美味しかったです、と、アイリスは言った。

「美味しかったですよー」

 フランシスがそれに続く。

「あぁ、王都の下手な店で食べるより美味しかった」

 と、オリヴィエ。

「もっと食べたかったぜ」

 マウロも言葉を継いだ。

「嬉しいわぁ」

 と、母が笑顔をほころばせた。

「じゃあ、そろそろ部屋に戻るよ」

 俺は言って、席を立った。

「おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」

 母の言葉に、俺は笑って答えた。

 階段を上がり終え、それぞれの部屋に戻る。俺は一度自室にフランシスと共に入り、

「布団を持ってくるからな」

 と、言った。

「別に同じベッドでも良いのにー」

 その言葉を扉で遮った。

 一番奥の部屋に、確か布団はあった筈だ。蝋燭を頼る事なく、夜目と勘で部屋を探す。さほど広くない家だ。すぐ見つかるだろう。

やがて廊下の奥まで辿り着き、扉を見つけ、開ける。やはり納屋のようになっていて、布団が畳んで置いてあった。

 布団を持ち上げ、部屋を出る。片手で扉を閉めると、俺は自室へと戻った。

「あ、おかえりー」

 俺の寝台に座り、フランシスは片手を上げる。

「あぁ、ただいま」俺は言うと、寝台の隣に布団を敷いた。そうして、「どっちで寝たい?」

「え、キミと同じ方」

 叩いてやろうか。

「じゃあ、俺はベッド、お前は布団な」

 それだけ言って、俺は寝台に潜り込んだ。

「ちぇ、ケチ」

 闇の中で、フランシスが軽く舌打ちする。

「早く寝ろよ」

 俺はそう言うと、彼に背を向けた。


お読みいただきありがとうございます。

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