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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第一部 世界大紀行編
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第八十六章 旅立ち

 あくる日、射し込んだ陽光に目を覚ますと、俺の寝台の縁にアイリスが座っていた。

「うわぁぁあ!」

 思わずおどろいて枕を抱き締める。なんで?なんで姫様がここにいるんだ。

「ドッキリ大成功ー」

 と、柱の影からフランシスが顔を出す。

「ふふっ、成功ね」

二人は互いに笑い合い、一人置いていかれている俺は、枕を更に抱き締めた。女子─いや、一人は性別がないが─は怖い。そう思いながら。

「な、なにかご用ですか?」

 枕を手放し、俺は尋ねる。もう二人とも確りと着替えている。夜着のままなので、早く着替えたい。

「朝食の時間よ」

 アイリスが優しげな声で言った。嬉しいモーニングコールだが、早く出ていって欲しい。

「早く着替えて一緒に行こうよ!」

 フランシス、犯人はお前か。余りアイリスの前で裸を晒したくはないが……ここはしょうがない。犬と違って猫は隠れる所は毛で隠れている。俺は寝台の縁に一度座り、立ち上がった。

 寝台の脇に置いた荷物から、ヴェストとパンツを取り出す。ボタンを外して夜着を脱ぎ、ヴェストを着ると、パンツを履いた。その上から、ブーツを履く。よし、着替えたぞ。

 マントは、出発の時で良いだろう。フランシスも着ていない。彼の肩越しに、長い尻尾がゆらゆらと動いているのが見えた。

「じゃあ、行こっか」

 と、フランシスは俺とアイリスの手を取った。中々力強い。アイリスが引っ張られているのがわかる。

「早い早い」

 と、俺が言うと、

「あ、ごめん」

力は少し弱まった。

 部家の扉を開き、廊下に出る。途中、あくびまじりのマウロと落ち合った。

「おはよう」

「おはよ……」

 マウロさんかなり眠たそうですね。俺も実は昨日のあと、目がガンガンに覚めてしまい、夜中まで眠れなかったのだ。

「眠そうじゃないか。どうしたんだ?」

 と、俺が聞くと、

「隊長の屋敷の使用人に葡萄酒を頼んでひたすら飲んだからなぁ」

 二日酔いだよ、と、マウロは答えた。

マウロはオリヴィエと同じくらい大酒飲みだ。と、言うか酒が飲めなければ銃士隊に入る事ができないだろう。銃士隊へ入る面接の時、オリヴィエが酒は飲めるかと聞くくらいだと噂に聞いた事がある。

 そう考えると、なんてところなんだ、銃士隊って。

 四人で階段を下り、食堂に向かう。オリヴィエとは行き違わなかった。先に行っているのだろう。

「あら、おはよう」

 食堂の前で、ノエルと落ち合った。

「おはようございます」

 皆口々に挨拶をする。

「あの、オリヴィエは?」

 と、アイリスが尋ねると、

「あの人なら多分もう席に着いている筈よ。少なくとも昨日の夜半過ぎには自分の部屋に帰っていったから」

 つまるところ夜半過ぎまであんな事やこんな事をしていたと言う訳ですね。昨夜の事を思い出し、アイリスが顔を赤らめている。

 食堂の扉を開くと、オリヴィエが奥の席に座っていた。目前にはパンとオムレツ、サラダ、ヨーグルトが置かれている。そろそろ白米が恋しくなって来たぞ……。

「よう、おはよう」

 オリヴィエは片手を上げる。

「おはようございます、あなた」

 と、ノエルが言うと、

「あ、あぁ。おはよう」

 肩を上下させ、オリヴィエは答えた。お互い昨日の姿とはえらい違いだ。マウロだけが、結婚て怖いもんだな、などと言っている。

 しかしなぜオリヴィエとノエルは表向きこんな関係を演じているのだろう? それが疑問だ。

「さぁ全員席に着いたわ。いただきましょう」

「……そうだな、いただきます」

「いただきます」

 皆の声が重なった。

 オムレツをナイフで割り、開く。スクランブルエッグだ。いつかの航海の時にも食べたが、さすが領主の屋敷の料理だけあって、大分違う。勿論船で食べた時も美味しかったが、バターの芳しい薫りがし、もっと美味い。

 サラダはトマトとレタス、パプリカも入っていて、オリーブオイルドレッシングをかけて食べるスタイルだ。

「野菜は毎朝領地の農家で育てている物を収穫しているの」

 美味しいでしょう? と、ノエルは言った。

「とっても美味しいです!」

 無邪気にアイリスが答える。

「ついでに卵も毎朝養鶏場から届けて貰っているの」

「新鮮、って事ですね!」

「これが私の毎日の朝食よ。一人きりのね」

「──すまない」

 オリヴィエが再び頭を下げる。

「良いのよ。いつかあなたが帰って来てくれるなら」

「隊長、銃士隊はどうするんだよ」

 ノエルの言葉に、マウロが問う。

「代わりの隊長ができれば、俺はいつでもその場を退くさ」

「早く見つかると良いわね」

「そうですね」

「え?」

 アイリスの発言に、ノエルが不思議そうな表情をした。

 不味い、と、アイリスも思ったようで、すぐに

「い、いや、そうすればノエル様は仮の領主と言う重荷から逃れられると思ったからですわ」

 と、取り繕った。

「重荷ね……もう慣れたけれど」ノエルはため息を吐いた。「で、あなた。いつ出て行くの?」

「き、今日?」

 オリヴィエはアイリスを見る。

「そうですね、今日旅立とうと思います」

 アイリスが言った。

「そう」と、ノエルは扇を広げた。「行ってらっしゃい、あなた。また帰ってくる日を待っているわ」

 その声は、どこか軟らかさがあった。

「ありがとう、行ってくるよ」

 オリヴィエが席を立った。


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