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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第四部 フレデリック王子編
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第八百七章 仮面舞踏会

「油は、あるだろうか?」

 手渡された懐中時計を手に、俺は言った。リュカが急いでオイルを持ってきた。少し、べとべとするかも知れないが、固い金属には油。隼人ではそう習ったのだ。

 俺は、オイルをリューズに垂らすと、懐中時計を何度か開け閉めした。よし、あまりべたつきはしない。

「これで大丈夫だろう」

 ライラに懐中時計を返し、俺は言った。

「ありがとうございます……っ」

 彼女は大切な宝物のように、それを一度抱き締め、胸元にしまいこんだ。なんとなくできている谷間にくらりとする。

 俺は熟女主義ではない。

 決してない。

「先輩?」

 己の煩悩と戦う俺へと、セルジュが話しかける。はっと我に帰り、俺は顔を上げた。

「よし、行こう」

 照れを隠すように、踵を返す。それに、皆も続いた。


「キミ、今ライラの胸にどきどきしていたのだろう?」

 廊下で、俺へと駆け寄りフランシスが話しかけてくる。止めてくれ、忘れない事を掘り返すな。

「そのような事はない」

 前を向いたまま俺は言った。俺にはアイリスだけだ。貧乳に興味もない。

 本当だぞ?

 間も無く階段が見えてくる。今宵は、アイリスと踊る事ができるだろうか。そう言えば、最後に踊ったのは、いつだったか。フレデリックの5才の祝いの、ルドルフが催した時だったような気がする。

 もう、遠い昔になってしまった。


 ──本当に、あなたの事好きだったのよ?


 そう言ったアイリスの声がよみがえる。懐かしい話だ。

 階段を下り、ホールに足を運ぶ。新郎新婦は、既に到着しているようだ。

 ホールの中は貴族たちでごった返していて、時折はぐれそうになる危険を、服を掴む事で耐えながら、俺たちは己の主人の元へと向かった。

「シャルル遅いよー」

 白い装束のフレデリックが腰に手をやった。

「申し訳ありません。少し、用事がありまして……」

「わ、私の懐中時計を直していただいていたのです。どうか、お怒りになられないように」

「成る程。シャルルは優しいね」

 フレデリックが笑顔で言う。その隣から、アレットはライラを見た。

「懐中時計が固かったのですか? 先生」

 するとライラは慌てて、

「先生だなんて……もう私はあなたの従者です。恥ずかしいですわ」

「もうすぐ曲がかかるよ? 公爵主催の仮面舞踏会だ。仮面は用意した?」

 二人の言葉を遮るように、フレデリックは言った。それは、今か今かと待ち構えているオーケストラの指揮者を見ての事だろう。

「はい!」

 皆は仮面を付けて見せる。しかし、ここにいるほとんどが人間の貴族たちだ。俺たちは逆に目立ってしまうのだろう。

 アイリスと踊りたいが、今は壁と化していよう。曲が流れ出す。その時だった。

「ワルツはいかが? シャルル」

 聞き慣れた声が、聞こえてきた。

「ア、アイリス様!?」

 俺の声はひっくり返っていた事だろう。フランシスがおどろいた顔で、俺たちを見ていた。

「か、構いませんが……」

「じゃあ、お願い」

 と、アイリスは手を差し出す。

「それでは逆ですよ、アイリス様」

 俺はそう言って、彼女の手を取った。

「久しぶりね。こうやって踊るのは」

 彼女は俺に身を預け、囁いてくる。これは夢だろうか。

 この瞬間が、永遠に続けば良いのに。

 そう言えば、あの舞踏会の日も、そんな事を思っていたな。

 その時、俺はまだ知らなかった。アイリスの命の天秤が、傾きかけていると言う事を。


お読みいただきありがとうございます。

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