表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第四部 フレデリック王子編
805/813

第八百五章 ラフォンの魔法

「やはり、すごいな」

 桟敷席へと続くカーテンの外側で、俺は呟いた。舞台はちょうど、アナベルが登場した頃だろう。

「そうですね……」

 セルジュがそれに続く。しかしお互い思い描いている人物は違うだろう。

 俺は、カジミール二世を演じるアンリ・ジョフレイに。セルジュは、アナベルを演じているエステル・ピアフに。

 互いに違って、それで良いのだ。

 お互いに贔屓の姿を思い描いている時だった。

「トルブレ家のものだ」

 と、急に声をかけられた。

「トルブレ家? あぁ、アレット様になにか?」

 俺は答える。暗闇でわからないが、声からして壮年の男のようだ。

「城まで馬車で来て、皇太子殿下の馬車でこの劇場に入られただろう? 取り残された馬車が劇場前まで来ている。そのまま家へと帰るように、伝えてはくれないか?」

「あ、良いよー」

 フランシスは言った。

「終演後に、伝えておくね」


「さようなら、血にまみれた王」

 舞台の声が聞こえてくる。そうして、漏れていた光が消え、

「私こそ、本当の王者。エリザベート! 愚民たちよ、ひれ伏せ、這いつくばれ!」

 マルグリット・フランソワーズの歌声が響き、再び劇場に光がようだ。


「ブラヴォー!」

 桟敷席から、フレデリックの声と拍手が聞こえる。それに続くのは、アレットのものだろうか。

 やがて、二人は軽い階段を下り、カーテンを捲った。

「おどろいたよ、本当に」

「え、えぇ……そうね」

 お二人とも、未だにラフォンのかけた魔法にかかっておりますよ。フレデリックは俺が買ってきて手渡したパンフレットを胸に抱き、彼方を見ていて、アレットの瞳は回転しているように瞬きを繰り返す。

 ラフォンの魔法。

 自分で思い付いておいて、良い例えかもしれない。我ながら、少し誇らしくなった。

「楽屋に寄られますか?」

 俺は問う。それに対してフレデリックは、

「いや、このまま帰るよ。皇太子が楽屋に訪れたなんて、大騒ぎになってしまうだろう?」

 と、彼は答えた。確かにそうだ。

「わかりました。……それと、アレット様──」

「あ、ボクが言うよ!」

 すかさず、フランシスが手を上げた。

「朝、アレット様は自宅の馬車で城まで来たじゃないか。それで、フレデリック様の馬車でここまで来られている。だから、残された馬車が劇場前につけてあるみたいなのだよ」

「やだ、すっかり忘れていたわ……」

  アレットが、頬に季節外れの紅葉を散らす。

「それでね、その馬車で直接家に帰るようにって、伝令? 召使い? が来て言って行ったよ」

「わかったわ……寂しいけれど、今日はこれでお別れね。さようなら、フレデリック」

「馬車までは一緒に行こう。少しでも長く、君と話がしたい」

 フレデリックは言う。これはボニファーツの教えだな。

 そうして、また二人は手を繋いで歩き出した。

 もう既に、客の捌けた劇場を二人は歩いて行く。途中、支配人があらわれた。

「フレデリック皇太子殿下と、アレット・ド・トルブレ様。今日はご観劇ありがとうございます」

 新たに支配人になって、二度目の公演だ。緊張しているのが目に見えてわかった。

「その……いかがでしたでしょうか? 今回の公演は」

「楽しかったよ。また観たいな」

 刹那アレットを見て、フレデリックは言った。

「ありがとうございます」

 そう言って、支配人は二人が外に出るまで頭を下げ続けていた。

 劇場の外は、貴族たちの馬車はなくなり、王宮用と、トルブレ家用の馬車だけが残されていた。御者が気が付き、それぞれの扉を開ける。

「さようなら、フレデリック」

 馬車に乗り込みながら、アレットは言った。


お読みいただきありがとうございます。

評価(下にある☆を★で埋める)、ブックマークの他、レビュー、感想等よろしければ書いてくださると幸いです。日々の創作の糧になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ