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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第四部 フレデリック王子編
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第七百九十七章 隊長と副隊長

「梟屋は薄暗く、俺は少しばかり臆してしまった。良く見れば、カウンターしかない狭い店内だ。そうして、マスターの背後には見た事のない文字が書かれたラベルが踊っていた。異国の酒の名だと知ったのは、セドリック殿が酒を頼んだ時だった。

 俺が席に座ると、マスターは磨いていたグラスを置いて、

「珍しいですね。いつもはソフィ様もいらっしゃるのに」

 と、言った。それからマスターは俺を見た。そうして、

「どなたですか? 見かけないお顔ですが」

「銃士隊副隊長のオリヴィエだ。素性はそれしか知らん」

 セドリック殿が答えた。

「まぁ、座ろうか」

 彼に促され、俺は足の届かない椅子に腰かけた。

「マスター、季節の酒を」

 勝手知ったるように、セドリック殿は飲み物を注文した。そうして、そのついでに、ピクルスも頼んでいた。

 俺とて、伊達に生きてきてはいない。しかし、やはりただの二十代前半の若者だ。体験した事のない大人の社交場に、少しばかり緊張していた。

「飲めるだろう?」

 マスターがカウンターに滑らせた、二つのグラスのうちの一つを俺に渡し、彼は言った。透明なグラスには、琥珀色の酒が揺れている。

匂いからして、蒸留酒だった」


「あ、隊長、蒸留酒苦手じゃなかったけ?」

 フランシスが声を上げる。あまり話の腰を折るとオリヴィエの鉄拳が火を吹くぞ?

「あまり好きではないな。恐らく、今話している事もあいまって、更に苦手になった」

 オリヴィエは葡萄酒を一口飲み、

「俺には葡萄酒が一番良いのさ」

 と、ニヒルに笑った。

「で、話を続けるぞ?」

「わかった」

 フランシスは素直に頷いた。


「当時俺は蒸留酒は飲んだ事がなくてな。軽く乾杯して、一口口に含んだ時の味わいは今でも覚えているよ。蒸留酒のきつい匂いがたださえ敏感な猫の鼻を射すのだぞ? それはそれは地獄だった。

 しかし、セドリック殿は蒸留酒がお好きなようでな。幾度か頼まれていた。

 そうして、俺のグラスが半分ほどになった時、こう切り出したのだ。

「お前が、銃士隊隊長になったらどうだ?」

 とな。

 あまりの発言に、俺は開いた口が塞がらなかった。初めて逢ったエルフが、更に下剋上をしろと言う。クォーツ国は大丈夫なのか? そんな思考すら浮かんでいた。

「俺が、ですか?」

「あぁ、そうだ。俺は見た限り、お前の方が銃士隊隊長に向いていると思う。実はな、アイリス様が成長され、クォーツ国の掟に従い旅に出る事になった時、銃士隊からお供を選ぼうと考えているのだ。その為には、今の銃士隊隊長のままではいけない。そんな気がするのだ」

「成る程」

 俺は相槌を打った。

あとから知った事だが、大抵の王位第一継承権を持つものの旅のお供は銃士隊から選ばれていた。アイリス様はまだ幼かった。なので、今からの地に落ちた銃士隊の信用回復が必要だったのだ。その後、当時の隊長はアイリス様の剣術指南役に回され、俺が銃士隊隊長の座についた。

 ちなみに言ってしまえば、アイリス様の一番最初に殺した相手が、かつての銃士隊隊長だ。

 これが、俺が梟屋に行った、最初で最後の事だ」


「そうだったのか」

 オリヴィエの話に、皆が頷いた。

「あの時の急な人事はそこが絡んでいたのか。結局良かったじゃねぇか。隊長は確かに隊長に向いていると思うしな」

 マウロは腕を組んだ。そう言えば、こいつは前隊長の頃から銃士隊にいたのだったな。

「まぁ、そんなところだ。くだらん話に付き合わせたな」

 葡萄酒を飲み干し、オリヴィエは言った。



お読みいただきありがとうございます。

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