第七百九十六章 オリヴィエ銃士隊副隊長
「今日は立ち寄るところがなかったんだよね? シャルル」
と、嬉しげに俺の腕に己の腕を絡ませ、フランシスは言う。
「立ち寄るところ?」
オリヴィエは少し悩んでから、
「あぁ! 梟屋──セドリック殿からの誘いがなかったのか」
え、なんで梟屋の事を知っているの? シャルル恐い。
「まぁ良い。座れ座れ」
なにかを知っているような銃士隊隊長は、己の隣の、空いた席を軽く叩く。すぐにフランシスが俺を引っ張って、隣に腰かけた。珍しく、俺の方がオリヴィエの隣だ。
「隊長、なんで梟屋の存在を知っているのだ」
俺が聞くと、
「俺も副隊長時代にな、一度呼ばれた事があったのだ。それから推理して、元アイリス女王の従者だったお前を呼んでいるのだろうと思ってな」
「なになに? なんで呼ばれたの?」
俺の隣で、フランシスが興味津々に首を伸ばす。
「興味あるのか?」
オリヴィエは、声をひそめた。今日は中々客が入っている。あまり城での事を言いたくないのだろ──
「乾杯してから、話そうか」
城の事は極秘ではなかったのかよ! 俺はそう言いかけ、杯に注がれる葡萄酒を見ていた。
「良し、皆に行き渡ったな!」
「大丈夫です、隊長」
オリヴィエの言葉に、ニコラが答えた。
「では、クォーツ国のいっそうの繁栄を願って、乾杯!」
「乾杯!」
皆で杯を交わし、葡萄酒を一口含む。一番美味い収穫月の葡萄酒には劣るが、やはりここの葡萄酒は美味い。
「さて。なぜ俺がセドリック殿に梟屋に呼ばれたか、話をしようか」
オリヴィエは口火を切った。
「さかのぼる事……俺が二十代前半だった時だ。当時の銃士隊隊長は粗暴が悪くてな。騒ぎを起こしてはその処理係も兼ねていた俺が城に呼ばれていた。
その日は確か……泥酔状態で出勤した挙げ句、暴れて城の硝子窓を割ったとか、そのような理由だった。当時の王に頭を下げに来た時だ。偶然、幼いアイリス様が、キキョウ妃の腕に抱かれ、共に王座に座っていたのだ。
「オリヴィエ、お前が気にする事はない」
そう王は言った。
「しかしながら、これが私の役割なのです」
俺も言い返した。腹の中では、隊長への怒りが沸き立っていた。そんな顔を読まれたのだろう。
「まぁ、副隊長は全体をまとめるような係だからな。硝子窓はすぐに交換すれば良いことだ。ちょうど寒くも暑くもない。もしかしたら、硝子事態が老朽化していたのかもしれん。そんな機会を与えてくれ、逆に感謝する」
なんて優しい王だと思ったよ。その血はアイリス様にも受け継がれているようで、なによりだ」
「ちょっと待ってくれよ、隊長」
と、マウロが話を止めた。
「なんだ」
話を邪魔され、不機嫌なオリヴィエは問う。
「俺も、そんな役目があったのか?」
「いや、アイリス女王の御代になってから、己の失態は己で解決するようになった。安心しろ。話を続けても良いか?」
「お、おう」
マウロは彼なりに謝罪のように頭を下げた。
「それでな、俺が帰ろうと王の間を出た時だった。急に、背後から呼び止められたのだ。
「お前が、銃士隊副隊長のオリヴィエか?」
「は、はぁ」
俺は頷いた。それが、セドリック殿との初めての会話だった。
「俺はアイリス様附きの従者、セドリックだ。難儀だったな。今の隊長について、詳しく話を聞きたい。勤務が終わったら、俺から銃士隊詰所を訪ねよう」
正直、俺は戸惑った。なぜ姫附きの従者が話を聞きたがっているのか。それは、彼が詰所に俺を向かいに来て、梟屋についた時にわかった」
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