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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第四部 フレデリック王子編
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第七百九十二章 オーギュスト・ラフォン

「シャルル・ドゥイエ男爵だって!?」

 扉の向こう、ラフォンは声を張り上げる。

「そうよ、先生。今回の作品について言いたい事があるんですって」

 しばらく扉の向こうで沈黙が起きる。これは、酷評を恐れての事か。それとも、仮にも皇太子の従者におどろいているのか。主演のアンリが、俺が彼の一番のパトロンだと言う事を知っているのだろうか。不意に、そんな疑問が湧いた。

 やがて、ゆっくりと扉が開かれ、焦げ茶色の猫が楽屋へと入ってきた。その毛並みには白いものが見え、抗えない老いを感じさせる。

「シャルル男爵。この度はわたくしの作品をご覧いただき、ありがとうござい──」

「なにそんなに格式張っているのよ、ラフォン先生。シャルルは先生の作品のファンの一人よ?」

 緊張で震えるラフォンに、マルグリットが助け船を出した。いや、これは助け船か?

「俺のファンの一人……!?」

 ラフォンは再び叫んだ。その度に、扉向こうの大道具が揺れる音がする。

そうして、彼は俺の手を握り、

「ありがとうございます!」

 と、半分泣きながら言った。どれほど緊張していたのだろう。少し不思議。

「さぁ、エタンはサインの時間よ? パンフレットは持っていて?」

 羽ペンを手に、マルグリットは己のファンに向かって言った。エタンはすぐにパンフレットを差し出す。彼女はその表紙にサインすると、化粧を落とした唇で、エタンの鼻にキスをした。

「濡れているのね。かわいいわ」

 腰が砕けたように崩れ落ちるエタンを横目で見つつ、俺はラフォンと向かい合った。

「今回はかなり歴史を変えましたからね。庶民向けに刷られる新聞はまだしも、貴族たちに向けた演劇ジャーナルになんと評価されるか……」

 不安な訳だ。どこか、アンリから聞いて想像していたラフォンと違うな。この老猫から、スリッパやなにかが飛んでくるとは、全く思えない。

「大丈夫です。今回の作品は素晴らしかった。あなたの今まで手掛けてきた作品の中でも、名作に近いでしょう。俺はそう思います。きっと、記者もそれがわかると思いますよ」

「そうですか……」

 まぁ、史実を探すために一日中城にある歴史書全てを読んだなど言えないが。

「恐らく、アイリス女王陛下も喜ばれる事でしょう」

「そう言っていただけるだけでも、演出家冥利につきます」

 と、ラフォンは握り締めたままの手に力を込めた。痛いです。その辺りは、フランシスと似ているな。

「そう言えば、同僚のフランシスですが……」

「彼がどうかしましたか!?」

 醜聞を恐れるようにラフォンは答えた。

「いや、良い甥子さんをお持ちだと思って。フランシスの方からも、あなたの話はたまに聞きますよ?」

 緩やかに手を離し、俺は言った。

「”ボクの事を理解してくれたのはオーギュストおじさんだけ”だと」

「成る程。少しこそばゆいですな」

 ラフォンは頭を掻いた。

「話は終わったのかしら?」

 羽ペンの先でエタンをつついていたマルグリットが顔を上げた。

「ラフォン先生、私になんのご用事?」

 すると、ラフォンは俺の肩を通り越して、マルグリットに向かい、

「少しばかりだめ出しがある。シャルル男爵にはあまり聞かれたくない」

 がらりと、空気が変わった。

「わかりました。俺は、アンリの楽屋に向かいます。彼への、だめ出しは?」

「もう済んであります。シャルル男爵」

 マルグリットに歩み寄り、ラフォンは言った。

「それでは、失礼します。今日はお逢いできて嬉しかったです」

 そう言って、未だに倒れているエタンの襟首を掴み、マルグリットの楽屋を出た。少しばかり揉めている声が聞こえる。演出家のプライドど、大女優としてのプライドがぶつかり合っているのだろう。


 アンリ・ジョフレイの楽屋は、同じように奥──出口近くにあった。俺は扉を叩く。

「アンリ、俺だよ。素晴らしかった」

 すぐに扉が開かれ、笑顔の彼が顔を出した。


お読みいただきありがとうございます。

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