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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第四部 フレデリック王子編
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第七百九十章 カジミール二世2

 墓守の歌を聴きながら、俺は疑問を持った。確か、カジミール二世に始めに嫁いだのはアナベルと言う娘で、子供も設けたはずだ。

 なにより、歴史書に書いてあった”母の死”が書かれていない。

 これは、ラフォンの演出で、あえて歴史をねじ曲げたのか。その時だった。


「私はアナベル。殺された姉に変わって、カジミール二世に嫁ぐ……」

 ウエディングドレスに身を包んだ、エステルが再びあらわれた。

「彼女はアナベル。カジミール二世によって殺された最初の妻の年の離れた妹」

 まるで糸を手繰るような仕草をして、墓守は歌った。アナベルも、それに引かれるかのように、ゆっくりと繰り糸人形のように前へ進む。

「そうして、彼の最後の花嫁」

 墓守は告げる。


「最後の花嫁か……」

 思わず俺は口に出していた。

「ご主人?」

 エタンが振り向く。

「いや、なんでもない。舞台に集中して良い。主人からの命令だ」

 前を向いたまま、俺は言った。

 まさか、最初の妻と書かれているアナベル妃を、最後の花嫁に持ってくるとは。さすが鬼才とされるラフォンの新作だ。客席からも、ざわめきが聞こえてくる。

舞台裏で、にやりと笑う猫の演出家の姿が目に浮かんだ。


「姉はなぜ死んだのか……どうしてだろう、この地はどこか血生臭い」

 アナベルは歌い、光が当たったカジミール二世に寄り添う。そうして、まるで客席を民衆に見立て、結婚式のパレードのように、二人で手を振った。脇から、結婚式の祝福の声が聞こえる。墓守はどこか楽しげに、それを見守っていた。

 やがて、盆は回り、カジミール二世の寝室になる。ガウン姿のカジミール二世と、ゆったりとしたシルエットのアナベルが、背景の同じ扉から出てきた。そうして、二人は同じ寝台に入る。

 カジミール二世は既に六十代後半となっていて、頭の毛は半分ほど抜け、代わりに口の回りに髭を蓄えている。しかしその瞳は若い頃と同じくぎらぎらと光り、底知れない狂気を感じさせた。

「おぉ、お前が最後の妻になるだろう」

 彼は年の離れたアナベルを抱き締める。

「どうか、今までの妻のようにならんようにな」

「それは、あなたのお人形となれと言う事でしょうか?」

 アナベルは歌う。それはどこか透き通った水溜まりに石を投げ込んだような、不思議な香りがした。カジミール二世も、そのような顔をしてアナベルを観ているのだろう。

「妻よ、お前も拷問を受けたいのか?」

「いいえ、血にまみれた王様。私は、姉の死を弔うためにこの地にやって来ました。カジミール二世様。どうか、姉を殺した事を悔いてはいないのですか?」

「あの女は生意気だった」

 カジミール二世は歌った。

「私の気を狂わせたのはあの女だ! お前もあの女のように、腱を切られ、何度も短剣で刺されたいのか!」

「……そうでしたのね」

 アナベルは優しく彼を抱き締めた。

「あなたは、ただ、こうして抱き締められたかっただけ……まるで小さな子供のよう」

「あぁ……そうなのだろうか」

 娘の腕に抱かれ、老いた王は呟く。

「そうだったのかも知れない。もう、逆らう臣下すら火刑台に送った私に、もう味方はいない……」

「私がおりますわ、あなた」

 アナベルは優しい口調で話す。しかし、その手にはナイフが握られ──

「さようなら。血にまみれた王」

 カジミール二世の背中を刺した。

 墓守の笑い声が、カジミール二世の悲鳴を聞こえないほどに響く。ばさりとした音が響き、奥の幕が降りた。

「これでカジミール二世の御代は終わり──そうこれからは」

 と、墓守は高笑いをして、まとった布を取り去った。そこには、着飾った女王の姿があった。

「私こそ、本当の王者。エリザベート! 愚民たちよ、ひれ伏せ、這いつくばれ!」

 彼女の声と共に、舞台は暗転し、幕を閉じた。


お読みいただきありがとうございます。

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