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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第一部 世界大紀行編
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第七十九章 連弾

 王宮を護る門番に話は通っていたようで、昨日のように門前払いをされる事はなかった。馬車を門の中に止めさせてもらい、王宮への扉が開かれる。

 途端、ピアノの音色が聞こえてきた。教会のようなステンドグラスが大理石の床に綺麗な影を落としている。赤い絨毯が王の間へと続いている。その上に、翼のように一つ長い階段が伸びていた。

 その階段から従者らしき人間が降りて来、

「これはこれはクォーツ国のアイリス様。ボニファーツ様よりお話は伺っております。こちらへどうぞ」と、アイリスに声をかけた。そうして、「お供の皆さんもご一緒に」

「ありがたい」

 従者の言葉に、オリヴィエは礼を言って、皆で彼に続き、階段を上る。結構長い階段だ。疲れて来た。

「どうしたんだ? 疲れた?」

 痛いところを突かないでくださいフランシスさん。

「す、少し?」

 答えた息は荒かった。

 やっと階段を上り終え、ピアノのなる部屋へと近付く。やはりボニファーツが弾いているのだろうか。やがて、従者は重い扉を開き、

「ボニファーツ伯爵様、アイリス様がいらっしゃいました」

 と、言った。

「あぁ、ありがとう。ルヴィエ」

 ピアノの音が止まり、昨日聞いたばかりの声がする。

「それでは私はここで……」

 従者は言って、扉を閉じた。

「おはようございます、ボニファーツ様」

 と、アイリスは言った。

「あぁ、おはよう」

 ボニファーツは、答える。

「素敵なピアノ演奏でしたわ。私、聞き惚れてしまって……」

「ありがとう。照れるな」

 と、彼は髪を掻いた。

 日の光りの元で見れば、更に好男子に見える。これはアイリスが俺を振っても仕方がない。そのまま、俺への気持ちを忘れてくれ。国へ帰り、もし俺が従者となった後も、ただの従者として、単なる主従関係を続けて欲しい。俺も、どこかで良い娘を見つけよう。

 それが、運命と言うやつだ。

「あの、私はヴァイオリンを弾きます」

「ヴァイオリン? 良いね。君が良ければ連弾してみるかい?」

「良いんですか? 喜んで弾かせていただきますわ」

 アイリスの声は弾んでいた。

「ちょうど良い観客さんたちもいるのだ。一曲、お願いできますか? 姫様」

 まるでワルツの誘いのように、ボニファーツは言葉を口にする。そうして、ピアノの奥に置かれていたヴァイオリンを手に取った。

「いつもは悪友が弾いているやつだけど、それで良いかな」

 ヴァイオリンをアイリスへと手渡し、ボニファーツは言う。手にしたアイリスは、ヴァイオリンの銘柄を見るなり、おどろきの声を上げた。

「こんな高級品……宜しいのですか?」

「大丈夫さ。そのような事を気にするやつじゃあない」

 ボニファーツは言った。

「ありがとうございます。では、何を弾きましょうか」

 アイリスが尋ねると、ボニファーツはうーんと唸った後、

「スーレイロルの交響曲第二章なんかどうだろう」

 と、言った。

「大好きな曲ですわ」

 アイリスも答え、ヴァイオリンを顎に当てた。

 まずはピアノのソロから始まり、それに絡むように、ヴァイオリンの音色が響き合う。クォーツ国では年明けに演奏される事が多い曲だ。俺も、エタンに連れられて行った、庶民に向けた新年コンサートで聞いたくらいだった。

「なんだか年が開けた気分だね」

 と、フランシスは呟いた。それを言ってはお終いだ。

「いつ聞いても良い曲だなぁ」

 音楽に疎いマウロが言うのだから、本当に有名な曲なのだろう。

 そんな中で、オリヴィエがどこか険しい表情でボニファーツとアイリスを見つめていた。

「なにかあるのか? 隊長」

 と、俺が聞くと、

「──妻が好きだった曲だ」

 そんな言葉を吐き出した。やっぱり妻がいたんだ。

「奥様はどうしたんですか?」

 好奇心は止まらない。単なる興味本位で、質問を続けてみた。

「言っただろう。死んだんだ」

 前を見たまま、オリヴィエは言った。そう言えば、オアシスでそんな話をしていた気がする。

「すまない」

 俺が謝ると、

「良いんだよ、気にせんでも」

 と、彼は言った。

 そう言えば、オリヴィエはどこの出身なのだろう。この大陸の事は確かなのだが……。

「なぁ、隊長」

 思わず気になって、再び話しかけてみた。

「なんだ」

「隊長は、どこの出身なんだ?」

 すると、オリヴィエは怪訝な顔を見せ、

「俺は領主だったんだ。今は部下に留守を預けてクォーツ国で銃士隊の隊長をしているがな」

 そうだったのか。だから、余り過去を語らなかったのか。

「領地へ戻る気はないのか?」

「さあな」

 再度した質問は、軽く流されてしまった。

 やがて小さなコンサートは終わりを告げる。

「うん、良いね。僕たち結構合うと思うなぁ」

 ピアノから指を下ろし、ボニファーツは口角を引き上げた。

「そうかしら?」

 アイリスが答える。その声は、やはり恋をする乙女のようだった。


お読みいただきありがとうございます。

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