第七百八十五章 軟禁を終えて
「シャルルー、良かったよう!」
扉を開いて、まず目に入ったのは今にも泣き出しそうな同僚の姿だった。どうやら、フランシスも何事もなかったらしい。
「本当に良かったです、先輩」
と、その後ろにいたセルジュが言った。
「フレデリック様は」
俺は己の事など気にせずに、まずは主人の身を案じた。すると、
「お元気です。幸い、他の王族の方にも移っていないようで……」
セルジュは言葉を継いだ。
「良かった……それがなによりだ」
俺はため息を吐く。五日前の夜中に、アイリスが訪れた事を、フレデリックは知っているだろうか? ふと、そんな疑問が湧いた。
「兎も角、フレデリック様にお逢いしたい」
「僕もいるよー」
と、もふもふの中から顔を出し、母と同じ黒髪の皇太子は言った。
「母上も、父上も、兄上も、エルもみんな元気だよ! あと、ローザもね」
これが六日ほど前に咳と熱に苦しんでいた若者とは思えない。
「ブランシュ先生は、フランシスがとっさに渡したレモン水の成分が特効薬の効きを促進させたのだろうって、帰り際に言っていたよ」
フレデリックは言った。すると、フランシスが、
「あとはボクが聞いた話によると、レモン水に薬を溶かして飲んだ方が後遺症も残りにくいし、病状も瞬く間に良くなるんだってさ」
「残りにくい、と言う事は、レモン水でも後遺症が出たモノがいるのか?」
俺が聞くと、
「どうだろう。その辺りは聞いてないな」
などと言ってきた。
「物事を確り把握してから言う事。わかったか?」
「はーい」
俺の叱咤に、聞いているのかいないのか、適当な返事で、フランシスは言う。
「まぁ、取り敢えず道を開けよう。シャルルが出られないよ」
フレデリックが言った。
「あ、ごめん」
「すみません!」
フランシスとセルジュは、慌てて道を開ける。俺は五日ぶりの廊下に出ると、大きく背伸びをした。
「いやー、ひやひやした五日間でしたよ」
と、苦笑する。
「だろうねぇ。ボクも自宅謹慎って言ったらさ、ミレイユに、”今度はなにをなさったのですか?”なんて聞かれてしまって……」
確かにそうだ。フランシスは続ける。
「謹慎、って言葉がいけなかったのかな? 療養にすれば良かったね、セルジュ」
「え、あ、はい!」
突然に話を振られ、セルジュは慌てながら、
「家では、自宅療養と言う扱いで……自分も同じように、シャルル先輩と同じように五日間、部屋の外に出して貰えませんでした……」
と、言った。いや、元から自宅療養だから。
「でも、もう大丈夫です! 潜伏期間が過ぎましたから!」
「そうだね! 僕もみんなと再会できて嬉しいよ」
まるで、己の事のように、フレデリックは従者たちの吉報を喜ぶ。これは、良い事か、悪い事か。それはいかにして決まるのだろうか。フレデリックは、まだ政治などには関わっていない。ただ、地場産業の中心にはいる。もしかしたら、アイリスよりも重要人物なのかもしれない。
「お仕事は大丈夫でしたか?」
部屋から出ると、俺は真っ先にそう言った。
「従者の代行がオリヴィエ隊長とマウロだと聞いたもので……彼らは役立ちましたでしょうか?」
「そうだね、この時期は余り仕事がないからね。クォーツ国から、新しく異国の森に移り棲む事になったエルフの紹介状を書いたくらいだ」
成る程。そのくらいならば、あの二人で大丈夫だっただろう。
それ以上を、望んではいけない。
「兎に角、シャルルのいた部屋を万が一の事を考えて掃除するみたいだから、僕たちは部屋に戻ろうか」
「そうですね」
俺は頷き、フレデリックの部屋へ向かった。
お読みいただきありがとうございます。
評価(下にある☆を★で埋める)、ブックマークの他、レビュー、感想等よろしければ書いてくださると幸いです。日々の創作の糧になります!





