第七百六十八章 梯子酒
「話は終いだ。銃士隊贔屓の酒場に行って良いぞ」
セドリックは言った。
「夕食もそっちでとるのだろう?」
「ま、まぁな」
俺は苦笑した。
「ここの料理も美味しいわよぉ? 知ってるかも知れないけれど」
ソフィが囁いてくる。確かに、ここの料理は幾度か食べた事があるが、美味いものが多い。しかし、約束をしてしまったので、銃士隊贔屓の酒場で摂ることになるだろう。
「銃士隊の、彼らにも忠告を?」
俺は問う。
「そうだな。スラム街には入らないようにと伝えてくれ」
「わかった」
俺が頷くと、
「信頼しているぞ? アイリス様の最愛の猫」
このエルフ酔っているな。さもなくば、彼の口からこんな言葉が出ると思えない。
「ありがとう、セドリック。中々照れるぞ」
俺は立ち上がり、
「では、またな」
そう言って、梟屋をあとにした。
外は暖かく、この間のように吹雪いている事はない。頭を掻くと、毛が散って地面に落ちる。毛の生え変わりの季節か。早いものだ。
「んー」
一度身体を伸ばし、俺は銃士隊贔屓の酒場に足を向けた。
点消方のつけた街灯が、ゆらゆらと俺の影を揺らす。走っているような感覚だが、足はただ軽い早足なだけだ。
やがて、酒場の明かりが近づいてくる。俺は、閉められたその扉を開いた。
「お、いらっしゃい! シャルルさん」
店主の元気な声が聞こえてくる。その声に、奥の席を占領する猫たちが振り向いた。
「シャルル!?」
フランシスがおどろいたように声を上げる。
「本当に来てくれたんだね……ボクは嬉しいよ」
「泣き真似をするな。ばれているぞ」
俺は指摘した。そうして、フランシスが無理矢理開けた席に座る。案の定彼は腕を絡めてくるが、それも慣れてしまった。痛いけど。
「まぁ、飲め飲め」
と、一つ隣のオリヴィエが、杯に容赦なく葡萄酒を注ぐ。それを、手を伸ばして俺の前に置いた。
「ボク経由でも良かったのに、隊長ー」
フランシスがぼやく。
「別にどちらでも良いだろう」
乾杯するのだろうと杯を手に、俺は言った。
「取り敢えず、乾杯しよう」
オリヴィエが音頭を取り始める。そうして、
「クォーツ国の、更なる発展を願って、乾杯!」
「乾杯!」
客が他にいない所為か、いつもよりも声が大きく感じられる。俺は葡萄酒を一口飲む。あれ? いつもと違うぞ?
「なんだか、いつもよりも美味く感じるが……?」
俺が首を傾げると、
「わかったか? 今日はなんの日だ?」
と、オリヴィエが誇らしげに言った。なんの日? わかったぞ、
「あ、給料日か!」
俺は言った。だからいつもよりも高い葡萄酒が宴会の席に乗っていると言う訳か。
「乾杯は終わりましたか?」
料理を片手に、店主がやってくる。その手には、俺を虜にした豚の角煮が乗っている。
「わー、角煮だ!」
俺が言う前に、フランシスが同じような事を言った。
「看板メニューの一つですよ。フレデリック様には感謝しています」
店主は白い歯を見せる。そう言えば、豚の角煮はフレデリックが持ち帰ったローファ国の名物だったな。
正直なところ、角煮を出す店は、この店くらいしか訪れていないので、比較ができない。他の店の角煮も、さぞや美味しい事だろう。
「どんどん料理を持ってきますよ」
店主が口角を上げる。その場が一瞬沸き立った。
やがて、運ばれてきた料理の皿が空になる。
「あー、満腹だ。ここの料理はいつも美味しいな」
マウロが満足げに言葉を継いだ。
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