第七百四十八章 エルからの祝福
扉が叩かれたのは、そんな会話を交わしていた時だった。
「誰だろう?」
フレデリックは首を傾げる。扉の向こうからは、声ひとつ聞こえない。
「俺が出ましょう」
と、俺はレイピアの柄を持ち、答えた。こんな昼間に暗殺者など来ないと思うが、もしもの為だ。ここは一番強いだろう俺が出よう。
「誰だ?」
そう言って、扉を開く。果たして扉の向こうには──
「シャルルか」
流れるような黄金の髪のルドルフ公爵と、その妻、エルの姿があった。
「兄上! エル!」
フレデリックは喜んで、椅子から立ち上がった。
「よう、弟よ」
ルドルフは片手を上げる。
「廊下を通りかかったら、懐かしい旋律が聞こえてきてな。アレットが来ている事を知って、エルと共に訪れたと言う訳だ」
「お久しゅうございます、ルドルフ様」
アレットは膝を折る。
「エルも、しばらく逢っていなかったわね」
「えぇ」
エルが笑顔を見せ、
「ローザの子育てで忙しかったの。今は落ち着いたから、こうして外に出られるようになったのよ」
と、答えた。
「そうなのね。私の方も落ち着いたら、ローザ様に逢いたいわ」
「是非逢ってあげて! 将来の家族ですもの。きっと喜ぶわ」
多分、泣くと思います。そう言いかけた口を閉ざす。さすがにこの言葉はきついだろう。
「それで、アレット」
ルドルフはアレットへと、視線を向けた。
「今日はどんな用事で城へ?」
その問いに、アレットは待ってましたとばかりにすまして、言った。
「ウエディングドレスの寸法ですわ、公爵様」
「ウエディングドレス?」
ルドルフはおうむ返しに尋ねる。
「秋にでも、結婚式を上げる予定なんだよ、兄上。これは母上の決定だ」
「素晴らしい事だわ」
そう言ったのはエルだった。
「また家族が増えるのね」
「祝福をありがとう、エル。同じ王家に嫁いだ身として共にがんばりましょうね」
エルの手を取り、アレットは言った。
「私も、早く家族になりたいわ」
アレットが呟く。
「なりましょう? 私とルドルフは結婚してからお互いを知っていったけれど、あなたとフレデリック様はずっとお付き合いしているのでしょう?」
「そうね、5才の頃からかしら?」
ちらりとフレデリックを見て、アレットは言った。恐らく、浮気をしていないかの確認だろう。
「フレデリックは、わからないけれどね」
「僕は君一筋だよ。そんな、疑う事を言わないでくれ」
フレデリックは慌てたように手を振った。
「弟は真面目だぞ、アレット。覚悟しておけよ」
なんの覚悟だろう。しかし、一つ気がかりな事がある。
アレットは、民主主義の思考はやめたのだろうか。
王家に嫁ぐにあたり、そんな厄介な問題が顔を出す。もっとも、アイリスの命令は絶対だ。アイリス自身も、それを知っての事なのだろう。
「あれ? そう言えば……」
辺りを見回し、フランシスが首を傾げた。
「従者たちはどうしたの? ルドルフ様」
「あぁ、置いてきた」
きっぱりとルドルフは答えた。
「王宮内だしな。それにこんな昼間だ。刺客は来ないだろう」
彼は続ける。
「もっとも、あの中で戦えるのがアランとドゥアイトくらいだからな」
え、ドゥアイトって戦えたの? 思わず疑問が頭を過った。それを察してか、フレデリックが兄に問いかけた。
「ドゥアイトは、どのような戦い方を?」
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