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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第四部 フレデリック王子編
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第七百四十七章 アーペリのソナタ

 やがてフレデリックの部屋の扉が叩かれ、寸法が無事に成功した事がわかった。

「フレデリック、私よ? 開けてちょうだい?」

 執務机にこうべを垂れていたフレデリックが、吊り人形のように起き上がった。

「アレット!?」

 セルジュが扉を開けるなり、彼はうす緑色のドレスをまとった許嫁へ抱きつき、引き倒した。

「フレデリック様、大胆……」

 俺の隣にいたフランシスがひとりごちた。

「逢いたかったよ」

「そんな、今生の別れではなくてよ?」

 フレデリックの肩越しに、アレットは言う。

「それより、苦しいわ。あなたにもコルセットの苦しみを味あわせてあげたい」

「あ、あぁ。ごめん」

 フレデリックはアレットの上から身体を退かした。

「大丈夫かい?」

「大丈夫。ちょっとドレスが汚れたかしら?」

 ドレスに着いた塵をはたきながら、アレットは言う。

「フレデリック様、アイリス様にはあんなに紳士的なのに、アレット様の前だとなんだか子供みたい……普通、逆じゃない?」

 などとフランシスが耳打ちしてくる。

「男は皆、愛している者の前では子供になるのさ」

 と、俺は答えた。我ながら名言だ。

「成る程」

 フランシスはにっこりと笑って、腕を広げてきた。おいおい、なにをするつもりだ。

「甘えておいで? ボクの運命の──」

「ナンセンスだ」

 彼が全てを言い終わる前に、俺は言った。

「なんだよ、冷たいなぁ」

 俺たち二人が話している間に、フレデリックとアレットは合奏する事にしたらしい。グランドピアノの傍らに譜面台を起き、アレットはそれを見る形で立っている。フレデリックは、既に椅子に座っていた。

「え、なにを歌うの?」

 乗り遅れた猫は、困惑ぎみに後輩に尋ねた。

「アーペリのソナタ第三楽章ですよ」

 すらすらとセルジュの口から出る見知らぬ言葉に、俺は目を見開いていた。それを見たセルジュは、

「古い曲です。国立音楽院に入る試験に出てくるほどの曲ですよ」

 覚えておいて損はありません、と、言った。そう言えば、いつもセドリックに貴族のたしなみなどと言われていたな。

 必死になって新年コンサートのセットリストと曲を照らしあわせていた頃が懐かしい。

「この曲には、ソナタには珍しく歌詞がついているのです。だから、アレット様も選ばれたのかと」

 伴奏が始まる直前に、セルジュは頷いた。成る程。フレデリックはアレットの歌声が好きだと言っていた。

「悲しい噂は本当ですか? あの人がいなくなってしまうなんて、私の前から消えてしまうなんて、本当ですか? 答えてください、お祖父様。あの人がなにをしたと言うのです、私が彼を愛してしまったから? 貴族に恋は不必要だと言いたいのですか?」

 中々ヘビーな歌詞だな。アレットはなおも続ける。

「私の愛するお祖父様、どうかお願い。私と彼の結婚を許してください。既に、私は一人の身体ではないのだから。それが無理だとおっしゃるならば、私は川に身を投げます」

「久しぶりに聞くけど、やっぱりすごい歌詞だよね」

 呆然としたようにフランシスは呟く。

「俺は初めて聞いたぞ?」

 と、俺が答えると、

「そうだよねぇ。ボクも家庭教師の先生に習うまで知らなかったもの。最初歌詞を見た時おどろいたよ」

 そりゃあ、おどろきますわな。その気持ちはわからなくもない。

 演奏が終わると、俺たちはそれぞれ拍手した。

「歌声、素晴らしかったですよ、アレット様。フレデリック様も、またピアノの腕を上げられたのでは?」

「そ、そんな事はないよ」

 フレデリックは、照れ臭そうに頭を掻く。

「ありがとう、シャルル」

 アレットの方は、嬉しげに頬笑んだ。


お読みいただきありがとうございます。

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