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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第一部 世界大紀行編
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第七十三章 アイリスの想い

 草原の中を、馬車は進んで行く。

「風が心地いいわ」

 耳にかかるほどに伸びた髪を風に遊ばせながら、アイリスは言った。クォーツ国を出る時にはベリーショートだった髪も、良く伸びたものだ。

 彼方には、羊を放牧している様子が窺える。近くに牧場でもあるのだろう。背後の馬車の中にいるマウロに尋ねると、変わりにいびきが返された。先ほど結構葡萄酒を飲んでいたからな。

 まさかと思い、

「姫様、少し前を見ていていただけますか?」

 と、手綱をアイリスに預け背後を見れば、腹を出し爆睡している猫さんたちがいた。葡萄酒を麦酒感覚で飲んでいたので、しょうがないのかもしれない。でも眠るのは反則だ。

「大丈夫?」

 アイリスの不安げな声が聞こえる。俺はすぐに前へ向き直り、預けていた手綱を手に取った。

「皆リラックスしておいでです」

 と、俺は答える。

ランザース爺の店で葡萄酒を飲まなくて良かった。心からそう思える瞬間だった。

「ねぇシャルル」

「どうかなさいましたか?」

 アイリスの言葉に、耳だけそちらに向ける。

「旅を終えたくはないわ」

 それは俺もですよ、そう言いかけた唇を閉ざす。

「また港から船に乗りますか?」

 俺は言った。

「いいえ、違うわ。あのね、ポワシャオはコテツを愛していたそうなの」

「え?」

 唐突な話題に、俺は思わずアイリスへと振り向いた。

「でも、ヒトと獣人じゃ、想いは届かないって言っていたわ」

「それは……」

「わからない?」アイリスはそう言って、俺の頭を掴み引き寄せると、鼻に接吻した。「シャルル、私はあなたの事が好きよ。このままどこかへ連れ去って」

 彼女の行為と言葉に、一瞬手綱を落としそうになる。しかし、それはあってはならない事なのだ。

「一時の感情に心まで動かされてはなりません」

 アイリスを引き離し、俺は言った。

 俺だって、アイリスを連れ去りここから逃げ出したい。しかし、どんなに魅力的な誘いだとしても、心は冷ややかであれと、王都に出てくる前に父親からそう教わった。

「姫様──あなたはクォーツ国の第一子であり、唯一の継承者です。そのような方と、俺のような猫とは結ばれる事はできません」なんて残酷な事を俺は言っているのだろう。「ポワシャオ皇女も、ハダ王子に嫁がれる身です。あなたにも婚約者がいらっしゃる」

「そう。顔も肖像画でしか知らない婚約者がいるわ……だから、」

「──俺だってあなたを愛しています! しかし、あなたを幸せにできる、その勇気はありません」

 例え臆病者と罵られても良い。しかし、結婚とは互いに幸せになる事だ。アイリスを幸せにする、その自信がない。

「あなたも私を愛しているの?」

 と、アイリスは言った。そうだ、愛している。始めは絵美に似ていると言う事だけだった。しかし今は、アイリスと言う一人の娘を愛し始めているのだ。

「そうです。初めて剣術の模擬戦をした時からずっと脳裏にあなたを浮かべていました」

 すると彼女は、

「ありがとう。それだけを胸に生きていくわ」と、言った。「あ、でも従者になると言う話は考えておいてね」

 わかりました考えておきます。


 メラルダ国に着く頃には、既に辺りは夕焼け色に包まれていた。俺とアイリスは、つまるところ複雑な御者時間を過ごした訳だ。

石造りの門をくぐり抜け、町で宿屋を見つけると、アイリスは羽が生えたように、軽やかに御者席から降りてしまった。

「私、交渉してくるわね」

 などと言い出している。

「え、あ、ちょっと待ってください」

 俺が慌ててアイリスを止めていると、

「おい、ここはどこだ」

 と、オリヴィエが眠たそうに垂れ布から顔を出した。

「姫様のおば様がいらっしゃる国だそうだ」

 その国の宿屋の前だ、と、俺は言葉を継いだ。

「なんだと!?」

 オリヴィエは急いで馬車から降り、アイリスの前に立った。

「宿の交渉は私たちが致します。姫様はシャルルたちと待っていてください」

「なぜ? ルチェ諸島では上手くいったのよ?」

 アイリスの言葉に、

「正直に申し上げますと、値切りなどの問題があるので」

 隊長値切ってたんですか?! そっちの方がおどろきだ。

「わかったわ」

 と、アイリスは素直に踵を返し、俺へと向かって来た。

 やがてオリヴィエが宿屋より出てきて、宿泊の交渉が上手くいった事を伝えた。馬車も置ける馬屋もある宿は、この国ではここだけだったらしい。

 馬車を馬屋に置き、宿屋へと入る。案内されたのは二階の角部屋だった。

「太陽が沢山入りますよ」

 まるで、物件を案内する職員のような言い回しをする店主だな。

「ありがたい」

 皆の代わりにオリヴィエが答え、扉を閉めるのを見ていた。

「夕食はどうするのー?」

 と、フランシスが言う。

「一応頼んである。クリームシチューだそうだ」

 オリヴィエが答えた。


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