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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第四部 フレデリック王子編
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第七百二十二章 終幕

「出ていくですって!?」

 マーリャの一声から、第二幕は始まった。クロード邸の、主人の部屋の前のようだ。長い廊下のようなセットに、扉が幾つか並んでいる。

「そんな勝手が許されると思って?」

「もう、堪えられません!」

 エリーが叫ぶように歌う。

「今から旦那様にお暇のお願いを申し出るところです。止めないでください、マーリャ様」

「あなたは私の本心を理解してはいないようね、エリー」

 泣く子をなだめるように、マーリャは口ずさむ。

「あなたの、本心?」

 エリーが顔を上げる。

「あなたには素質があるわ。でもまだ、それがあらわれていないだけ……所謂、宝石の原石のようなものよ」

「それは、本心からでしょうか……?」

 エリーの声がわずかに上ずる。

「はじめから見込みのない娘には厳しく接したりはしない質なの。あなたができると思うから、私は言うのよ?」

「本当に?」

「信じなさい、いい加減に」

 マーリャは己の懐からハンカチを取り出し、エリーの顔に当てる。

「明日から胸にさらしではなく下着をつけての勤務を許可します。仕着せも、一枚で良いわ。もし旦那様に触られたら、私に言いなさい」

「はい、マーリャ様……」

 背中を叩かれながら、エリーは涙を拭く。

「立派なメイドになることね。よろしくて? エリー」

「はい、わかりました!」

「ここは、かしこまりました、よ?」

 マーリャの冗談混じりの言葉に、二人は笑いあった。

 やがて、時は過ぎ行き、ある日マーリャの元に一つの手紙が届く。彼女はその手紙を見るなり、クロードの部屋の扉を叩いた。

「旦那様、よろしいでしょうか?」

「おぉ、マーリャか。入ってもいいぞ」

「失礼します」

 盆が回り、クロードの書斎があらわれる。年を重ねたクロードは、髭が顎にまで達していた。

「どうしたのだ、マーリャ?」

 クロードは問う。

「突然ですが、お暇をいただきとうございます」

「え!?」

 マーリャの言葉に、主人は立ち上がった。

「いったいなにがあった。聞かせておくれ」

 マーリャはいったん間を置くと、

「──はい。父が、倒れました」

 と、歌った。

「母からの手紙です。お読みください」

 と、先ほどの手紙を手渡す。舞台が薄暗くなる。マーリャとクロードは動きを止め、老いた声が、聞こえてきた。

「マーリャへ。いつもお手紙ありがとう。突然の事でごめんなさい。じつは、お父様が倒れたの。仕事中に、しかも木から落ちて。背骨を折って、もう一生歩けないとお医者様は言っていたわ。幸い、持ち家で済んだけれど、日々の食料にはお金がかかる……それに、私も結構な年になってしまった。お願い、故郷に帰ってきて頂戴」

「身勝手な両親だな」

 舞台が明るくなり、クロードが言い放った。

「お前が書いた手紙には、返事の一つ寄越さないで、今更母親面か」

「そのような事をおっしゃらないでください。私の両親です」

「あぁ、すまなかった」

 クロードは頬杖をつく。

「それで、実家に帰るのか?」

「できれば、お暇をいただければと思います」

「わかった。長年メイドを努めてくれた礼だ。金も包ませよう。故郷に帰る事を許可する」

「ありがとうございます」

 と、マーリャはこうべを深く垂れた。

 再び盆が回り、廊下に出る。盗み聞きでもしていたのだろうエリーが泣きそうな声で、歌った。

「マーリャ様、もう帰ってこられないのですか」

「そうね、エリー。これからよろしく頼むわね」

「それは、どういう……」

「あなたはメイドの品格がどういう事か理解したと言う事よ。よろしくね」

 そう言って、マーリャは捌けていった。

 暗転から、舞台は明るくなる。演者達が出てきて深く礼をする。オペラが、終わったのだ。


お読みいただきありがとうございます。

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