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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第四部 フレデリック王子編
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第七百二十章 メイドの品格

 桟敷席へと繋がる階段のある二階に上がり、早速そこを目指す。途中、幾人かの夫人に、季節外れの新年の挨拶をされたが、それを受け流し、俺たちは通い慣れた道を行った。

 黒い垂れ幕のかかる桟敷席まで辿り着くと、劇場スタッフがその前に立っている。新しい支配人になってから、人事が変わったのだろうか。

「ムシュー、チケットを」

 と、劇場スタッフは言う。

「新たな支配人は貴族まで疑うようになったのか」

 俺はぼやきながら、

「エタン、チケットを貸せ」

「あ、はい!」

 そう言って、従者からチケットを受け取り、スタッフへと見せた。

「日付は今日、マチネ……」

 慣れない作業に、彼は戸惑いながらも、しっかりと確認している。

 そうして顔を上げ、

「アンリ・ジョフレイの関係者様ですね。疑って申し訳ありません。今回は幕が上がる前より人の目を引いていた公演、それに、新しくなった支配人の初めての仕事……なので、偽チケット防止にお席を確認させていただきました。それでは、公演をお楽しみください」

 そのような事を言って、スタッフは道を開けた。

 階段を上がり、桟敷席に腰を下ろす。相も変わらず、ふかふかの椅子だ。

 エタンは席につくなり、床に届かない足をばたつかせ、パンフレットをめくり始める。いつもの光景だ。

猫は老けても顔が余り変わらない。四十過ぎだと言うのに、そのはしゃいだ様子は、少年のようだ。

「ご主人は、どの程度このオペラをご存知で?」

 パンフレットをめくりながら、エタンは問いかける。

「何曲かは聞いた事がある。マルグリット・フランソワーズが度々皇太子殿下を訪ねてきたからな」

「えぇ? なんとうらやましい」

 オペラ好きの猫は、声を上げる。

「大丈夫だ、関心なところは歌われていない。例えば最後に歌われる歌などはな」

「それを知ってしまったら大変ですよ」

 エタンは俺を見た。水晶のように、黄色い瞳が輝いていた。

「な、なんだ? どうした?」

 今まで余り彼に見つめられる事などなかった。いや、もしかしたら彼は俺の事を見ていたのかもしれない。

 長年付き添った従者の眼差しに気がつかないなど、全く、無能な主人だ。

「いや、いつもパンフレットを覗いて来るのに、今日はその気分ではないのかと思いまして」

 と、従者は言った。あ、忘れていた。

「今からでも──」

 そう言いかけた時、開演を告げる鐘が鳴った。劇場スタッフが、灯されたロウソクを消して行く。

やがて、劇場は真っ暗な闇に落ちた。

 幕が上がり、ぱっと舞台に光が差す。上手から、大きな荷物を持ち、少しデコルテを見せるように開いた、スカート姿のエステル──エリーが登場する。

「なにもかも初めてだわ」

 彼女は歌い出す。

「初めての町、初めての仕事……どうしよう、震えて来たわ」

 舞台セットが動き、ロダン邸らしき建物があらわれる。エリーは設けられた数段の階段を上がり、獅子のドアノッカーを叩いた。

「はーい」

 聞いた事のない声が上がる。そうして、扉を開いた。そこには、見知らぬ顔がある。顔に付いたシワからして、脇役を長年続けてきた者だろう。あとでアンリに詳しい事を聞いてみるか。

「あの、わたくしエリーと申します」

「あぁ、聞いていたわ。どうぞ入って。ハウスキーパーのマーリャ様がお待ちよ?」

「はい、わかりました」

 エリーはこうべを垂れた。彼女が屋敷へ入って行くにつれ、盆が回り、今度は室内のセットがあらわれる。それと共に、仕着せを来たマルグリット──マーリャがあらわれた。

「ようこそ、私はマーリャ」

 マーリャが歌い出したとたん、稲妻が身体を突き抜けた。今までのマルグリットとは、違う。


お読みいただきありがとうございます。

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