第七百六章 すぐ身近にいる猫
カフェに以前訪れた際には、外の席が空いていたのでそこに座ったが、今回は醜聞になりそうなメンバーだ。店内の席が取れると良いな。
大寒波を乗り越えた空が、清み渡るように青い。雲も見つけられず、太陽の光が降り注いでいる。
「暑いね」
まとったマントを片腕に持ち、フランシスは言った。確かに猫には少し暑く感じるかも知れない。
「え? 結構寒いよ?」
と、アンリは首を傾げる。
「ボクたちには体毛と言うものがあってね」
俺が口を開く前に、フランシスは説明した。
「あぁ、そうか。どうも人の感覚でものを見てしまう癖がついてしまってね。申し訳ない、ええと?」
「多分、叔父さんがキミたちが一番良く逢っている猫だと思うよ」
アンリの言葉に軽く腹を立てたのか、意地悪くフランシスは言葉を紡ぐ。
「叔父さん……?」
マルグリットも参加して問い掛けは続く。エステルは置いてけぼりを食らっている。
「あの、」
と、彼女は声をかけてきた。
「なんだ?」
俺が聞くと、
「誰の姪子さんなのですか?」
え、姪?
「フレデリック様の従者にメスはいないが……」
思わず俺は言っていた。
「だって、三毛猫さんはメスしか生まれないのでしょう?」
純粋な瞳でエステルは問うてくる。確かに、世間の常識からすればそうだ。
「あれは、繁殖機能のないオスなのだ」
なにを隠しても仕方がない。はっきりと俺は告白していた。
「えぇ!?」
エステルはおどろいた声を上げた。
「そこ、うるさい!」
すかさず思考中のマルグリットの声が飛ぶ。
「だから、銃士隊に入れたのですね……」
「シャルル」
今度はフランシスの声が聞こえる。
「面倒な事は教えなくて良いから」
えー、教えちゃったよ? まぁ、良いか。
「で、ボクの問いはわかったかい?」
再びマルグリットとアンリに振り返り、フランシスは言う。エステルも、答えを先に聞くのは止めたらしい。
「猫って、顔が似ているのだもの。わからないわ。降参」
と、マルグリットは手を振った。
「僕はまだ諦めないよ? 僕たちが一番良く逢っていると言う事は、オペラ業界の猫だよね……もしかして……」
「あ!」
降参したはずのマルグリットが再び食いついてきた。
「オーギュスト・ラフォン!?」
と、二人は声を揃えて言った。あまりの響く声に、道行く人が振り返るほどだ。オペラ歌手の肺活量はすごい。
「良くわかったね。そう。ボクはフランシス・ド・ラフォン。オーギュスト叔父さんはペンネームで貴族の位を消しているみたいだけどね」
オーギュストの甥は、知ってやったりの顔をする。
「まぁ、オペラ業界では成功した猫の一人だ。でも、とっさに出てこなかったよ」
アンリは頭を掻いた。
「あの時、エマニュエルと共に音楽院に来ていたと言うのに」
「え、そうなの?」
事実に、マルグリットは尋ねる。
「そうだよ? ラフォンはまだ若手の演出家だったからね。社会勉強としてついてきたと言っていたかな」
すらすらとアンリは言った。成る程、ラフォンにも若い頃はあったのだよなぁ。
「ボクと叔父さんは少し年も離れているけれど、ボクに優しくしてくれた家庭教師の先生以外の一族の一人だよ?」
フランシスは自慢げに腕を組む。
「まさか、ここでこう繋がっていようとは……」
おどろきだね、と、アンリはマルグリットに声をかけた。大女優は一人言のように呟く。
「そうね。意外だわ……」
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