第五十六章 再会
やがて、馬車は城下町へと着いた。旅人を歓迎するかのように、町の入口にはヤシの木が植えられている。どこか穏やかな印象を覚えた。
町に入った直後、見た事のある馬車を見付け、驚いた。ローファ国の後宮の入口に置かれていた物と同じものだ。使者でも来ているのか? そう思った時、見知った猫が馬車から降りて来た。
「コテツ!」
思わず、声を張り上げる。俺の声に気がついたのか、コテツはおどろいて振り返った。
「シャルルか?!」
彼はこちらに近付いて来る。
「そうだ。久しぶりだなぁ」
コテツがここにいると言う事は──
「ポワシャオも来ているの?!」
前の垂れ布をめくり上げ、アイリスが顔を出した。
「はい、来ていますよ!」と、コテツは言った。「お嬢! アイリス様がいらっしゃいます!」
「本当に?」
ゆったりとした声と共に、馬車の扉が開き、ポワシャオが姿をあらわした。その首もとには、とんぼ玉のネックレスがかかっている。アイリスが送った物だろうか。
「ポワシャオ!」
と、嬉々とした声で、アイリスが馬車から飛び降りる。再会した二人は手を握り合い、額を寄せた。
「久しぶり、あなたからのネックレス、とても嬉しかったわ。届いてからずっとかけているの」
「ありがとう。私もよ、結婚式まで逢えないかと思っていたもの」
でも、と、アイリスは言った。
「どうしてここにいるの?」
するとポワシャオは少し俯き気味になり、
「私の婚約者に逢いに来たの。この国の第三王子なのよ」と、言った。「ハダ・アルマース様と言うの。どんな方なのか、少し不安だわ」
「大丈夫よ、私のまとう固い石を砕いたのはあなたよ」
きっと上手くいくわ、と、アイリスは続けた。
「そうだわ、同じ宿に泊まりましょう? ね、コテツ良いでしょう?」
「俺は構いませんが……シャルルの方はどうなるか」
コテツは俺を見る。話を聞いていたのか、垂れ布をめくると、オリヴィエが腕いっぱいに丸を作った。
「こっちも大丈夫だ」
俺は答えた。姫様が嬉しそうだ。
「馬車に乗る?」と、アイリスが聞く。いやいや、こんな汚い馬車に一国の姫君を二人も乗せる訳にいかない。「良いわよね、シャルル」
姫様、圧が怖いです。
「はぁ」
俺はそう言って、乗り込む二人を見ている事しかできなかった。
「ひ、姫様!?」
案の定、背後からおどろいたオリヴィエの声がする。
「ポワシャオ様久しぶりー」
フランシスが言うのがわかる。
マウロはなにも言わないのか? と、思い垂れ布をめくり上げると、うとうと櫂を漕いでいた。
「俺が先導するぞ」
俺は言い、手綱を握る手に力をこめた。
ロッコ国は、発達が進んでいるのか、レンガ造りの二階建ての建物が多く、このまま真っ直ぐ行けば王宮への道になる。
宿は、大通り沿いに位置していた。小さな国だが、来客は案外多い様子で、馬車二つ分のスペースのある宿屋が見つかった。
「交渉は俺がするぜ」
御者席から降りたコテツが駆けて行く。
どうやらコテツとポワシャオの二人旅らしい。ローファ国大丈夫か? 父王は娘を心配しないものなのだろうか。これが、王位継承権第一位のアイリスと、第三皇女のポワシャオとの違いなのだろう。
「大丈夫だ」
宿の店員を連れて、コテツが中から出てきた。豹とチーターの店員は、俺たちが全員馬車から降りた事を確認し、にこりと笑って、馬の手綱を持ち、馬屋へ引っ張って行った。
宿に入ると、虎の女将が受付に立っていた。
「お部屋は二階になります。部屋は、二名用と五名様用二つですね?」
「あぁ、そうだ」
と、俺は言う。すると女将は部屋の鍵を手渡し、
「鍵に付いた番号の部屋になります。ごゆっくり」
と、言った。
五番と、六番。二つ並びの部屋だ。
「ねぇシャルル」と、アイリスが囁いてくる。「二人用の部屋、私とポワシャオじゃ……だめかしら」
「隊長に聞いてみます。少々お待ちを」
俺は先に行ったオリヴィエに話しかけた。
「隊長、姫様とポワシャオ様が同じ部屋で止まりたいそうで……」
するとオリヴィエは、そう悟っていたかのように、
「始めからそのつもりだ」
と、答えた。俺は振り返り、
「大丈夫だそうです」
アイリスに伝えた。
「ありがとう。色々な話がしたくて」
ポワシャオを連れ、六号室に消えていった。
「俺たちも行くか」
コテツを伴い、五号室に入る。部屋の中は広く、五人でも十分にゆっくりと休む事ができそうだった。
「夕食はどうするんだ?」
オリヴィエがコテツに問うと、
「決めてないな……」
そんな事で良くここまでこれたな。
「夜市に行かない?」と、フランシスが提案する。あなた、飲みたいだけでしょう。「ポワシャオ様国から出たの初めてでしょ? ご飯とかも宿屋で食べたりしてたんだろうし」
「確かに夕食は全て宿屋だったな……」
コテツは悩むように俯いていたが、やがて顔を上げ、
「お嬢の社会勉強だ。行ってみるか」
と、言った。
こうして宵闇が近付く頃、俺たちは夜市へと出かける事になった。
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