表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第一部 世界大紀行編
54/813

第五十四章 メル・ハプナ皇子三

 雲の上を渡る夢を見た。ふわふわとして心地が良い。見下ろす地上は東京の景色で、そのまま落ちてしまえば、隼人に戻れるかのような気がする。飛び降りる事もできる。絵美、お前の顔が見たい。触れたい、できうるならば、口付けしてみたい。

 しかし、今は護るべき人ができてしまった。まだ、そちら側に行く事はできない……。

 ──俺は静かに目を開けた。床はふかふかとした布団で、目前には、泣きそうなアイリスの顔がある。俺はなにか悲しませるような事をしただろうか。彼女は俺が目覚めた事を知ると、

「シャルル! 良かった!」

 抱きついて来た。あれ? これいつもフランシスにやられてなかったか? 辺りを見回すと、銃士たちは皆いるフランシスの方に視線を移すと、彼はそれに気がついたのか、

「今回ばかりは姫様に譲ったよ」

 と、言った。

「ここは?」

 俺は起き上がる。脇腹の傷がまだ疼く。寝かされていたのは、天蓋付きの寝台で、クッションが端に山積みにされている。

「私の部屋ですわ」

 縁に腰かけたアージュが言った。

 確かに、先ほど入った部屋と同じものだ。そうか、俺はメルに刺されたのだ。

 日は傾き始め、俺がどれ程眠っていたかを物語るようだった。

「すみません、褥を──」

「大丈夫ですよ、気にしないでください」アージュは俺に触れた。「酷い傷だわ……メルは言っても聞かないだろうし、一度社会勉強として牢獄に入れてしまおうかしら」

 確かにその通りだ。ついでに刑罰も受けるべきだと思います。

 未だアイリスは俺にしがみついたまま、涙を流している。

「そんなに泣かないでください」

 思わず頭を撫でていた。

「生きてる、シャルル……」

 言葉になっていない。

「生きてますよ、大丈夫です」

「ごめんなさい、私の所為だわ……」

「違いますわ、アイリス様」

 と、アージュが言葉を継いだ。

「悪いのは我が子です。それに、そんな風に育ててしまった私にも罪があります」

 だから涙を拭って、と、言った。

「動けるか? シャルル」

 逆光で見えなかったが、その声はオリヴィエだ。

「なんとか……」

 俺が答えると、

「石の寝台より、絹の褥の方が傷は痛くないか」

「大丈夫だ、宿に戻ろう」

 だから肩を貸してくれ、と、俺は言う。彼は頷き、俺の脇に手を回した。起き上がると、やはり少し痛い。

「シャルル、本当に大丈夫なの?」

 アイリスが横で言った。

「大丈夫ですよ、元気百倍です」

 本当は冷や汗が背を伝ったが、俺は拳を作り、腕を振り上げた。宿には回復薬がある。それも目当ての一つだった。

 一歩踏み出してみる。少し痛みが走ったがさほどでもない。戦場では、こんなものは傷の一つにもならないだろう。

 アージュの部屋を出、門へと向かう。

「本当に平気か?」

 マウロが声をかけてくる。俺は小声で、

「まぁまぁだな……回復薬の力を借りるよ」

 と、言った。

「俺がスライムを潰しておいて良かったな」

「そうだな、ありがとう」

 やがて門まで辿り着くと、メルが腕を組み、こちらを見ていた。こいつまたなにかやるつもりか? オリヴィエの手がレイピアに伸びる。しかし、彼は申し訳なさそうに、

「すまなかった」

 と、言った。アージュに散々怒られたな。そうしてアイリスを見ると、

「アイリス、女を産め。俺か息子に嫁がせる」

 お互いの国の発展の為に、と、続けた。

「わかったわ。気の強ーい女の子を嫁がせてあげる」

 アイリスは答えた。そうして視線を前に向けると、歩き出した。


 通常の二倍くらいの遅さで宿に着くと、急いで俺は竹筒に入った回復薬を口にした。うへぇ、苦い。いや、良薬口に苦しだ。ここは耐えよう。傷が癒えて行くのがわかる。回復薬強し。

「大丈夫ー?」

 と、薬を渡したフランシスが言った。

「あぁ、良くなってきた」

「旅人用の回復薬だからね。下手な高級品よりも良く効くのさ」

 そうなのか。ヴェストを脱ぎ、脇腹を見遣ると、何らかの葉と包帯が巻いてある。それを取り去ると、傷の跡すら消えていた。再び言うが、本当に回復薬強し。

「あぁ、良かった……」

 傷のあった辺りを見、アイリスが泣き出しそうな声を出す。

「はいはい姫様泣かないでー、シャルルは死んでないから」

 フランシスは俯いた彼女の肩を叩いた。きっと俺よりもアイリスの扱いを知っている。

 すると、店主があらわれ、

「皆様ご無事でなによりです」

 と、料理を運んでくる。

「今日は薬を盛ってはいないな」

 オリヴィエが問い詰めると、

「いやですよ旦那、そんなもの入っている訳ないじゃないですか」

 店主は言う。

「では、今ここでこの料理を食べられるか?」

「えぇ、大丈夫ですよ。昨日は特別皇子さまの命令で……あっ」

「ほう」

 やっぱり薬盛られてたんだ。

「やはり外で食べるか」

 オリヴィエの言葉に、店主は慌て、

「本当になにも入っていません、折角作ったのですから食べてください」

「店主がここまで言っているんだ、隊長。宿で食べよう」

 マウロはオリヴィエの肩を叩く。

「まぁ、そうだな……わかった。貰おう」

「ありがとうございます……!」

 店主は皿を置くと、土下座するほど頭を下げた。

 夕食を終えると、再び二手に別れて眠る事になった。

 今日は沢山の出来事がありすぎて疲れてしまった。未だ微かに疼く傷を上にして、俺は瞼を閉じた。


お読みいただきありがとうございます。

レビュー、感想等よろしければ書いてくださると幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ