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にゃん銃士 ~姫を護るのはチートなにゃんこたち~  作者: 武田武蔵
第一部 世界大紀行編
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第四十五章 それぞれの生い立ち

 夕食は、スズキのフルコースのようなものだった。刺身に、ムニエル、香草焼き等々、内臓などはどうしたかは知らないが、見ただけで涎が出る。刺身は勿論、ムニエルは口に運ぶと仄かにレモンの香りがして旨い。同じく香草焼きは皮がパリパリとしていて食べ応えがあった。

「スズキはやっぱり美味しいわね」

 と、アイリスが言葉を紡ぐ。

確かにスズキは王侯貴族に振る舞われる程の高級魚だ。俺も食べた事がなかった。淡白で、どんな料理にも合いそうだ。

 丸窓を見れば、既に雨が降り始めている。

「今夜は荒れそうだな」

 マウロが顎に手を添える。さすが漁師の息子。

 食後、すぐに食器は片付けられ、

「今夜はお早めに、お部屋にお戻り下さい」

 と、あらわれた船長が言った。嵐に備えてだろうか。

「わかった。船長もお気を付けて」皆を代表してオリヴィエが言った。彼は辺りを見回し「じゃあ、皆各自部屋に入ろう」

「えー、恐い」

 と、フランシスが駄々をこねる。

「いい大人が、なに言っているんだ」

 オリヴィエは言った。俺の部屋に入ってこないか不安だな。いや、その前に、

「フランシス」と、俺は彼に声をかけた。彼が嬉しげに振り返る。違う、部屋に招くのではない。「この間貰った酔い止めが欲しいんだが……」

「船酔いが不安なら、誰かと一緒にいた方が良いよね!」

 やはり斜め上の答えが返ってきた。まぁ、良いかなぁ。襲われない事を祈ろう。

「俺の部屋に来るか?」

 と、俺は彼がもっとも望んでいるだろう答えを口にした。途端、フランシスの口角が引き上げられる。そうして、

「今、薬持ってくるからね!」

 と、彼は部屋に消えた。

 ふとアイリスを見ると、少し怯えているようにみえた。クォーツ国は山あいの国だ。嵐など、体験したことはないのだろう。

「姫様も、私の部屋で良ければいらっしゃいますか?」

 すまんフランシス。

 するとアイリスは子猫のような眼差しを俺に向け、

「……いいの?」

 と、言った。やっぱり不安だったんだ。

「人数は多ければ多いほど不安感は解消致します。フランシスもわかってくれるでしょう」

「ありがとう……」

 アイリスは俺の手を取った。その時、フランシスが数本の竹筒を抱え、嬉しげにリビングにあらわれた。

「持ってきたよー」

 と、声も弾んでいる。言わなければ。

「水を差すようで悪いが……姫様も一緒にいる事になった」

 すると彼は一瞬時が止まったようになったが、すぐにそれは笑顔に変わった。

「姫様も不安だよね! 一緒に寝よう」

 もふもふだよ? と、笑ってみせた。

「ありがとう、フランシス」

 アイリスは幾度も頷いた。

「じゃあ、部屋に行こうか。お休みー」

 フランシスが勝手に俺の寝室の扉を開く。

「おい、待てよ!」

 俺はオリヴィエとマウロを残し、フランシスたちを追いかけた。月が雲に隠れ、仄かな星明かりに頼った部屋は、いつもより薄暗く感じた。

「トランプは……できないねぇ」

 アイリスと共に寝台に腰かけたフランシスが言った。これから揺れるだろう船で、なんて提案をするんだ。

「お話でもしましょうか」

 備え付けの椅子に座り、俺は言った。

「どんな話?」

 アイリスは首を傾げる。

「生い立ちについてです」

 俺は答えた。

考えてみれば、見事なまでに皆育ちが違う。俺は田舎育ち、フランシスは貴族、そうしてアイリスは王族だ。普通に生きていれば、全く出逢う事のない面子だ。興味深い。

「誰から話す? 言い出しっぺのシャルルかな?」

 え、俺が最初? わかりましたよ、戻りかけている記憶を頼りに、俺は口を開いた。

「俺はマーシ村と言う田舎で育ちました。父親がかつてクォーツ国の銃士で、小さい頃からレイピアやマスケット銃の扱いを叩き込まれた」

「だから強いんだねぇ」

 と、フランシスは相槌を打つ。

「18歳になった時、こんな片田舎で収まるような器じゃないと父親から言われて、当時の銃士隊の隊長宛に書いた手紙を俺に持たせて旅に出したんだ。あとは四年間銃士隊にいる──こんな感じだろうか」

「お父様が銃士隊の隊員だったの?」

 と、アイリスは尋ねた。

「そうです。まぁ、俺も銃士になるべくしてなったと言うか……次はフランシス、お前だ」

「ボク?」と、フランシスは指で己を指し示す。「ボクはクォーツ国の貴族の生まれなんだけど、前国王の命日に生まれたとか、三毛猫のオスは不吉だとか言われてほとんど屋敷から出た事がなかった。出窓から見る城下町の子供たちを羨ましがっているボクを見て、母様が家庭教師をつけてくれたんだ」うっとりしたように彼は言葉を継ぐ。「その家庭教師がシャルルと同じように元銃士の、かつてレイピアの使い手とされた人物だった。銃士隊に憧れたのはそこからかなぁ。それから成人して、父様と母様に懇願して、銃士隊に入ったんだ。まぁ、みんなには良い厄介払いだろうと噂されてるけどね」

 姫様は? と、フランシスがアイリスを見る。

「私は──第一継承者として沢山の家庭教師に囲われて育ったわ。帝王学を叩き込まれたり、乗馬の訓練やレイピアの練習──レイピアについては初めての指南役がとても上手くやり方を教えてくれた所為で、四人程殺めてしまう事になったのだけれど……そんな所かしら」

 と、アイリスは苦笑した。雨の音が更に激しくなっている。

「キャ!」船が横に大きく揺れ、アイリスが俺の方へ倒れてきた。思わず受け止めると、「あ、ありがとう」

 と、礼を言われた。

「もう布団に入りましょうか」

 俺は言った。

「もっと話したいなぁ」

 寝台の縁に再び腰かけ、フランシスは言う。

「船酔いしたくないんだ。今だって危ない所なんだから」

 俺はきっぱりと言った。フランシスは少し不服そうだったが、やがて、

「──わかったよ」と、答えた。「で、どんな順で寝る?」

「姫様、俺、お前で良いんじゃないか?」

 俺は言う。いくら揺れても、一番奥ならばアイリスが寝台から転げ落ちる事はないだろう。

「わかった」

 そう言って、フランシスは立ち上がった。

 さっき言ったように、アイリス、俺、フランシスの順番で横になる。俺の帯びた熱に、アイリスは少し嬉しそうだ。

 こうして嵐の中、俺たちは眠った。



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