第三十八章 フルーツパンチってアルコール?
食事はスープやパンと言った案外簡易なもので、豪華な食事になれてしまった俺には、少し物足りないものだった。しかし思い出せ、銃士隊に入り、少し経った頃、どうしても金がなくなった時がある。飲み代に消えただけだったのだが。寝れいれば腹も空かないと、エタンと共にただただ寝て過ごしていた事があった。
その時と比べれば、ましな方だろう。
未だ鳴る腹を抑え、俺は食事が片付けられる様を目で追っていた。
しかし、給仕が運んできたデザートに、目玉が飛び出す所だった。切り分けたメロンの片方に、丸くくりぬいたメロンの果肉やスイカ、オレンジなどが炭酸水に浮いているフルーツパンチだ。これは美味しそうだ。
一口食べると、果実と甘い炭酸水が口の中に広がる。ぱちぱちとした炭酸の刺激に、それぞれの果実も食べ頃で、その味に、パンチがアルコールだと言う事も忘れ、いつまでも食べていたくなる。
「美味しい!」
子供のように、アイリスがはしゃぐ声がした。
「アルコールですから、あまり飲まれませんように」
と、隣に座ったオリヴィエが言う。
「え、これアルコールなの?」
アイリスが驚いたように声を上げる。
「そうそう。砂糖とか沢山入ってるからわからないよねぇ」
フランシスが同情した。
「確かにわからないな」
マウロが顎を撫でる。
こうして、フルーツパンチは皆の腹の中に収まった。
「俺はもう寝るわ」
と、俺は立ち上がった。酔いも回って気持ちが良い。
「もう寝ちまうのか?」
と、オリヴィエが言う。
「ちょっと疲れたんだ。それに、少し酔ってる」
俺は耳を掻いた。
「そうか……」隊長、そんな寂しそうな声出さないで下さい。「まぁ、眠れなかったら出てきて良いんだぞ」
「了解」
それだけ言うと、俺は寝室の扉を開いた。
部屋は月の光が射し込み、薄暗い。俺はブーツを脱ぐと、ベッドへ倒れこんだ。相変わらず太陽の匂いだ。眠気が近付いて来る。俺は布団を被り、目を閉じてみた。
こうしていると、己はまだ隼人ではないかと思えてくる。起きれば父は気難しい顔で新聞を読んでいて、母は朝食を作っている。飯を食べ終え外に出るといまだ外は寒く、マフラーがいるくらいだ。
そうしてバス停には、絵美がいる。
──下らないな。
そう思い、俺は寝台から起き出し、ブーツを履いて外へ出た。
「お、シャルル」
丁度皆でトランプをしていたようで、出てきた俺を見、オリヴィエが言った。
「やっぱり眠れなくて」
俺は苦笑する。
「まぁ、いいさ。ほら、フランシスの隣が空いている」
「ようこそー」
俺がソファに座ると、フランシスは笑って俺を迎えた。キャバレークラブじゃないんだから止めてほしい。丁度七並べをしていたらしく、フランシスは俺に己の手札を見せ、
「どうしようか」
と、聞いた。そんなもの俺にわかるか。と、思ったが、
「これは止めておいた方が良い」
と、思わず示してしまった。彼が持っている手札は俺が示したクラブの八と、ハートのクイーン、同じくハートの四だ。ハートの列は上手い具合に揃い、四を置くことができた。
次の番のオリヴィエがダイヤの一を出す。これでダイヤの列は終わった。
「誰だよクラブ止めてんの」
と、マウロがスペードのジャックを出した。背伸びをして、呟く。はい、俺たちです。
アイリスはクラブの一を出し、
「やった! 上がり!」
一人で上がった。本当に勝負運が強いな。
となるとあとは……
「クラブをここで出そう」
俺がアドバイスする。ハートはジャックまで出ている、これならば他の二人がクラブを並べる前にクイーンを置くことができる。
「やっぱりお前かぁ」
「ふっふっふ」
マウロの声に、フランシスがニヤニヤと笑う。その横で、オリヴィエがクラブの九を出していた。
「あー、畜生」
クラブの十を出し、マウロは天を仰ぐ。
フランシスの番、あとはハートのクイーンを出すだけだ。
「上がりだよー」
クイーンを置きながら、フランシスは言った。
「まだ勝負はついてねぇ、俺と隊長、どちらかが上がるまではな」
一応言っておこう。格好付けているが、単なるビリ決定戦だ。
まず、オリヴィエがダイヤのキングを置いた。彼の持つ手札は二枚、マウロの手札は三枚だ。それを見た彼は、
「やめだ、隊長。あんたが上がりだ」
そう言って、マウロはオリヴィエから手札を貰い、並べられたカードと共に混ぜた。
「どうする? ポーカーでもやるか?」
トランプをきりながら、マウロは尋ねる。
「そうだな」
ポーカーなど久しぶりだ。胸が踊った。
こうして遅くまでカードをし、新たな船旅の一日が過ぎていった。





