第百九十章 セドリックの年齢
「それにしても、なんだかきな臭い国だな、ここは」
と、コテツが言った。
「きな臭い?」
おうむ返しに、俺は言う。
「国王の突然の崩御に宰相の暗殺……殺して殺しあっているようにみえる」と、彼は肩に下げた鞄から薬草麦酒を取り出し、「──まぁ、飲めよ」
「ありがとう」
あまり酒の進む話ではないと思うが、薬草麦酒の匂いに堪えきれず、俺は瓶の蓋を開けた。数週間ぶりに飲む薬草麦酒は、やはりキャットニップのような匂いがする。良い匂いだ。
「シャルル、本当に大丈夫なのか?」
「ま、まぁ、大丈夫だぞ?」
再び腕を回して見せる。今度は酒が入っているからか、痛みはほとんどない。
「なにかあったら言えよ? できる限り助けてやるからな」
「ありがとう、コテツ」
俺はコテツの頭を撫でた。
「同じ猫に撫でられるのは、なんだか変な気持ちだ」
と、コテツが照れたように頭を掻いた。
やがて、夜も更け、ゆっくりと飲んでいた薬草麦酒も互いに飲み終えたあと、コテツは寝台から飛び降り、
「じゃあな、シャルル! 明日逢おうぜ!」
と、言って去っていった。
嵐のようにきて、嵐のように去っていったな。俺は小さくため息を吐いた。その時、
「シャルル、入っても良いか?」
セドリックがあらわれた。手には盆を持ち、なにやら料理のようなものが乗っかっている。
「どうした?」
俺は首を傾げる。
「結婚式が伸びてしまったからな。披露宴で振る舞われるはずだった料理が関係者に回ってきたのだ。勿論銃士隊にも配られた」
今頃喜んでいる事だろう、と、彼は言った。そうして寝台横に置かれた机に盆を置いた。ローストチキンのももの部位と、ソースのかけられたローストビーフ、そうして簡単なサラダが一皿に乗っていた。
「これは豪華だな……」
思わず唾を飲む。
「これをもう一度作り直すのだぞ? クォーツ国の財源はかなり良いと言う事だ」
セドリックは腕を組んだ。
「食べて、良いのか?」
考えれば、昼間はなにも食べていない。すっかり腹が減っている俺は、上目遣いに彼を見た。
「あぁ、良いぞ」
「セドリックは食べないのか?」
俺が聞くと、
「なんだ、一緒に食べたいのか?」
などと言って口角を吊り上げる。
「食卓は多い方が良い」
俺は言った。
「実は俺も食べてはいないのだ。一緒に食べるか」
待ってろよ、そう言って、セドリックは扉の向こうへ消えていった。
しばらくして、同じ盆を持ったセドリックが部屋へと入ってきた。彼は俺の食事が置かれている机に己の盆も置くと、どこからか椅子を持ってきて腰かけた。
俺も寝台に座り、向かい合う形になる。
セドリックの銀の髪が、月光にきらきらと反射する。
「そう言えばセドリック、お前は幾つなのだ?」
不意に思い立ち、彼に年齢を聞いてみる。
「幾つに見える?」
ローストビーフを切りながら、彼は含んだ笑い声を出した。
「いっても40くらいか?」
「残念」
と、セドリックは髪に隠れた耳を見せた。先の尖ったそれは、エルフそのものだった。
「まさか……」
「今年で158歳になる。元は故郷で野菜を作っていたが、出世したくて、王都に出てきたんだ」
「と、言う事は魔法が存在していたも知っているのか?」
俺もつられてローストビーフを切り、口に運ぶ。口の中でとろける、中々良い味だ。
「魔種と言うモノがあってな。それの絞り汁を使って魔道士たちは魔法を使っていたな。いつの間にか見なくなってしまったが……」
と、彼は言った。昔読んだ本の通りだ。
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